第68話 聖剣を求めて⑧ 太陽召喚~暗黒より生まれいずるモノ
* * *
世界を滅ぼすというブラフを餌に、ついに僕の前に現れた聖剣という存在。
だが、出現した直後、僕は聖剣の切り開いた漆黒の穴の中に吸い込まれてしまった。
目覚めると、そこは地獄だった。
宗教観に根ざした地獄ではない。
ヒトの醜悪さを体現した地獄でもない。
聖都を死の街にした放射線の地獄が近いかもしれない。
でも、そんなものなど及びもつかない。
聖剣が開いた穴――『ゲート』の向こうの世界。
そこは異なる物理法則が支配する別の世界だった――
*
目を覚ますなり、僕は自分自身が尋常ならざる状況に置かれていることに気づいた。
(ここは……?)
漆黒の闇。一欠片の光さえ存在しない、それどころか前後左右上下という、方向の感覚さえわからない空間の只中に、僕はいた。いたというのも、地に足をつけているわけではなく、まるで無重力の空間に浮いているような感じがした。
呟いたはずの声は耳朶まで届かなかった。
空気がないため音が伝播しないのだ。
もちろん呼吸をすることができず、それによって頭は朦朧とし、肺がキリキリと痛む。
(この暗闇が聖剣が作り出す『ゲート』の魔法――、その向こう側の世界なのか?)
こんな世界にセーレスたちは赴いたというのか。
僕は自身に備わった龍神族の特別な眼で暗闇を凝視する。
途端、驚愕に目を見開いた。
(な――なんだこの空間は!? 一欠片の魔素も、それどころかあらゆる生命、有機物も無機物も――、光も電磁波も素粒子も、何一つ存在しない!?)
何も存在しない。それは『無』の世界。
あらゆる物質の元となる原子さえも存在しないということを意味する。
そしてその空間はとてつもない広さを有していた。
特別な眼でどんなに見通しても、決して果てにたどり着くことはできない。
どこまでも広大で深淵で無辺な世界。
何もなく、光さえも存在しない闇の世界。
でも僕はこの世界に漂いながら、先程からプレッシャーのようなものを感じていた。まるで空間全体がエネルギーでも帯びているような、ビリビリとした圧力を感じるのだ。
不味い。
この空間はヤバイ。
僕の中にかつてないほどの――魔族種となって以来初めてとなる危機感が沸き起こる。
だが遅かった。
ついにこの暗黒の世界そのものが僕に牙を剥いてきた――
(――なッ!? これは、僕のカラダが……!?)
僕の肉体が、末端から崩れ始めていた。
両足のつま先から、そして両手の指先から。
さらさらと砂のような微粒子になりながら、闇の中と消えていく。
(虚空心臓を――……、再生が、うまくできない!? しかもこれは――!)
闇の中に溶けていく自身の腕を見つめる。
その様を量子レベルで観察したとき、僕の驚愕は恐怖へと変わった。
侵食。
まるで闇そのものが意思を持つかのように、僕の身体へとまとわりつき、体細胞を原子レベルで分解していた。再生する先から分子結合を解かれ、形を維持できなくなった肉体が消滅していく。
(何か――そう、地球にいた頃ネットで見たことがある。こんな風に原子レベルで結合を解かれてしまうこと――)
電磁気力の拡散、というものではないだろうか。
この闇の世界そのものが、電磁相互作用を阻害しているとしか思えなかった。
『電磁気力』。
『電磁相互作用』とも呼ばれる『基本相互作用』のひとつである。
物質世界のあらゆる物体は、すべて原子の集合体で形成されている。
そしてその原子とはマイナスの電荷を帯びた電子を持っており、負の極性同士が反発しあうことによって物質としての形を保っている。つまり反発しあうからこそ、自分の手でモノに触れることができ、地面に足を着けて歩くことができるのだ。
恐らくこの闇の世界は、取り込んだすべての物質の原子構成に干渉、阻害し、分解する。
電磁気力を伝達するための粒子はフォトン。
フォトンが互いに力を伝達することで強まる電磁気力。
その伝達を阻害する力がこの世界には満ちている。
電磁気力が働かなければ、物質は形を保つことが出来ない。
原子核も構成されず、DNA結合も起こりえない。
あらゆる生命の誕生が絶対不可能な世界。
まさにここは『無』の地獄だった。
(何だ、確かそんな存在があるって、漫画とか映画で見たことがあるような――)
僕が地球にいた頃、そのようなものが存在すると見聞きしたことがあったはず。
その存在自体を観測することは絶対不可能だが、宇宙の成り立ちからその存在があると、絶対になければおかしいとされていたもの。
『ダークエネルギー』と呼ばれるものだ。
僕たちが知る宇宙とは、誕生から140億年がたった今でも膨張し続け、加速している。それをさせている原因が、宇宙全体の七割を占めるという『ダークエネルギー』の存在だ。
色荷を持たず、光学的に観測ができない、あまりにも暗い物質『ダークマター』と合わせて宇宙全体の9割以上をも占めているとされる『ダークエネルギー』。僕たちが普段観測できる宇宙の姿など、全体からすればわずか5%ほどしかないという。
そして、通常は『ダークエネルギー』よりも原子同士を結びつける『電磁気力』の方が強いために、原子は結合し、銀河を形成し、星を創り、生命は形あるものとして存在していられる。
もし電磁気力が存在せず、『ダークエネルギー』がすべてを支配する空間があったとしたら。そんな異なる物理法則が支配する世界に閉じ込められたとしたら。いくら不死身のカラダを持っていたとしても必滅は免れない――
(くッ――、意識が、薄れる……! 僕という存在が……、消えていく……!)
僕をあざ笑うように、暗黒世界の原子干渉力が襲いかかる。
不死身となって以来、初めて訪れる死の予感。
無限であるはずの再生力がまるで追いつかない。
じわじわと真綿で首を絞められるように滅びの時が迫る――
(これが……この空間こそが……聖剣が開く『ゲート』の正体……。ここに取り込まれたが最後……あらゆる物質は原子レベルで結合を解かれ、消えてしまう……)
隆起した大地も、大質量の津波も、そして灼熱の溶岩流でさえも。
問答無用で分解し、消し去る神のような力。
世界の調停者――、などとはとても言えない。
まさに神か悪魔のような力だ。
膝から下が、肘から先が、もう闇と同化していた。
止まらない崩壊を見つめながら僕は自問する。
(だけどこれが……本当に……聖剣の力なのか……?)
『ゲート』の魔法。
異なる世界へと繋がる扉を開く神域の魔法。
僕が欲していたのは『地球』へと帰還するための扉を開く魔法だ。
こんな不要なモノを消滅させるだけのダストボックスのような世界ではない。
(いや――)
今にも消えてしまいそうな意識の中、僕はひとつの仮説にたどり着く。
そもそも最初のアプローチが間違っていたのではないか。
ミュー山脈の噴火を阻止するため、その原因となった炎の魔素と水の魔素、そして僕自身をこの暗黒空間に取り込んだというのなら――
この世界は今もなお、聖剣の支配下にあり、聖剣は今もどこかで僕が解けていくのを見ているのではないか、と。
(もう一度思い出せ僕の目的を――! 僕という『個』を強く意識しろ――! ナスカ・タケルには無理でも、タケル・エンペドクレスにならできるはずだ――!)
もうかつてのような、自堕落な生活をしていた僕はいない。
たったひとり。
たったひとりの女が傍らに在ればいい。
そのために僕は、ただ無様に死ぬだけだった運命をはねのけ、魔族種の力を受け入れたのだから――
(セーレスッッッッ!)
心の奥底から強く強くその名を呼ぶ。
次の瞬間、僕の身体は五体満足の状態で暗黒世界に浮かんでいた。
ドクンドクンドクン――と。
虚空心臓の拍動ではない。
僕の胸の奥が熱く激しく燃え盛っていた。
*
(ぐッ――!)
せっかく肉体を再生しても、再び僕の指先が解け始める。
この世界の理に逆らうものを決して許さず、機械的なまでに身体を侵食していく。
このままでは先程の二の舞だ。
肉体が原子レベルで消滅してしまえば、僕自身でもどうなってしまうのか全くわからない。
聖都のときのように気がついたら再生されているのか。
それとも再生を阻害され続け、永遠にこの世界で生きては死ぬを繰り返すのか。
僕という入れ物がなくなった場合、虚空心臓を封じた異界はどうなってしまうのか。
(早く、早くなんとかしなくちゃ――!)
でも僕には一切の武器がない。
魔法を構成するために必要な四大魔素が存在しないのだ。
いくら膨大な魔力だけあっても、火種がなければ魔法が使えない。
何か、何か使えるものはないのか――!?
落ち着け、こういうときこそ冷静になれ。
僕が今使えるものを整理しよう。
『虚空心臓』、そこから生み出される魔力、再生力、そして龍神族の特別な眼。
それ以外には――、そうか、もうひとつあった。
多少なりとも魔力自体を操る能力があった。
聖都の大深度地下で近代兵器を持った聖騎士達と戦ったとき、僕は膨大な魔力を形にし、操ってみたことがあった。
自由自在に、というわけにはいかない。
また、複雑なコントロールもできない。
ただ単純な形や動作なら、今の僕でも制御できそうではある。
(そしてあと、この世界で使えるものといえば――)
僕は自分の身体を見下ろした。
闇に解けていく四肢の末端。
再生能力が拮抗し、先程よりも崩壊のスピードは遅くなっているが、いずれ僕の精神力が尽きれば逆転されてしまう。
やはりこの世界から逃れるために、そしていま一度聖剣を引きずり出すために、僕は勝負に打って出なければならない。
果たしてそんなことが本当にできるのか。
いや、できる。
人間だった頃の常識は忘れろ。
僕は人間を超越した存在、魔族種だ。
それも最強と呼ばれる龍神族の王なんだ。
最後の武器。
それは僕自身の肉体。
そして地球で得たなけなしの科学知識。
(やってやる――このまま何もしなければ、本当にただ死ぬを待つだけだ――!)
僕は龍神族に備わった特別な眼を発動させる。
通常の人間の認識力を越えた、さらに上の次元ですら知覚できる
その能力を駆使して自分自身の肉体を認識する。
数十兆にも及ぶ細胞のひとつひとつ、さらに人体を構成する『多重元素』へと、意識の枝葉を伸ばしていく。
ヒトの身体を構成する『多重元素』。
即ち――
60%の水素原子。
25%の酸素分子。
10.5%の炭素分子。
そして2.4%の窒素分子。
武器弾薬は
(この暗黒の世界がすべてを分解消滅させるのだとしたら、想定を遥かに超えるエネルギーが現れればもしかして――)
僕はギリっと歯を食いしばり、とうに潰れて用をなさなくなった肺から声を絞り出す。それは自身を鼓舞するための絶叫。そして痛みを我慢するための悲鳴。
僕は自身の右腕を指先が解けかけた左手で思い切り握りしめた。
そして――
(うわああああああああああああああああああッッッ――!)
魔族種の膂力を用い、自分で自分の右腕を引きちぎった。
肘関節の辺りから千切れた自身の右腕。
それを、魔力によって包み込む。
二重、三重、四重と、幾重もの魔力でシールドする。
そして渾身の力を込めて、遥か遥か暗黒世界の彼方へと放り投げた。
僕の右腕はあっという間に遠ざかり、普通の肉眼では見えなくなってしまう。
だが僕の魔力にコーティングされたそれは、魔力線によって未だに僕自身と繋がっている。
近代兵器で武装した聖騎士部隊と戦ったとき、僕は自分の魔力を操れるということに気がついた。その時は、切断された自分自身の身体の一部を媒介に魔力を発言させて操ったのだ。
そして今から行おうとしているのは、その時よりも遥かに精緻で、遥かに難易度の高い、魔力を媒介とした『元素への干渉』だ。
(離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろぉぉぉぉ――!!!!)
魔力で包んだ自身の右腕。
その中に存在するたったひとつの細胞――それを形作る原子――さらにそれを構成する
そして僕の思惑は成功する。
10のマイナス15乗という、とてつもないミクロのスケールに注ぎ込まれた莫大な意志力と魔力はついに、原子核内部の『中性子』に干渉することに成功した。
プランク時間にも匹敵する刹那の刹那――
『中性子』は別の『原子核』に吸収され『熱核反応』を経て再び『中性子』を弾き出し、さらに別の『原子核』に吸収され――次々と『連鎖反応』を引き起こし始める。
(弾けろ――――!)
暗黒の空間に光が灯った。
光源はおろか、魔素も電磁波も素粒子すら存在しない広大無辺な世界に、純粋なエネルギーが誕生する。
僕自身に含まれる水素原子を用い、核分裂反応を引き起こし、意図的に『強い核力』を解き放ったのだ。
基本相互作用のひとつ『強い相互作用』である。
それは原子核というミクロのスケールで、陽子と中性子という核子を強固に結びつけている力――中間子のことである。これが解き放たれたとき、100万人都市の聖都を一瞬で消滅せたようなエネルギーが放出されるのだ。
(まだだ――!)
核分裂反応だけではこの暗黒世界を破壊することはできないだろう。
僕の虚空心臓が限界を越え、さらにさらに駆動する。
生成されるすべての魔力は、己の再生力よりも強固な魔力のシールドに内包された核の炎へと注がれている。
核分裂反応を起こしたのはさらに上位の悪魔を召喚するための生贄である。
魔力のシールド――魔力殻の内部で生じたエネルギーをさらに圧縮凝縮していく。
(もっと、もっと、もっとだ――――!!!)
逃げ場を失った内部は超高温となり、さらにエネルギー準位が増していく。
地上では存在し得ないほどの熱エネルギーと魔力による高圧縮。
それらすべてを用い、僕は魔力殻内部に小規模ながら『核融合』を発生させる――
(弾けて混ざれッ――――!!)
闇が一瞬して払われる。
それはまさに太陽の輝きだった。
僕が召喚した悪魔の正体は『水素爆弾』だった。
核爆弾の数千倍の威力を有する最悪の破壊兵器のことである。
科学の知識とは恐ろしい。
魔法世界の知識だけでは、いかな魔族種の根源貴族といえども、これほどのエネルギーを顕現させることはできなかっただろう。
もちろん、そんなエネルギーを至近距離で炸裂させれば僕の身体もタダで済むはずもなく。再生と消滅を繰り返しながら、自身を幾重もの魔力シールドで覆い、すべての魔力を総動員して回復に努めていた。
さあ、どうする聖剣。
あるいはそれを使う神様よ。
この暗黒の世界でこれほどのエネルギーが沸き起こることなど想定してないだろう。
その証拠に、僕のちっぽけな身体は侵食できても、燦然と燃え盛る核融合は一切干渉されている様子がない。このままではこの世界が破壊されてしまう。そうなる前に、今一度僕の前に姿を現せ――
空間が揺らぐ。
僕の狂気とも言える凶行に恐れを成すよう、暗黒世界が戦慄した。
――ピシッ――!
それは待ち望んだ瞬間だった。
漆黒の闇に白い亀裂が奔り、そこから七色の極光が溢れる。
光は細く寄り集まり、一振りの剣を形作った――
(それを――待っていたッッッ!)
ボロボロになった僕の身体が闇を翔ける。
下半身はとうに消え、右手は千切れ、顔の半分も無くなっている。
それでも、大量の魔力を推進剤にし、一直線に剣へと手を伸ばす。
僕の左手が――銀色の刀身を掴みとった。
(おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ――――――!!!)
その無垢なる光の刀身を渾身の力で握りしめると、僕は自身の胸の辺りに剣先を突き刺した。
いかに聖剣の力が強大で、魔族種となった僕でさえ抗えないとしても。
聖剣を完全に支配下に置き、意のままに操る方法がたったひとつだけ存在する。
――『虚空心臓』。
僕に無限の再生力と魔力を供給する龍神の心臓。
それを格納する異なった世界。
そこは、この暗黒の世界と同じく、別の物理法則に支配された異界。
僕の
己が最大の弱点をさらけ出すリスクを背負い、僕は『虚空心臓』の内部へと聖剣を封じ込める。
最後の抵抗とばかりに聖剣が暴れる。
僕は皮膚の再生しきれていない右手も使い、渾身の力を込めて聖剣を押し入れる。
銀色の刀身が僕の身体に完全に埋まった瞬間――暗黒の世界が崩壊した。
薄氷が割れるような音と共に、闇が崩れ、その隙間からまばゆいばかりの光があふれ出した。
世界が壊れていく。
そして僕も再び、世界から消滅した。
*
その感覚は初めて魔族種の力を受け入れたときに似ていた。
ヒト種族だった自身の肉体がバラバラにほどけてまた集まろうとする。
僕を僕たらしめる構成要素。
その中に、新たに別の何かが入ってくる感じがした。
それは、ヒトという器にあまりにも大きな力だった。
魔族種という破格の器ですら支えきれない力を手に入れた僕は、ヒトとも魔族種とも言えない、別の何かとなって再び生まれ変わるのだった。
*
「――うッ、――がは、ごほごほッ――!」
意識を取り戻した瞬間、激しく咳き込んだ。
肺呼吸など何百年かぶりにしたような気がする。
「こ、ここは……?」
『聖剣の祠』――コロッセオ神殿、のような闘技場の中心に僕は倒れていた。
驚いたことに暗黒世界に取り込まる前の、何もかも元の姿のままだった。
「…………」
あれは――あの光景は夢だったのか?
聖剣を手に入れるため世界を滅ぼうそうとした。
聖剣の生み出す暗黒世界に取り込まれ、そこでさらなる狂気を実行した。
最後には光の剣に手を伸ばし――
「それから、どうなったんだっけ?」
やはり夢だったのか。
あんな無茶苦茶な方法で聖剣を手に入れようとしたこと自体が間違いだったのか――
「なんだ――?」
自身の肉体に違和感を覚える。
魔族種として生まれ変わった僕の中に、何か別の力の存在を感じる。
そう意識した途端、右手に光が爆発した。
「これは――」
手の中に、一切の装飾を廃したむき身の刀身が握られていた。
間違いない。これはあの聖剣である。
否、剣であって剣ではないもの。
僕が剣と認識しているからそのような形を取っているだけの、全く別の何か。
『ゲート』という異界の扉を開き、世界を調停するために遣わされる神様のシステムそのもの――
「は、はは……。ああ、もう笑いも出ないや……」
自分がこの世界の理から、明確に逸脱したことを理解する。
なんの力も持たないちっぽけな人間から、魔族種龍神族という、魔法世界では神にも等しき力と不死身の肉体を手に入れた。そして今、さらに聖剣というチートクラスの武器まで手中に収めてしまった。
「なんだか……ずいぶん遠くに来たみたいだ」
たったそれだけの期間に僕は何を失い、何を手に入れたのか。
未だに精神は未熟な僕は、自身に降り掛かった尋常ならざる数々の出来事に、恐怖と僅かな興奮を覚えていた。
「でも、僕の目的は変わらない」
セーレスを助ける。彼女を害する全てを排除する。
そのためにも、今は地球へと向かわなければ――
「それはそうと、僕はどれだけ眠ってたんだ?」
あるいはどれだけの時間消滅していたのか、時間の感覚が曖昧だった。
まさか数年など経ってはいないと思うが、あの暗黒世界が浦島太郎より質が悪い可能性も十分ありえるかも。
「――ッ! これは!?」
龍神族の特別な眼を使い、急ぎ周辺を策敵したとき、僕は最悪のタイミングで目を覚ましたことを理解した。
大気中に拡散する炎の魔素が活性化している。
そして百や二百では効かない、ヒトの『憎』の意思を感じる。
それは僕という一個人に向けて放たれた純粋な殺意。
次の瞬間、『聖剣の祠』は灼熱の業火に包み込まれた。
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