第198話 地球英雄篇2⑩ エピローグ 夢の終わり〜今あなたと一緒に

 * * *



 夢を、夢を見ていた。

 不思議な夢だった。


 夢の中で、自分は大人になっていた。

 そして、子供になった自分自身を見上げては、毎日泣いてばかりいた。


 逢いたかった。

 誰かに。

 焦がれるほど強く。

 逢いたいと願っていた。


 私はひとりぼっちだった。

 ひとりは慣れていた。

 でも大人になった私はそうではなかった。

 毎日イライラカリカリしていた。


 面白い子が現れた。

 他の子達より強い子だった。

 少しだけイライラが消えた。


 面白い子がまたきた。

 もう少し長く遊んでみる。

 ああ、大丈夫かな。

 夢の中だと手加減できない。


 大きな水たまりを見ていた。

 灰色の空と灰色の水たまり。

 なぜかこの向こうに逢いたいヒトがいると思った。

 でもどうやって行こう?

 そうだ、あのお人形を借りよう。


 逢いたいヒトはボロボロだった。

 逢いたいヒトが私を呼んだ。

 でも彼の名前が思い出せない。

 あなたは誰……?


 逢いたいヒトを傷つけてしまった。

 私はずっと泣いてばかりいた。

 面白い子が慰めてくれた。

 彼女のことが大好きになった。


 面白い子と一緒に出かけた。

 見たこともない異世界の街で遊んだ。

 すごく楽しかった。

 でも、誰かが呼んでる。

 行かなくちゃ。


 夢の中で別の誰かの夢を見ていた。

 とてもとてもつらい夢。

 悲しくて恐い想いが溢れてくる。


 とまらない、とめられない。

 このままではたくさんのヒトを傷つけてしまう。

 誰か私をとめて。


 風のヒトが助けてくれた。

 大人になった私は、大きな水たまりを渡って。

 小さな私を助けに出かけた。

 逢いたかったヒトが戦っていた。

 どうしてあのヒトはあんなに一生懸命なんだろう?


 空から恐ろしいモノが降ってきた。

 このままではたくさんのヒトが死んでしまう。

 逢いたかったヒトがみんなを守ってくれる。

 私もがんばらなくちゃ。


 みんなを守るためにまたお人形を借りた。

 少し焦げてるけれどキビキビ動いてくれる。

 異世界の街で異世界のヒトたちを助ける。

 戦うのは嫌いだけど、誰も死なせたくなかった。


 やっつけてもやっつけても。

 助けても助けても。

 全然終りが見えない。

 魔力はまだ平気だけど、心が折れそう。


 光の雨が空から注いできた。

 街中の恐いヤツらを全部やっつけてしまった。

 終わった?

 そして私は、信じられない光景を目にする。


「黄金の、龍……?」


 私は嬉しくなった。

 逢いたかったヒトだ。

 あんなにボロボロだったのに。

 今ではあんなに元気そう。

 行こう。風のヒトと一緒にあのヒトのところへ。


「すごい……なんて綺麗なの」


 ため息が出る光景だった。

 私が知る空にはふたつのムートゥがあるけれど。

 異世界の空には太陽がみっつもあった。

 未だかつて見たことのないこの世の果ての光景が広がっていた。


 風のヒトが怯えている。

 逢いたかったヒトが消えちゃうって。

 そんな、せっかく逢えたのに。


 私は力いっぱいあのヒトの名前を叫んだ。

 真っ白い光の中に、あのヒトは消えてしまった。


 

 *



 夢を、夢を見ていた。

 異世界で眠りながら、あのヒトを待つ夢。

 辛いこともたくさんあったけど。

 みんなを守ることができてよかった。


 優しい風が頬を撫でていく。

 胸いっぱいに息を吸い込む。

 ああ。懐かしい匂いがする。


「セーレス」


 その声にゆっくりと目を開く。

 逢いたかったヒト。

 私のためにボロボロになったヒト。

 私のために何度も傷ついたヒト。


 そして、みんなのために戦ったヒト。

 みんなを守るために立ち上がれるヒト。 

 私の大好きなヒト。

 あなたは――


「おはよう、タケル」


 大人になった私が泣いてる。

 風のヒトが微笑んでいる。

 風の子がニコニコしてる。


 タケルが私を抱きしめる。

 私も彼を思い切り抱き返す。


 私の長い長い夢の終わりは。

 幸せと輝きに満ちていた。


【ピカレスク・ニート〜地球英雄の章・完】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る