第88話 人外魔境都市⑤ 解決と協力の朝~借金だけが残りました

 *


「にじゅうおく……、知らない単位だな。どれほどの額なのだ?」


 日付が変わる時刻に帰宅した僕は、机に突っ伏して眠るエアリスに申し訳なく思いつつ、その肩を揺すって起きてもらった。そして、仕事先で大きな失敗をしてしまい、借金を背負うことになった旨を告げた。


 正直怒られて愛想を尽かされることすら覚悟したのだが、彼女は「そうか」と言っただけで僕を許してくれた。


「えっと、20億だぞ。正直って普通じゃ絶対返せない金額なんだぞ?」


「私と貴様がいれば不可能なことなどない。どのような問題も必ず解決する。それよりも借金ごときでそんなに狼狽えた顔をするな。私は今のような生活でも十分満足だからな」


「おお……」


 眩しい。そしてなんてデカイ器の持ち主なんだエアリスさんは。

 さっきの百理ではないが、思わず敬服してしまいそうになる。

 男を立て、褒めそやして伸ばし、失敗にも寛大。

 エアリスってマジすげえ。


「そ、それでさ、実はもうひとつ告白というか、お願いがあるんだけど……」


「なんだ、先程から口が重い様子で。なんでも申してみよ」


「えっと、こんな夜中に大変申し訳無いんだが――」


「タケル~、お話は終わりましたかしら。お外は寒くて私もう嫌ですの~」


「失礼します」


「――おい! まだ待ってろってば!」


 このとき、初めてエアリスの笑顔が凍った。

 話を通すまで待機してろって言ったのにこいつら――!


「誰だ、貴様らは……!?」


 見知らぬ女がふたり。しかも深夜の来訪。

 エアリスは僕をかばうように戦闘態勢を取る。

 ヒュオオオオオオオオ――っと室内に風が奔る。


「まあすごい。意志力だけで風が発生していますわ。夏はエアコン要らずですわね!」


「カーミラ様、この場ではあのご婦人を挑発するのはお控えください。タケルが困っております」


「タケル、この無法者たちは何者なのだ! なにゆえこのような者たちを私達の家に招き入れる!?」


 借金の告白は余裕で許してくれたのに、カーミラたちを連れてきたことは絶許のエアリスさんだった。


 ちなみに僕とエアリスの会話はすべて魔族種の言語で行われている。

 カーミラたちは会話のタイミングがわからないので焦れて入ってきたのだろう。


「いや、仕事の行きがかり上知り合ったんだけどさ、実はこのふたりの家が壊れちゃって。さすがに外に放っておくことはできないから、今夜はここに泊めたいんだけど……」


「ならばどこぞの宿泊施設にでもやればいいではないか! ここは貴様と私だけの――!」


「まあ、ジャパニーズTATAMIですわ。写メしておきましょう。でもこれって汚くないかしら?」


「畳には殺菌作用があると聞きます。細かなチリも見当たりません。掃除は完璧のようですね」


「じゃあ遠慮無くお邪魔しますわー。あ、湯殿はどこかしら」


「カーミラ様、このような木造アパートには普通湯殿はありません」


「嘘、お風呂もないの!?」


「いえ、誤解なきよう。湯殿のような大きな湯船がないだけです」


「なーんだ、それくらいなら目をつぶりますわ。もう今晩はシャワー程度で我慢しましょう。あ、着替えはあなたのを貸してくださいます?」


 こいつら、エアリスのこの険悪な雰囲気が伝わらないのか!?

 ずかずかと六畳一間に上がり込んで好き放題言いやがって!


 すると何を思ったのか、カーミラがエアリスにスススっと近づき、その胸を触った。むにょん、というか、ふにょん、タシタシといった感じで。


「――ッ!? そ、そなた何を――!」


 自分の胸を掻き抱きながらザザッとエアリスが後ずさる。

 カーミラは手をワキワキとさせて胸の感触を反芻していた。


「むう。私より大きい……。下着姿でタケルに迫った時、反応が薄かったのも頷けますわね。これ以上成長する余地がないから悔しいですわ」


 カーミラは唇を尖らせながら拗ねた様子でブーたれていた。

 エアリスは額に綺麗な青筋を浮かべて僕を振り返る。


「タケル……、この無法者たちは手打ちにしてよいのか?」


「頼む、やめてくれ。このアパートが消滅する」


「私がこのようなならず者たちに負けると思っているのか!?」


「いやいや、負けはしないが、勝つのも難しいと思うぞ」


「そんな……!」


 エアリスは明らかに傷ついた顔した。信じていたものに裏切られたとでも言うような表情だった。悔しそうに下唇を噛み締めたあと、突然カーミラとベゴニアを指差して彼女は叫んだ。


「誰、貴様!」


 突然の日本語に、眉根を寄せて顔を見合わせるカーミラとベゴニア。

 って言うか今真夜中なんですけど……。


「タケル、この子は何が言いたいんですの?」


「悪いな。日本語はまだ勉強中なんだ。多分おまえたちは誰だって言いたいんだと思う」


「まあ、これは失礼をいたしましたわ。私、カーミラ・カーネーション・フォマルハウトと申します。どうぞよしなに」


 カーミラはボロボロのバスローブにベゴニアの上着を羽織っただけの格好だ。にも関わらず、それが上等なドレスに見えてしまうほど、完璧な所作とオーラを纏った挨拶だった。育ちの良さってこういうときにわかるよね。


「カーミラ様の従者兼秘書兼護衛役のベゴニアだ。そしてタケルの師匠でもある」


 こちらは右掌を胸の当て、武人らしく視線をそらさずにこうべを垂れる。

 ふたりの名乗りを理解したのかどうか、エアリスはさらに続けた。


「タケル、おまえら、何だ!?」


 カーミラたちが僕を見やる。


「多分、僕とどういう関係なんだと言いたいんだと思う」


「まあ、それは大事なことですわね。ちなみに、タケルとあの子はどのような関係ですの……?」


「う。それは、その。僕が責任を果たさなければならない女性のひとりだ」


 今はそうとしかいえない。

 カーミラは「ふーん、ひとり、ねえ」と何かを察したようにニヤニヤとしている。

 そんな僕を脇から抱き寄せる腕があった。ベゴニアだった。


「私はタケルの師だ。私の武術をタケルに教える予定だ。そして母でもある」


 ブレねえなこのヒトは。

 否定すると本当に悲しそうな顔をするので、もうなすがままになってしまっている。嘘も百回吐けば真実になるってこういう諦めが原因だと思う。


「あー、ズルいですわ。じゃあ私はタケルのご主人様になりますわ!」


 キャピっとばかりに無邪気なカーミラが反対側から抱きついてくる。

 豊満な二組の胸に挟まれて僕は顔を赤くした。


「ホロウ・ストリングス」


「げえッ!?」


 気がつけば分子切断の糸に取り囲まれていた。

 完全に動きが封じられる。


「わお。すごーい。全然動けませんわ。触ったらかなりまずそう。問答無用ですわよベゴニア!」


「気圧が。耳が痛い(物理)ですな」


「危ないからもっとくっつかないと。よいしょっと」


「カーミラ様、今背中が切れました。チュンって言いました!」


 動けなくなった僕らは必然密着せざるを得なかった。

 すると僕の両側からますますふたりのおっぱい攻撃が……。

 怖い。エアリスの顔がまともに見れない。

 だが無情にも神判の声は降りかかってきた。


「タケル」


「はい!」


「正直に答えろ。この者達は貴様にとって必要な者達なのか」


 真顔だ。喜怒哀楽が一切読み取れない表情でエアリスは問うてくる。

 虚偽や誤魔化しなど通用しないだろう。

 まあ、彼女を相手にそんなことするつもりもないのだが。


「ああ、そうだ。必要なヒトたちだ」


「そうか」


 エアリスは目をつぶり、重く息を吐き出す。

 そして続けざまに問いを重ねた。


「その、貴様にとって私は――……、いやなんでもない」


「え、何だよ?」


「貴様の考えに従おう」


 エアリスが指を弾くとホロウ・ストリングスが解除される。

 ほっとしたのもつかの間、僕はエアリスが一瞬だけ見せた悲しげな表情が気になった。


 *


 どんなに夜が深くとも、朝は誰にも必ず平等に訪れる。

 真夜中に降って湧いた狂乱の客人を持て成すため、エアリスは朝食の準備に取り掛かろうとしていた。


 昨夜は二組しかない布団のひとつを、風呂あがりのカーミラが早々に占領して寝こけてしまい、ベゴニアは雑魚寝でいい、むしろ立ったままでも眠れるというので、残りの布団を半分にして、タケルとエアリスは一緒に眠ったのだ。


 そのかいあってか、エアリスの精神は落ち着きを取り戻していた。

 あれほどささくれていた心が嘘のように、あの昇る朝日のように晴れやかな気分だった。


 だが彼女がキッチンでエプロンをつけ終えると「今帰った」とベゴニアが大量の食材を抱えて戻ってきた。


「おお、目覚めたかエアリス殿。昨夜は突然押しかけて申し訳なかった。お詫びの印に朝食は任せてもらえないだろうか」


「え、あ……」


 ベゴニアが何を言っているのかエアリスは理解できなかった。

 でも、にこやかに自分を指差す彼女の動作から察することはできる。

 やや憮然としながらも、エアリスはキッチンを明け渡した。

 ベゴニアは「ありがとう」と屈託なく笑うと、調理を開始する。


 正直、その手際は見事としか言いようがなかった。

 包丁を手に取ると、あっという間に野菜を刻み、あらかじめ煮立てておいたお湯に具材を投入し味付けをしていく。さすがは従者。もはや宮廷料理人の域にまで達した見事な調理に、エアリスは何も言えなくなってしまう。


 そして小さなテーブルを囲んでの会食が始まった。


 メインはオニオンとニンジン、ジャガイモがふんだんに入ったコンソメスープ。

 山のように積まれたパンケーキは、ダマやムラが一切ない綺麗な焼き加減だった。


 大量のマッシュポテトの上にはパセリパウダーがささやかなアクセントを主張しており、芸術品のような完璧なプレーンオムレツには、飾り包丁が入れられたポークソーセージがゴロゴロと添えられる。


 中央で一際存在感を放つのは彩りも美しいグリーンサラダ。取り皿の隣にはサウザンドレッシングと和風ドレッシングが用意されていた。


 一口食べたタケルは「美味い!」と太鼓判を押してしまう。


「ほら、せっかく作ってもらったんだからエアリスも食べてみろよ」


「ああ、うまいな……」


「美味いってさ」


「それはよかった」


「当然ですわ。毎日何十年と作らせてますもの。必要とあれば世界各国のシェフの元へ修行に行かせたこともありますのよ」


 自分の従者が褒められてカーミラはすこぶる機嫌が良さそうだった。


「そういえば、美味しい中華が食べたいと上海に行かされたこともありましたな」


「そう、あなたってば四川料理ばかり覚えてきて、あれって嫌がらせのつもりでしたの?」


「いえ、純粋に辛い料理が好きになっただけです。タケルは辛いのは平気か?」


「麻婆豆腐とかなら普通に好きかな」


「では今度作ってやろう。味の秘訣はなんといってもカロライナ・リーパーだ」


「無理! 殺す気か!?」


「マジで舌が死にますわよー、300万スコビルは」


「むう。ではブート・ジョロキアあたりで手加減してやる」


 会話が弾む。和気あいあいとしていて賑やかな食事風景だ。

 タケルとエアリス、ふたりきりの食事ではありえないトーンだった。

 終始エアリスの表情は優れなかった。


 と、その時ドアがノックされる。

 タケルが立ち上がろうとするが、それを押しとどめエアリスが対応しようとする。

 だが、「おはようございますタケル様、御堂百理です」という声がして、タケルは玄関にすっ飛んでいった。


 その姿を見たエアリスは、タケルが喜び勇んで出迎えに行ったように見えた。

 知らず、ギュウッとシャツの裾を握りしめる。

 そのさまを目ざとく見つけるカーミラ。

 面白いもの発見、という風に口を釣り上げていた。


 *


 狭い六畳間の和室にタケル、エアリス、カーミラ、ベゴニア、百理が介する。

 近隣住民は知る由もないだろうが、誰一人として真っ当な人間がいない、完全なる人外たちの集会だった。


「まずは、この度は私達の争いごとにタケル様を巻き込んでしまいましたこと、心よりお詫び致します。申し訳ありませんでした」


「全くですわ」


「あなたも当事者でしょう!」


 早速百理とカーミラの掛け合いが始まる。

 タケルは百理に向かってペコペコと頭を下げた。


「いえいえ、気にしないでください。幸い怪我もないですし、こちらの被害はありませんから」


「そう言っていただけると幸いです」


 小さな幼子にしか見えない百理に平身低頭するタケル。

 その様子を看過できないのがエアリスだ。

 クイッと彼女はタケルの袖を引っ張る。


「おい、なぜ貴様はこの娘に頭を下げているのだ。もっとしっかりせぬか、貴様はエンペドクレスなのだぞ」


「いや、実は昨日、この子の持ちビルを壊したのが僕なんだ。つまりこの子が僕の借金20億円を立て替えてくれてるんだよ」


「む。そうなのか……」


 言葉では納得しても、感情はついてこない。

 エアリスのもやもやとした気分はますます強くなっていく。


「さて、と。取り敢えず昨夜の当事者が全員そろっていますし、そろそろはっきりさせておきたいところですわ」


 山のような料理を腹に収め、カーミラがそう切り出した。

 ちなみに百理も食事を勧められたがそれを辞退し、お茶だけを啜っている。


 三者三様の視線がタケルとその隣にいるエアリスに注がれる。

 タケルの対面にはカーミラが座り、その右隣に百理が。

 カーミラのすぐ後ろにはビシっと見事な正座をしたベゴニアがいた。


「タケル、あなた一体何者ですの?」


「私も、日本の人外を預かる頭領として正式に要請します。あなた様の出自を教えて下さい」


「確か元人間の魔族種と言っていたな。それはどのような存在だ?」


 カーミラ、百理、ベゴニアから問われ、タケルは隣のエアリスを見つめた。

 ことは自分のことだけでは済まない。当然エアリスのことにも触れなければならない。そして彼女の元主のことにも。


 大丈夫か、というタケルの視線に、コクリとエアリスは頷いた。


 そしてタケルは話し始めた。

 自分が突如として目覚めた異世界でのこと。


 セーレスとの出会い。

 領主との軋轢。

 アークマインの拷問により一度死んだこと。


 ディーオという名の魔族種との邂逅。

 再誕、そして復讐。


 奪われた彼女を求めて聖都へ。

 そこで知った異世界と地球との関わり。


 暗黒の世界に囚われながらも、なんとか聖剣を手に入れて地球へと帰還したその一部始終を。


 話はすべてタケルの主観によって進んだ。

 朝一で話し始めて、気がつけば昼近くなっていた。

 その間誰も声すら上げなかったし、席を立つものも居なかった。

 茶もすすらず、物音も立てず、ただ食い入るようにタケルの話に耳を傾けていた。


「なるほど」


 すべてを話し終えたとき、カーミラが乾いた喉を冷めたお茶で潤してから口を開いた。


「さて、ベゴニア、この件はもともとあなたから始まっていましたね。今の話を聞いてあなたどうするつもりですの?」


「私の腹は既に決まっています」


「聞かせてもらえるかしら?」


「タケルを――徹底的に鍛え上げ、私の拳のすべてを叩き込みます。もしそれを許さぬと言うのなら、私はカーミラ様と袂を分かつことになるでしょう」


「あなたってば相変わらず、散々迷って迷ってウロウロメソメソするくせに、一度決めたら周りが見えなくなるほど突っ走ってしまいますのねえ」


「恐れいります」


「タケル、安心なさいな。今の話を聞いて与太話とも思わないし、私の歩んできた道とも通じる話ですわ。いえ、あなたにはまだ取り返せる芽があるのだから、一緒にしては失礼ですわね」


 カーミラは不意に遠い目をした。

 そして妖艶でも快楽的でもなく、ただ綺麗なだけの純粋な笑みを見せてきた。


「カーミラ・カーネーション・フォマルハウトはタケル・エンペドクレスに協力いたしますわ。今の話を聞いていて、あなたも危機感を抱いたのではなくて、御堂さんちの百理さん?」


「あなたに同調するのは不本意ですが、そのとおりです」


 傾けた湯のみに目を落としながら百理が言う。


「まさか異なる世界への扉を開き、そこから『魔法』を使える者を拐かしてくる勢力があるとは。もしこの地球で魔法の研究がされ、それが実用化でもされれば、世界経済や政治、軍事分野に与える影響は計り知れない。一企業人としても、人外の頭領としても見過ごすことはできません」


 カーミラも百理も日本経済のみならず、世界に名を轟かす大企業を率いる経営マンだ。考え方、物事の捉え方は、タケルよりもよほどシビアでリアリストなのだった。


「タケル様、『御堂』も協力を――いえ、こちらからお願いいたします。どうかその稀有なるお力は私共にお貸しください。見返りと言ってはなんですが、タケル様の目的のためにできうる限りのことをお約束します」


「私もよろしくてよ。タケルと一緒なら退屈しなくて済みそうですものね」


 百理は取引を持ちかけあくまで対等な風を装っているが、どう考えてもタケルの方にこそメリットが大きい。カーミラはあくまで自分の快楽が優先だが、裏表がない分わかりやすかった。


「タケルが強くなりたい理由に得心がいった。おまえは武術の素人ではあるが、頭はかなり良さそうだ。基礎を徹底的に身に付ければ案外早く大成するだろう。いや、私が必ずそうさせよう」


 どこまでも強くまっすぐに、ベゴニアは宣誓した。

 全員の言葉を受けてタケルはただ一度頭を下げた。


「みんな、ありがとうございます」


 昔は自分が他者に頭を下げる日がくるなんて想像もしていなかった。

 だが、もし自分が心からよくしてもらったら、やはりこれ以上の感謝の伝え方はない。


 頭を下げることなど何も恥ずかしいことではない。

 これで傷つくようなプライドを持っている自分の方こそが恥なのだ。

 タケルは今そう思う。そう思えるようになっていた。


「それでタケル、あなた何か自分の目的を果たすための具体的なプランがあるのかしら」


「大雑把にではあるけれど、一応は」


「言ってご覧なさい。大丈夫よ、どんなにすごい力を持っていてもあなたはまだ高校生ですものね。笑ったりしませんわ」


 とは言いつつ、さらっとハードルを上げるカーミラ。

 百理やベゴニアからも注目され、タケルは圧迫面接を受けてるような気分になった。


「ひとつめは僕自身が、自分の能力を把握して、それを使いこなせるようになること」


「ふむふむ。魔法とやらのことですわね」


「ふたつめは僕自身が武術のスキルを身につけること」


「それは私に任せておけ」


「みっつめは情報収集……」


「御堂のネットワークは今や世界中に広がっています。ご安心を」


「そして最後に……、お金」


 場がシーンとなる。

 カーミラはテーブルに頬杖をついて固まっている。

 ベゴニアは無意味に天井のシミを数えていた。

 百理だけがニッコリと微笑んだ。


「タケル様、もし借金を踏み倒して異世界に逃亡したら、絶対に許しませんからね。御堂財閥の技術の粋を結集して、例え地球が壊れても次元に穴を空けてでも追いかけていきますからそのつもりで」


 まるで白い菊の花(仏花)が咲き誇るような笑みだった。

 何故。どうして自分は白い幼女(見た目だけ)に追いつめられる宿命にあるのだろうか。


 彼の異世界の白蛇様を思い出し、タケルは密かに己が運命を呪うのだった。


 次回【精霊と遊ぼうよ編】に続く。

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