第86話 人外魔境都市③ ダメダメ執事の反乱~仲良くケンカしな

 *


「どこだよここ……」


 間接照明に照らされた見知らぬ天井。

 ムクリと体を起こせばそこは、まるでホテルの高級スイートのような一室だった。

 そんなところで目を覚まして、僕が真っ先に心配したのはお金のことだった。


「いや、違うだろ。そうじゃない。そういうんじゃないんだ……」


 どうも地球に帰還してから中身がすっかり分相応――というか人間だったときに戻ってしまった気がする。


 魔法世界にいたときは終始張り詰めていたというか、基本的に会うもの全員が敵みたいなものだったから仕方がないといえばそうなのだが……。


 見ず知らずの部屋で目覚めて真っ先に心配するのがお金って。

 まずは自分と周囲の安全確認を――


「うん?」


 チクッと首に痛みが走った。

 頸動脈の上あたりが痒い。

 触ってみても、そこには何もなかった。


「変だな。いや、それよりも今は――いいッ!?」


 上掛けのシーツを取っ払い、僕は危うく大声を上げるところだった。

 僕の隣には女が寝ていた。

 桃色のゴールドブロンドをカールにした、なんか見た目がゴージャスな女だ。


 白く透き通るような肌をこれまたゴージャスな下着を身に着けている。

 顔立ちは恐ろしいほどに美しい。

 怖気を誘う程に整っていて、半開きになった口からは長い犬歯が覗いている。


 僕も男だ。

 そこそこスケベな方だとは思うが、この女に限ってはまったくエロさを感じない。

 何故ならこの女は鼻血の海に沈んでいたから。


 顔の下、肩にかけて同心円状に血溜まりが広がっている。

 シーツがひたひたになるほど大量の出血をしながらも、女の顔は間抜けというか至福の表情をしていた。


 せめてもの情けだ。シーツくらいかぶせてやろう。


「そういえば妙に体がだるいな。戦闘の後だからか?」


 全身を調べたが特に後遺症などはない。

 怪我は問題なく再生しているが、体の怠さだけは取れない。

 僕は虚空心臓のサイクルを上げて回復を試みる。

 その瞬間――


「――カーミラ様ッッッ!」


 バコーンと扉が粉砕され、見知った顔が現れる。

 廃工場跡で僕を襲ってきたスーツの女だ。

 白髪が混じった前下りボブを振り乱して、女はズカズカと部屋に押し入ってくる。

 小脇にはなぜか蓋が外れた棺を持っており、全身がくたびれまくった様子だった。


「あなたという方は――って、おお我が弟子よ、無事だったか!」


「はあ、どうも。何事ですか?」


「何事も何も、我が主であり、無節操の快楽主義者たるカーミラ・カーネーション・フォマルハウト様が貴様を襲いにいったようなのだ。私を封印の棺に無理やり閉じ込めて、貴様を吸血しに行ったに違いない! 何か異常はなかったか!?」


「異常もなにも、これがそのご主人様ですか」


 ペロン、とシーツを剥がす。

 そこには相変わらず昇天しきった表情の淡桃カール女が。

 あーあ、鼻血がシーツを通り越してマットレスの方まで染みちゃってるよ。

 

「カーミラ様ッ! まさかッ、この子をッ、吸血ッ、したのですかッ!」


 グワシっと主であるらしいカーミラなる女の細首を鷲掴みにしてブンブンと振り回す。さすにが目を覚ましたカーミラは、ほわほわとした表情のままうわ言のように呟いた。


「ああ、ベゴニア、あなたよくやりましてよ……。こんな吸っても吸っても吸い尽くせないほど無限の生命力……そう、まるで原初の海か、はたまた伝説のプシュケーの泉のような芳醇かつ豊穣な味。ダメ、この味を知ってしまったらもう戻れない。私感じちゃうビクンビクン悔しいですわ」


 ベチョーっとだらしなく開いた口端から唾液が垂れる。うわ、美人のこういうだらしないところ見たくない。


「ふざけるなあああああぁ――、この子は私の弟子だと言ったでしょう! この子と私はもう師弟を超えた母子おやこも同然の間柄! いかなあなた様であっても私からこの子を奪う権利はないのですよぉぉぉぉ――!」


 つまみ食い程度の軽い気持ちで僕を吸血する女と、弟子にしてくれとは言ったが、いきなり母子の情まで芽生えさせて血涙する女。どっちがマシかと言われれば、正直どちらも御免被りたいと答えたいところだが――


「あの、僕は平気ですから」


 いつまで経っても埒が明かないと僕は挙手しながら申告する。

 いい加減話が進まないんだよ。


「そんなわけないだろう! この方はこう見えてとんでもない力を持った吸血鬼なのだぞ!」


「吸血鬼ですか。ははあ、やっぱり現実にもちゃんといるんですねそういうの」


「何を呑気にしている! 身体に異常はないか? 精神支配を受けてはいないか!?」


「いえ、少しだるい感じがしますけど、異常があってもすぐに治りますんで。ほら」


 ドクン――、と意識して虚空心臓のサイクルを跳ね上げる。

 全身を串刺しにされても、バラバラにされても、放射線を浴びても、ダークエネルギーに侵食されても回復した再生力である。


 ついでに目の前の人外削岩機にずたずたにされても大丈夫だった。

 鼻血女の吸血など可愛いものである。


「貴様は――おまえは本当に何者なんだ……?」


「自己紹介の前に、場所変えません?」


 ベッドに触れていた僕の手は鼻血で真っ赤だった。

 淡桃カールも顔半分から下が鼻血でドロドロ。

 無論そんな主の首を掴みあげていた女の手もギトギトである。


「部屋を出た左手にバスルームがある。リネン類は好きに使ってくれ」


「お言葉に甘えます」


「ベゴニア、私もお風呂入りたいですわ……」


「あなたなど流し風呂で十分です!」


「ああん、これ、これなのよ……。こんな打てば響くような突っ込みをしてくれる従者がずっと欲しかったんですわー……」


 首根っこを掴まれてずるずると引きずられていく鼻血女とその従者を見つめながら、僕は若干の不安を感じていた。僕が弟子入りしたのはもしかしたら早計だったかもしれない――と。


 *


「カーネーショングループって、あのカーネーションですか?」


「うむ。実に残念だろう。あんなのが創業者で」


 ベゴニアと名乗った彼女の言葉に、僕は驚きを禁じ得なかった。


 カーネーション。

 世界に名だたる日本のコスメブランドの名前である。

 高島屋や伊勢丹に売り場があるのはもちろん、銀座の一等地にも大きな店を構えている。


 それだけではなく、ニューヨーク、ハリウッド、ロサンゼルス、パリ、ロンドン、モスクワ、ベルリン、ローマ、バンコク、香港、上海などにも支店を持つ紛うことなきトップブランドだ。


 化粧品だけでなく、ジェネリック医薬品、洋服やバッグ、貴金属や装飾品、最近では独自ブランドのインテリア家具も販売していたはずだ。


 僕が連れてこられたこの邸宅こそ、世界に名だたる日本のトップメーカー、『カーネーショングループ会長』のプライベートルームなのだという。


「あのように自分の欲望を一切抑えられない快楽主義の塊のような方が考えた商品の数々を、世の女性達がありがたがって購入していくたびに、私は心が潰れるような思いを禁じ得ないのだ」


「いや、モノが良ければそれに罪はないでしょう」


 さっとシャワーを浴びた僕は、分子のチリになってしまった上着のかわりに、

 バスタオルを羽織りながらティーカップを傾けた。

 美味い。ラエルの屋敷でも思ったが、ちゃんと淹れればお茶って美味いんだなあ。


 僕が今居るプライベートルームは、ちょっとやそっとの小金持ちでは到底購入することのできないタワービルの最上階だ。


 どうやらここはワンフロアがすべて個人の邸宅になっているようで、お茶も上等なら今腰掛けているソファもふかふか。


 部屋の各所に置かれた調度品も、数は少ないもののセンスのいいものばかりで固められており、極めつけは窓の向こうに広がる光の渦である。


 並び立つものの方が少ない高所から見下ろす都心の夜景は圧巻の一言だ。

 エアリスにも見せてやりたいなあ、などと思ってしまう。


「おかわりはいるか? それよりも食事はどうだ? なんでも好きなものを作ってやるぞ」


「い、いえ、取り敢えずはお茶だけで」


「そうか……」


 僕になにかしてやりたくて堪らないらしいスーツ姿の麗人――ベゴニアは、目に見えて肩をとして深々とため息を接いた。そんな残念がらなくても。僕の方としても申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。


 僕が目覚めてからというもの、ベゴニアは何かと僕の世話を焼いてくる。

 やれ、怪我はしていないか、腹は減ってないか、喉は乾いていないか、などに始まり。サイズの合わない女物の服を貸そうとしたり、やたらとお茶のおかわりを勧めてきたりする。


 ああ、これはあれだ、エアリスも地球にきた次の日はこんな感じだった。

 やたらと僕に話しかけてきたり、食材を買いに行こうとするだけで不安がったりした。


 相手の感心がちゃんと自分に向いているかどうか、見捨てられはしないだろうかという不安な気持ち。


 それを解消してやるにはやっぱりコミュニケーションが一番だ。僕も腰を据えて一日中エアリスに地球の、そして日本のことを教えるため話しかけ続けた。ネットのニュース記事を読んで、色々な説明をした。


 そうしていくうちに、いつの間にかエアリスの顔も安堵したようなものになっていったのを覚えている。


「あの、お茶のおかわりもらってもいいですか。すごく美味しいので」


「そ、そうか! いくらでも淹れてやるぞ。ここには世界中から珍しい茶葉や素材を無駄に取り寄せているからな。なんならこの間気まぐれに取り寄せた『コピ・ルアク』でも飲んでみるか!?」


「全力で遠慮します」


 インドネシアの高級コーヒーだが、その製造方法はぜひ各々の責任でググッて欲しい。


「あの、それよりも僕、色々無知なもので。人外とか、妖かしとかについて教えてほしいんですが」


「本当に知らないのか。それほどの力を持ちながら、今まで一切闇の世界に関わってこなかったというのか」


「はい」


 なにせ人外デビューは魔法世界マクマティカでのことなのだ。

 地球に帰ってきたのはわずか半月前のことで、それより以前は現実に吸血鬼がいるなんて知りもしなかった。


「今まではそれで問題なかったのだろう。知れば関わらずにはいられないぞ。もし人間として平和に暮らしていきたいと願うのなら、今が引き返す最後のチャンスかもしれない。それでも――」


「僕はもう人間ではないことを受け入れています。その上で地球でやらなければならない目的がある。そのためには強くならなければならない。あなたの強力が必要なんです」


「――ッ!」


 僕は居住まいを正し、真っ直ぐにベゴニアを見つめる。

 そして、「お願いします」と、深々と頭を下げた。


「そんなに私が必要なのか」


「あなたの強さは本物だった。それに僕が強くなるためには、人間の武術じゃダメだ。人間を超えた者の戦う力が必要なんです」


「そうか、私がどうしても必要なのだな……!」


「え、ええ、そうです」


「そうか、私が必要か。ふふ、ふははっ!」


 何やら同じ言葉を何度も反芻しているベゴニア。プルプルと固めた拳を震わせている。そんな様子の彼女を見るにつけ、僕は取り返しのつかない悪魔的な契約をしているような気分になってくる。ホント大丈夫かなこのヒト。


「ふー、さっぱりしましたわー」


 そのタイミングでリビングルームに現れたのがこの邸宅の主、カーミラ・カーネーションフォマルハウトだった。


 相変わらず見た目だけなら絶世の美女である

 セットの難しいであろうカールヘアは薄桃色のゴールドブロンドに輝いている。

 今は下ろしたてのバスローブ姿で、胸の谷間や生脚を惜しみなく曝け出していて、とても扇情的な格好だが、僕の印象は先程の鼻血女で固まっているので特になんとも思わなかった。


「あら、うふふ。熱い視線を感じましてよ。坊やには少々刺激が強すぎる格好かしらね」


 こちらの平坦な眼差しを都合よく解釈したカーミラが艶然と微笑む。

 僕が否定するより早く、大きな背中によって視界が遮られる。僕をかばっているのはベゴニアだった。


「ベゴニア、大きな体が邪魔でしてよ。せっかく私が坊やにサービスをしてあげているのに。見たところ坊やは思春期ど真ん中。しかもあのようなエネルギーを常時垂れ流しにしているとなれば、もう性欲を持て余して仕方がないはず。坊やが望むなら、私がお相手してあげてもよろしくてよ。ベゴニアのものは私のもの。私のものは私のものよね?」


 なんだよそのジャイアン理論。あと僕はお前に女をまったく感じません。僕にはセーレスがいるし、最近だとちょっとエアリスも気になってはいるけども。いや、何を言ってるんだ僕は……。


「ほほう、それはつまり私の弟子はカーミラ様のおもちゃだと?」


「ええ、そのとおりでしょう?」


「ふ――まっぴらごめんですカーミラ様」


「え?」


 決然と言い放つベゴニアに、カーミラはポカンとした顔をする。

 何度かまばたきを繰り返し、自分の従者を見つめたカーミラは、ずいぶんと動揺しているようだった。


「な、何をおっしゃっているのかしら、ベゴニア、あなた帰ってきてからちょっと変よ? もしかして朝方厳しい物言いをしたのをまだ起こってるのかしら。でしたらもうそのことはいいの。私も少々大人気なかったと反省していたところでしてよ。ですからももう、あなたも戻って――」


「変? 私がですか? 普段の私はあなた様にとってどのような存在だというのですか? 唯々諾々と貴方様の言うことに従い、金魚のフンのように後ろをついて歩き、あなた様の言動の全てに振り回され、狼狽え、助けを請い、小さく縮こまって泣きわめく哀れな私をご所望ですか?」


「え、え、えええ……!?」


 カーミラは、何か今初めて目の前の従者に出会ったとでも言う感じで、激しく動揺している。


 僕はふたりの間にあったことなんて全然わからないけど、でもなんとなく察しはついていた。


 要するにカーミラは、あれだ、遅れてきた従者の反抗期に戸惑っているのだ。


 大学受験前までは何でも親の言うことを聞いていたいい子ちゃんが、上京して親元を離れた途端、様々な人間関係や価値観に触れ、いかに自分が井の中の蛙であったのかを自覚し、そして自分が如何に親に支配されていたのかを知り、最初の夏休みのお盆に帰省して両親の前で爆発する……みたいな感じかも。


 父さんと母さんは間違ってる!

 なんてこと言うんだこの子は!

 東京になんてやるんじゃなかった!

 うん、具体例は誰がモデルとか無いけど。念の為。


 僕は――僕に襲撃を仕掛けてきた以降の僅かなベゴニアしか知らないが、カーミラとベゴニアの主従関係が気の遠くなるほど長いものだったとしたら、ベゴニアの変貌ぶりは正に青天の霹靂とも言うべき異常事態なのかもしれない。


「カーミラ様、私は目が覚めました。世界は広い。あなた様だけが価値観のすべてではないと知ったのです。そしてこれからは、あなた様の迷惑極まりない享楽的な振る舞いには断固とした態度で臨ませていただきますのでそのおつもりで……!」


 僕をかばうその姿は、我が子を守る母ライオンとも言うべき頼もしいもので、

 ベゴニアの背中越しにカーミラを見れば、顔を俯かせ、肩を震わせていた。


「ベゴニアさん。差し出がましいようですが、それは言い過ぎでは。仮にも自分の主でしょう」


「ベゴニアでいい。成華タケルよ。おまえはあの方を見誤っているぞ。私もようやくわかったのだ。いや、わかっていながらわからないフリをしていた。目を曇らせていたのだ。あの方は恐らく――」


「はああああああああああああああああぁぁぁぁん――――!」


 突然の絶叫だった。あられもない嬌声だった。

 僕は何事かとギョッとした。


「これ、これですのよ! こんなボケとツッコミのような小気味いい関係の従者が欲しかったんですわ! さようなら、ボケにマジボケで返されていた不遇な日々! そしてようこそ、刺激的な毎日! そこの坊や、あなたのお蔭で私の従者は生まれ変わりました、是非お名前を教えてちょうだい!」


「うえ、僕ですか……?」


 リアクションが予想どおりだったのだろう、ベゴニアはげんなりと頭を抱えている。そんな従者を無視して、白く細い腕を差し伸ばし、カーミラは鼻息も荒く僕の名前を求めている。正直あんまり教えたくないなあ。


「成華、タケルです」


「タケル、ありがとう! あなたという存在のおかげで私の従者は分厚い殻を破ることが叶ったのですわ! 至高の殿方とは、その在り方だけで周りに影響を及ぼし、ただのおぼこをいい女に変えるといいます! あなたとても有能でしてよ! さっきは単なる食事による吸血でしたが、本格的に眷属にしてさしあげますわ――!」


「ちょっとぉ――!」


 まさかのル●ンダイブだった。

 はだけたバスローブも何のその、カーミラが数メートルを滑空して僕に突撃してきやがった。


「うっひょー! うりうりうりっ!」


「うおお、ちょっ、やめっ!」


 しっとりと汗ばんだ胸元に思い切り抱き寄せられ、逃げようと藻掻く僕をさらに掻き抱き、無理やり胸の谷間に溺れさせようとしてくる。


 うおお、割りとマジで嫌だ!

 何故かこの女性カーミラの隠すつもりのない駄々漏れの色気は、全く僕に合わない。


 というかどんな男だってこんなに押せ押せでは引いてしまうだろう。


「あ、あなたという方は、舌の根も乾かないうちに――!」


 激昂したのはベゴニアだ。

 僕の首筋に噛み付こうとするカーミラの間に自分の顔を差し入れて吸血を阻止しようとする。なんなんだこれ、だんご3姉弟かよ!


「まあ、なんでしょうこの従者は、今朝まで男のおの字も知らなかった分際で、急にこんな大胆な真似を――! それって師弟愛ですの!? それとも割りとマジなラブですの!?」


「私を今突き動かしているのはあなた様の暴走を止めなければならないという使命感! そしてタケルに対する師弟愛をも超えた母の愛です!」


「ぷッ、妊娠も出産もしたことがないくせに母の愛ですって! 戯れ言を――」


「何をおっしゃいますか! あなた様ほどのお方でも女の腹から生まれてきたことは動かしようのない事実! ならばこそ、この世に生を受けたものはすべからく、原初の本能に母の愛を刻まれて生まれてきたことになるのです!」


「生まれ出こと、それ即ち愛と――! ほほ、よくぞ言いましたわ! ですが赤子が誰しも盤石な揺りかごの中で育ったわけではないという事実はどうなるのです! 生まれは同じでも、その後に幸と不幸が溢れるのは何故なのですか!?」


「他者の事情などそれぞれ! だが私は違う! それをタケルを以って体現する所存です!」


「ちょ、僕の意志は――!?」


「ありませんわそんなもの!」


「できれば私がお前を産みたかった!」


 カオスである。ドロドロのグチョグチョである。

 というかいい年した美女二人と、ソファの上で組んず解れつ、

 こんな頭の痛い会話をしているなんて、一体誰が収集をつけてくれるのか――


 いた。そんな便利な存在は、窓をぶち破る破砕音とともに現れた。

 次いで鳴り響くけたたましい警報音。

 僕らの目の前に突き刺さったのは、御札が巻きつけられた弓矢だった。

 

「おいおい!」


「あらまあ」


「曲者!?」


 すさまじい爆発音が僕らのいるリビングを包み込んだ。

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