第117話 プルートーの鎧④ 理不尽VS超理不尽〜魔王の鉄拳
*
「静かすぎるな。まだ始めてないのか……?」
院内は不気味なほど静まり返っていた。
銃声も悲鳴も未だ聞こえては来ない。
顔に火傷のある男率いるテロリストたちがいる場所は、小学校跡地の中でも一番上等な部屋だ。
『G.D.S』の事務室を設営するはずのその場所はもともと校長室であり、その部屋の片隅に『G.D.S』メンバー全員が手を後ろ手に縛られた状態で、立錐の余地なくギュウギュウに押し込められている。
代表者であり詰問を受けていた佐和子のみが、火傷の男の足元に跪きうなだれている。それ以外の『クリムゾン・ジハード』のメンバーは全員壁に張り付き、銃を構えたりそわそわしたりと明らかに集中力を欠いた様子だった。
「おい、誰かもう一度命令を伝えてこい。もしゴミ掃除をサボってやがったら制裁しろ。三十分後にはここの撤収を――」
「ちょっと待ってちょうだいッ!」
顔を上げた佐和子は決然とした表情で火傷の男に縋った。
「お願いよ、あなた達の言うことには大人しく従うわ。もう逆らったりなんてしない。だからせめてここのヒトたちには手を出さないで――!」
佐和子にしては苦渋の決断だった。
医師として患者を見捨てること、テロリストに従うこと。
どちらも絶対に許せないことだが、それでも患者さえ助かればいい。
「ほう、従順になってくれれば俺たちも手間が省ける。ひとつ確認するが、それはおまえ個人ではなく、他の連中の総意だと考えていいんだな?」
「もちろんよ。私達はせめてここのヒトたちが殺されないで済むならそれでいい。みんなもそれは理解しているはずよ」
佐和子が『G.D.S』メンバーを振り返れば、全員青い顔をしながらコクコクと頷いていた。
適切な医療行為はできなくとも、生きてさえいれば助かるチャンスはある。
日本やアメリカも自分たちを助けようと動き出しているはず。
ここの怪我人を発見すれば、他の『G.D.S』メンバーが必ず治療に来てくれるはずだ。
「そうか。いやはや、恐れいった。どこまで脳天気なんだおまえらは。ここの連中は誰一人として生かしておくわけがないだろう?」
心底イヤらしい笑みを浮かべて、火傷の男は喝采を送る。
最初から処刑は決まっていたのだと、手を叩いて宣言をする。
「そんな……それは私が患者も一緒に連れて行くって言ったから――!」
「俺達の情報を他所でしゃべる可能性がある以上、最初から全員の処刑は決まっていた。おまえが自分のせいで殺されたと勘違いすれば従順になるかと思ったんだがもうやめだ。さっきからどうも嫌な予感がする――おい、もう全員で行け。ここは俺だけでいい」
「ダメッ、やめなさいッ!!」
佐和子は縛られたまま立ち上がるなり、ドア近くの男へ猛然とタックルした。
「ムゥザロンッ!?」
「行かせない! どうしてもここのヒトたちを殺すというなら、私という身代金をドブに捨ててからになさいッ!」
「そうか、じゃあ望み通りにしてやる――!」
ドアの前に立ち塞がる佐和子に火傷の男が銃を向ける。
「見せしめだ。他の『G.D.S』メンバーもよく見ておけ。おまえたちの代わりなどいくらでもいるんだ。この女の死に様を目に焼き付けて思い知れ――!」
腰を浮かせかける者、顔を背ける者、悲鳴をあげようとするもの――だが『G.D.S』の誰も佐和子を助けることはできない。
そして無常にもトリガーが引かれ――カチンッ、と撃鉄が下ちる音だけが室内に木霊した。
「あ? 不発……不良弾薬だと?」
カチカチっとトリガーを引くが、それだけだ。
スライドを引き、ブレット一発二発と脱砲。
すぐ様トリガーを引くが、結果は同じだった。
「悪運が強い女だな」
仲間にハンドガンを押し付けると、火傷の男はナイフを引き抜く。
一瞬の躊躇いもなく、その切っ先は佐和子の胸に吸い込まれた。
「きゃあああああッ――!」と他の女性スタッフが叫び、佐和子はガクリと膝をつく。
「え?」
佐和子はギョッとながら呆けた声を上げた。
痛みはない。胸にナイフも刺さっていない。
見上げてみれば、凶刃は空中で停止していた。
「何、だッ、このッ、ふんッ、おおッ!?」
火傷の男が顔を真っ赤にしてナイフを突き入れようとする。
だが、押そうが引こうがナイフは空中に固定されたままビクともしない。
そのうち、男はナイフを天井高くへと掲げた。
いや違う。彼の意に反してナイフが勝手に持ち上げられたのだ。
全員が驚愕する中、ボキン――と、鈍く不快な音がした。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ――ッ!!」
絶叫。誰もが耳を塞ぎたくなるほどの声で男が叫ぶ。
ナイフを持っていた右手――それが皮一枚で繋がっている。
手首は完全に押しつぶされ、プラプラとあらぬ方を向いていた。
室内は騒然となった。
先程まで、アレほど威厳と恐怖を振りまいていた火傷の男が、顔をクシャクシャにして泣き叫んでいる。
右腕を挙手したまま、左手で顔を覆い、地団駄を踏みながら身体を引こうとするが、潰れた手首は全く動かない。
無理をすれば千切れることは必至で、藻掻けば藻掻くほど激痛が走り、恥も外聞もなく泣き喚いていた。
訳がわからない。一体何がどうなっているのか――
「真希奈、ステルスシールド解除」
『了解、タケ――マスター』
佐和子を始めその場にいる全員が目を見張った。
瞬きをした瞬間、何もない空間から突如として男が現れたのだ。
異様、としか言いようのない男だった。
全身に装甲を纏い、顔には悪魔を模したような鬼面を付けている。
その鬼面の男が、『クリムゾン・ジハード』のリーダーである火傷の男を拘束している。
否、拘束などとはとても言えない。
鬼面が掴んでいるのは火傷の男の右手首のみであり、だが骨も肉も断つ程の力で握られているが故に、結果として動きを完全に封じてしまっていた。
『姿を晒してしまってもよろしかったのですか?』
「恐怖の対象は目に見える形の方がいいだろう。無差別に人質に当たり散らされる可能性を廃したまでだ――」
「あがッ――がががががああああッッッ!」
鬼面の男がグワっと火傷の男の顔を鷲掴みにする。
果たしてそれはどれほどの膂力なのか。
体格のいい成人男性を腕一本で持ち上げ宙吊りにしている。
そしてそのまま『クリムゾン・ジハード』の男たちに向けて無造作に叩きつけた。
室内で一塊になっていた三人が、ボーリングピンのように吹っ飛ぶ。
明確な敵対行動に、しばし戸惑っていたテロリストたちも一斉に銃を向ける。
だが、トリガーを引けども銃火器は一向に弾を発射しない。
一人が無線で応援を呼んでいるようだったが、それも無駄だった。
すでにして、敷地内にいる他の『クリムゾン・ジハード』のメンバーは全員無力化されていた。
よしんば意識があったとしても、自力では歩けないほどの重症を負わされている。
ついでに言えば病院内はこの部屋も含めて通信が全て遮断されている。彼らは今密室の中、丸腰でライオン――、いやさ恐竜と一緒に閉じ込められている状態なのだ。
銃器類が一切使えないと知るや、テロリストたちは各々ナイフを引き抜きいて襲いかかった。鋭利な刃先のコンバットナイフを、鬼面はあろうことか手のひらで受け止め――握りつぶした。
「あいいいいいいいいいいいぃぃぃ――!!」
男の手を巻き込んで、ナイフが飴細工のように変形する。
おぞましい血の花になった手を見て、それ以外の全員が思わず足を止めた。
戦うための訓練を受け、痛みに対する耐性もあるはずの仲間が、無様に泣き叫ぶその様が恐怖を伝播させている。当の鬼面は、鮮血まみれになった己が右手をじっと見つめいてた。
「おい、これって――」
『現在の推定握力600キロオーバー。本気で握り込めば鉄パイプも寸断できます』
「加減が難しいな。出力をコントロール出来ないのか?」
『できますが敢えてしませんでした。愚かしくもタケ……マスターに刃を向けたのです。当然の報いです』
「真希奈、一度だけしか言わないぞ。戦いの最中に私情は捨てろ。ただ僕の言葉にのみ忠実に従え。命令だ」
『命令……。タケ……マスターの言葉にのみ忠実に……。承知しました。どうぞ真希奈を貴方様の所有物として如何ようにも扱ってください』
「う、うん。なんか変だな……?」
驚愕と戸惑い、そして恐怖。『クリムゾン・ジハード』を覆い尽くすそれらの感情。
だが日本語のやり取りがわかる『G.D.S』の邦人メンバーだけはポカンと口を開けて、ことの成り行きを見守っている。
そして室内では、一方的な戦いが始まった。
テロリストたちは自らを鼓舞するため、口々に獣のような声を上げ、素手やナイフで踊りかかった。
鬼面――タケルが一歩前に出る。
絶妙なタイミングと速度で距離を詰められた男は、文字通り二の足を踏んでつんのめる。そこへ――
「ごぼぉ……!」
突き出されたタケルの拳が、相手の胸骨を陥没させる。
男はそのまま、壁をぶち抜いて屋外まで吹き飛んでいった。
「真希奈、まだ強い。出力の調整を」
『警告。現在の出力が最低限度の
「――っち。対人用の戦闘出力がこんなに上昇するなんて。面倒だが『後の先』でいくか」
『後の先』とは。敵の攻撃を敢えて受け止めて、死に体となった相手に応じ技を叩き込むことである。
ナイフはもちろんライフル弾であっても、今のタケルには傷一つつけられない。
ましてや素手など、殴った方が骨折するだけだ。
ダメージを気にせず、たっぷり余裕を持って敵の攻撃を見極めることができる。
「うあああッ!」
顔面めがけて繰り出される拳。
タケルはそれを腕でガードする。
ガンッ、と鈍い音がして相手は悶絶。
苦痛に歪むその顔にタケルは鋼の張り手を叩きこむ。
黄ばんだ前歯を撒き散らして男は床に沈んだ。
次の相手は床の男を乗り越え、鉄パイプをメチャクチャに振り回してくる。タケルの動体視力は、本来なら目の速度を超える鉄パイプの軌道を正確に捉えていた。
右手が動く。僅かにブレたようにしか見えないが、気がつけば鉄パイプが手錠のように男の両腕をぐるぐる巻きにしていた。肉に食い込む鉄の感触に悲鳴を上げかけた次の瞬間、男は天井に突き刺さっていた。
「動くなッッ――!」
半数のテロリストを倒し終えた時だった。
火傷の男が『G.D.S』メンバーの一人を人質にしていた。
真っ青な顔でことの成り行きを見守っていた女性看護師にのしかかり、その白い首筋には血まみれの刃を充てがっている。
「麻由美!」
大乱闘に目を奪われていた佐和子が叫ぶ。
麻由美と呼ばれた女性は、後ろ手に縛られた状態で背後から伸し掛かられ、苦しげなうめき声を上げている。火傷の男が少しでもナイフを動かせば大出血して絶命するだろう。
「おい、そこのイカれた格好の男! てめえはこいつらを助けに来たヒーロー気取りなんだろう? こうなったらどうするんだ? 手も足も出ないよなあ?」
激痛によるものか額にじっとりと脂汗を浮かべながら、火傷の男は勝利を確信してほくそ笑んでいた。だがタケルは容赦なく告げる。
「――いいぞ。やってみろ。ただしおまえも同時に死ぬ」
突然クルド語で話しかけられ、火傷の男が目を剥く。
タケルは人質など目に入っていないかのように、無造作に距離を詰めた。
「僕が何の保険もかけずに人質を前に戦闘を始めると思ったか。彼女の喉に刃を突き入れた瞬間、おまえは終わる」
「わ、訳のわかんねえハッタリかましやがって――そんなことで俺がビビるとでも思ってるのか!?」
簡単なことだった。わずか数センチ分、腕に力を込めるだけだ。
だがその途端、男の左腕が上腕部の半ばからボトリと落ちた。
「あ――」
「きゃあああああああああああああああッ――!!」
如何な血を見慣れた医者や看護師でも、自分の頭の上に切断された腕が丸ごと落ちてくれば悲鳴を上げる。火傷の男はただ呆然と、ナイフを握りしめたまま転がる己が腕を見つめていた。
『――【アクティブ・マイン】の発動確認。警護対象に纏わせた『
「使えるなこれ……。おい、僕はちゃんと警告したからな」
切断面から夥しい出血をし、火傷の男はその場に顔面から崩れ落ちた。
タケルは、鬼面の奥から鋭い眼光を送りながら残りのテロリストたちを振り返る。
「さて」
一歩を踏み出す。
残ったテロリストたちは完全に腰が引けていた。
口々に「なんなんだお前は!?」「何故俺たちの邪魔をするっ!」などなど、半狂乱になって叫んでいる。
タケルは真希奈による同時翻訳でそれらを耳にしながら返答する。
「別にな――僕はおまえたちの神を否定するつもりはない。でも、神を騙って自分たちの悪業を正義と呼ぶな。悪業は悪業、罪は罪として堂々と背負え。じゃないと――」
メキメキメキ――ッ、と握りこんだ拳が軋む。
テロリストたちが真っ青になる。
「僕みたいな『魔王』に死ぬほどぶん殴られるんだよ」
冷たい装甲に包まれた拳を、タケルは無慈悲に振り下ろした。
*
室内は死屍累々の有様だった。
とはいえ、テロリスト達は全員生きている。
タケルが目一杯手加減をしてかろじて息がある、という状態だった。
一部を除き、『G.D.S』のメンバーの行動は迅速だった。
拘束を解かれるやいなや、すぐさまテロリストたちの救護活動を始めたのである。
(自分たちを人質にしていた悪党も助けるのか……)
人種、宗教、国籍を問わず適切な治療行為を行うのが彼らの信条。
そこには悪人と善人の区別はない。さすが、覚悟を持って紛争地域に来ているだけのことはある。
そのうち、壁際で救護活動の様子を見つめるタケルの前に、ひとりの日本人女性が歩み寄ってくる。テロリスト相手に啖呵を切っていた佐和子女史だった。
「まずはお礼を言っておくわね。ありがとう助かったわ」
「ああ」
「でも――」
佐和子が手を振りかぶる。タケルはスッと小指を伸ばしてその手を制した。
『な、何をするのですかこの女は! お礼を言っておきながら恩人を殴ろうとするなんて!』
「いや、いい。真希奈、僕にかけた『アクティブ・マイン』を切れ」
『タケ――ゲフンゲフン、マスター、本気ですか!?』
「切れ」
『畏まりました……』
一見何も変化は見られないが、タケルには万が一にでも完全な不意打ちを食らった場合に備え、火傷の男の腕を切り落としたのと同じ魔法が付加されていた。
魔素選択
そのまま佐和子が殴っていたら大変なことになっていただろう。
「ふんッ!」
自分の拳が痛むのも構わず、彼女はタケルの顔面を殴りつけた。
そして案の定、悲鳴を上げて蹲る。
『愚かな。傷一つ与えられないのをわかっていながら何故。真希奈には理解できません』
「おまえがエアリスに嫉妬して殴りつけたいのにカラダがなくてできないから、手当たり次第そこら中に炎の魔法を撒き散らす時の気持ちを想像しろ」
『ものすごく理解できました! でもタケ、マスターに手を出すのは許せません!』
「この――!」
佐和子女史は涙目になって立ち上がると、鬼面に顔を寄せ、その奥の瞳をじっと覗き込んだ。
「助けてくれたことには感謝する! けどやり過ぎよあなた! ちょっと強いからって調子に乗ってるんじゃないわよ!」
「耳が痛いな。返す言葉も無いよ。なにせこれがこの鎧をつけての初戦闘だからな」
「ふん。正式に抗議してやるわ。あなたどこの所属か言いなさい。アメリカ? それとも国連かNATOのどこか?」
「それについてはノーコメントだ」
「そんなわけにはいかないわ。見たことも聞いたこともないけど、どうせこんなパワードスーツを作れるのはアメリカあたりでしょう?」
「違う。僕はどこの組織にも所属していない。どんなに調べても無駄だぞ」
「…………あなた、まさかまだ子供なの!?」
佐和子の瞳が見開かれる。
これでも数多くの患者と接しているのだ。
声を聞いただけでも大体の年齢がわかってしまう。
「さあな。とにかく僕はあんたらを心配するとある人物に頼まれただけだ。どうか助けてやってほしいってな」
「まさか、それって百理――」
佐和子がいいかけたとき、『ピーッ!』と、けたたましい警告音が鳴り響く。
『当地区へ向けて高速接近中の航空機を感知。通信を傍受。どうやら周辺地区の爆撃を行うようです』
「バカな――今このタイミングで市街地を爆撃だと!?」
『G.D.S』メンバーが人質になっているというニュースは世界中を駆け巡っている。にも関わらず人質を巻き込む可能性も考えずに無差別攻撃を行うとは。
驚くタケルに、佐和子女史は冷めた表情で言った。
「ここではそんな倫理観は通用しない。結局はあのテロリストたちと同じ――自分たちの利益が優先なのよ。例え民間人を何十人と巻き込んでも、テロリストを一人始末できれば御の字。まったく、あなたのせいで地下の防空壕に運ばなきゃならない重傷者が増えたじゃない」
痛めた手をプラプラさせながら、佐和子は踵を返す。
タケルは急ぎその背に問いかけた。
「その防空壕に入れば安全なのか?」
「さあ、どうかしらね。多分九死に一生ってレベルよ。あなたも、ぼさっとしてないで連中を運ぶのを手伝ってちょうだい。力自慢なんでしょう?」
「悪いがそれはあんたらに任せる――真希奈」
『はい、タケ……マスター』
「タケマスター? それがあなたの名前なの?」
『失敬な! タケ……、マスターにはちゃんとしたカッコいい名前があります! 今のは言葉の綾です! 本当は真希奈だってこんな名前で呼びたくなんてありません! ですが、真希奈と違ってマスターには隠さなければならないお顔と立場があるから……!』
「真希奈、もういいから。それよりも今度は初の空中戦闘だぞ。覚悟はいいか?」
『真希奈が今の真希奈になってから自主的にフライトシュミレーションは練習しています。合計で1200時間分です。あと参考までに『トップガン』と『ステルス』、『アイアンマン』を見ました。とても参考になりました!』
「僕も全部見たぞそれ。『アイアンマン』は3まで見たな。……まあなんとかなるか」
「ちょっと、嘘でしょ? なんの冗談!?」
鬼面の頭部から深緑のフレアが溢れる。
一瞬にしてタケルの全身は風に包み込まれ、ふわっと浮かび上がった。
「地下防空壕に避難してろ。いいな?」
「あなた、どうするつもり!?」
「邪魔な爆撃機を追っ払ってくる」
天井を突き破り、タケルが弾丸のように飛び去っていく。
あっという間に青空の中に消えていくのを見送ったあと、佐和子はようやく正気に戻る。あのクソテロリストどもと、そして患者を全て地下室に運ばなければ。
最後にもう一度だけ、穴の開いた天井を見上げると、遥か彼方から遠雷のような爆発音が聞こえ始め、佐和子は急ぎ救助に取り掛かるのだった。
【プルートーの鎧編】了。
次回【暴虐と再会の空】編に続く。
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