第51話 聖都⑤ 奴隷商の美女
*
「護衛の仕事?」
「はい、是非ともナスカ・タケル様にお願いしたいのです!」
僕がマンドロスの護衛という名目で聖都に滞在して三日目。
朝食の席で初めてとなる仕事の依頼をされた。
この三日あまり、僕は可能なかぎり聖都を歩き回り情報収集に努めていた。
だが、その成果は芳しくないと言わざるを得なかった。
聖都は繁栄を極めていた。
どういう原理なのか、電気エネルギーによって夜の闇をはねのけることに成功したこの街は、その恩恵を与えるアークマインと、その頂点に立つ教皇を絶対的に崇めており、花の王都ラザフォードからすら入信希望者がやってくるほどだという。
毎日のようにお布施を持った入信希望者が訪れては、聖都周辺の町に滞在し、審査が通る日を今か今かと待っている。お布施を狙っての追い剥ぎや、強盗も多発しており、聖騎士たちが定期的に周辺の町を巡回する事態にまでなって陥っているらしい。
僕がこの三日で得られた情報は、要約すれば聖都は
教皇とアークマインは神にも等しい存在であり、各区画に設けられた教会には、敬虔なる信徒が訪れ、今後も変わらぬ恩恵を受けられるようにと祈りを捧げている。
とまあ、この程度の情報しか得られなかったのである。
密偵や偵察、情報収集などしたことがないので、自分の目で見て、必要とあれば信徒を捕まえて聞いたりした。元々がニートでコミュ障なので、しゃべりかけるのには大変苦労している。
ディーオの真似をして尊大に話しかけたら危うく警備隊に通報されそうになったこともあった。なんだかとてもヒト離れした威圧感があったらしい。
そして今のまま情報収集を続けるべきではない、どうするべきか――と考えていた矢先にこの依頼である。
商談の護衛。よくある話だと言うが、今回は俺とマンドロスの二人きりだ。
アイティアは聖都に残って奴隷として男に奉仕するためのテクニックを髑髏みたいな婆さんから教えてもらうらしい。「意外といいヒトなんですよ」とアイティアは言っていたが、それは洗脳だ、と教えておいた。アメとムチとかマインドファックとかそういうやつである。
正直、そんなことをしている暇はないが、早くも手詰まりになっている。内偵をお願いしているアイティアからは有益な情報は上がってきていない。僕は焦りを覚えていた。
「本日は外来の商人との商談があります。そのため聖都から南に下った先にあるミュー山脈の麓、アクラガスの宿場町にある当商会の支店に席を設けています。相手は得体のしれない商人なので、是非ナスカ・タケル様のお力をお借りしたいのです」
そう言ってくるマンドロスからは僕に対する絶対的な信頼が伺えた。
たまたま道を塞いでいた盗賊を倒しただけなのに、そうして助けたのが聖都で一大拠点を持つ商会の番頭だったとは。まさにこの偶然こそが幸運と言わずしてなんと言おう。
アークマインを崇めているヒト種族など、正直見ているだけで吐き気がするのだが、それでも僕の聖都での立場が保証されているのはこのマンドロスのおかげであるのも事実だ。
たとえ魔族種となり、強大な力を手に入れても、たったひとりでは限界がある。
ならば遠回りと思われる方向にあえて進んで行ってみるのもひとつの手かもしれない。
「わかった。でかけるときに呼んでくれ」
「おお。ありがとうございます! ナスカ・タケル様がおれば百人力ですな!」
商談が始まる前からもう成功したように高笑いをするマンドロス。
僕はぼそぼそとしたパンを塩気の強いスープで胃袋に流し込んだ。
*
馬車に乗り込み、聖都の外壁を抜け、南へ小一時間も進んだ場所にアクラガスの宿場町はあった。
同じ宿場町でもリゾーマタの宿場町とは違い、かなり大きい町だった。
聞けばここはミュー山脈という大山脈を隔て、王都へと繋がる一大宿場町なのだという。
この宿場町を最後に山脈の中には泊まれる場所はなく、旅するものはみなこの町で疲れを落とし、装備をしっかり整えてから山越えをするのだとか。
「そんなに大きな山脈なら、途中に休憩場所でも作ればいいんじゃないか?」
「確かにそれができればいいのでしょうが、ミュー山脈は霊峰なのです」
「霊峰?」
「おや、タケル様は伝説や伝承にはご興味はありませんかな?」
「生きるのに必死でな。それらの教養は、身を固めて余裕ができてからでも学ぼうと思っている」
などと適当なことを言ってみる。
するとマンドロスは「おお」と予想以上に食いついてきた。
「それは素晴らしいお考えです! 私も若い頃は商売に必要な計算や読み書き以外習うつもりはありませんでしたが、年を経るごとにそれらこそがヒトを豊かにするために必要であると気づきました。なんというか自分自身に厚みを与えてくれるのがそれらの教養である気がするのです。薄っぺらな教養しか持たないものにやってくるのも、薄利な仕事ばかりと経験から学びました」
言っていることは至極まっとうなことなのだが、どうにもこの男に言われると素直に受け止める気になれない。相性というか、とことん合わない人間というのもいるものだと思う。そんな相手から一方的に好かれてる状況は疲れるものだ。
「では僭越ながらお教えいたしますれば、王都へと至るミュー山脈の山道の途中には、山を削り出しました台地に霊廟が建てられているのです」
「霊廟?」
僕はリゾーマタで目撃した、旧領主であるデモクリトスの霊廟――荘厳な教会とは名ばかりの箱物を思い出す。
「はい。かつてヒトを超えたヒト以上の存在、勇者様と呼ばれる超越者がおられました。その勇者様が荒れ狂うミュー山脈の火山をたったひとりでお鎮めになられた場所なのです。したがって、ヒトが入植することを王都が堅く禁じているのです」
「へえ」
勇者。ゲームやRPGなどでは有名な存在だ。
やっぱりこの世界にも勇者と呼ばれる者はいたのだ。
「さて、そろそろ到着ですな」
そんな世間話を経て、馬車は停車した。
目の前には立派な商館がそびえている。
三階建ての洋館で、入り口の横にはヒト種族の言語でアナクシアの文字が彫られた看板が下げられていた。
そして、その中にある応接室で、僕は思わぬ顔と再会することとなった。
*
応接室の扉をくぐった瞬間、僕は強い香の匂いを感じた。
かつて嗅いだバガンダのものとはまた違った匂いだった。
甘い花の蜜のような匂いに引き寄せられ、ソファに座る客人を見た時、僕は危うく声を上げそうになってしまった。
「お待たせをいたしました」
マンドロスの第一声に、座っていた人物が立ち上がる。
光沢を失った灰色の長い髪。
ゆったりとしたつなぎの服からでもわかるスタイルの良さ。
スラリと立ち尽くし、貴人もかくやといった様子でこうべを垂れるのは、誰であろう、あの獣人種ラエル・ティオスそのヒトだった。
「お初にお目にかかります。私はエニル・エミル。父のあとを引き継ぎ、小さな商会を切り盛りしている
ニッコリと微笑み、優雅な礼をする。
その姿はまさに一流の商売人、というより貴婦人と言った風情だった。
わざわざヒト種族と言ったのは、多分僕に対して念を押したのだろう。
「これはご丁寧に。私はアナクシア商会で番頭役を勤めますマンドロスといいます。家名は
「はい、アークマイン様の教義は存じております。マンドロス様、こちらこそよしなに」
ちらりと、エニルと名乗ったラエルが僕の方を見やる。
マンドロスは自慢げに僕のことを紹介した。
「こちらは私の護衛であるナスカ・タケルです。若いのに大した実力を持っておりましてな。本日は聖都から引っ張って参りました」
「ナスカ・タケルです。
「こちらこそナスカ・タケル様。ああ、私にはわかりますわ。相当な実力をお持ちのようですね。もしかして魔法師様かしら」
「ほほ、お目が高い。慧眼でいらっしゃる」
「恐れいります」
なんだろうこの化かし合いと言うか腹の探り合いは。
ラエル・ティオスは雷狼族の長で、本来なら自ら剣を持ち、最前線で戦うような戦士であるはずなのに、それが今や貴人のようなたおやかさで、商人としては格上であろうマンドロスと渡り合っている。
それに何より僕が驚いたのは、彼女の態度以上に、その頭部にあるべきものがないことだった。
「タケル様、私の顔に何かついてますでしょうか?」
「いえ、失礼しました。見蕩れていただけです」
「おお、うちの護衛役は年上が好みだったのですか。そうならばそうと言ってくれればいいのに。ははは」
年上好きだったらなんだというのだ。いや、そんなことは決してないのだが。
あれ、セーレスって僕より年上だからそういうことになるのか……?
とにかく、僕がラエル・ティオスを見つめていたのは、その頭部に違和感を認めただからだ。
彼女の頭には、あの立派な狼の耳が無くなっていた。
ウィッグで多少盛っているのはわかるが、それで隠せるほど簡単なものではない。
彼女は根本からばっさりと、耳を切り落としていた。
おそらくマンドロスと渡りを付けるために。
大した女だと感心する。
「まあ、お上手ですこと。私の護衛役にも是非なっていただきたいものですわ」
「いけません、いけませんぞエニル殿。これほどの逸材、聖都にもふたりとおりますまい。奪われてしまっては明日からおちおち外も歩けなくなります」
「あら、そこまでおっしゃるのなら、ますます欲しくなってしまいますわ」
あはは、うふふ、といつまで続くのだこのバカ話は。
いい加減ネタされるのもウンザリなので、僕は護衛らしく目礼をしてからマンドロスの後ろに控えるようにした。
「さて、本日は是非当商会に売り込みたい商品がおありだとか」
「はい。必ずや気に入っていただけるものと確信しております」
「ほう、してそれは……?」
「私が父より引き継ぎました基盤の中でも、最も罪深い商品――奴隷です」
やはりか、と僕は思った。
マンドロスの顔から気持ち悪い笑みが消えた。
痩せこけた頬とギョロリとした眼を半分ほど薄目にしている。
商人としてはこちらが本来の顔なのだろう。
「アナクシア商会が聖都の貴族様を相手に奴隷産業で勃興しております噂、耳にいたしております。当エニル商会の先代は、実は奴隷商として身を起こしたという事情があります。当商会が扱います奴隷もまた、アナクシア商会が取り扱う商品にも引けを取らないものと自負しています」
「ほほ、これは……。ヒトの口に戸は立てられないといえ、まさか貴女のような方からそのような提案をされるとは思いもしませんでしたな……」
「いみじくも商売に噂や情報とは必要不可欠なもの。とくに扱う商品の関係上、その手のお話には常に耳をそばだてております」
「ふむ。しかしですな、こちらとしましても何分繊細な問題でしてな。貴族様は気位が高い上に選り好みが激しい。その方々の目を満足させる商品となれば、相応の見目や教育が必要になりますので……」
そこいらにいる獣人を捕まえたからといって、貴族が満足するような従順で礼節のなっている奴隷に育てるのは難しいとマンドロスは言葉を濁す。だからこそ今こうしている間にも、アイティアは立派な奴隷になるべく教育を受けている最中なのだ。
その教育もただではない。食費だってかかるし、講師にお金だって払わなければならない。何事にもコストはかかるのだ。
「もちろん。それらの教育はこちらで既に施しているものを用意しております。より完成度の高い商品ならば、すぐに卸せるようになります。これは私の勝手な推測なのですが、現在は需要に対して供給が追いついていないのではありませんか?」
「…………」
マンドロスは黙りこんだ。
これは相手の言葉を肯定したのも同じだ。
なるほど。奴隷を欲しがる貴族に対して、それにふさわしい奴隷の数は少ないのか。
「ふーむ。随分と優秀な情報源をお持ちのようですな。確かに、獣人種というのは教育の水準が低い蛮族なので、ほとんど一から再教育をしている状態です。万が一にでもご購入いただいた貴族様に粗相を働くようなことがあれば、アナクシア商会の信用に傷がつきかねませんからな」
マンドロスは気づかなかったが、彼が獣人種を蛮族と言った瞬間、ラエルから僅かに殺気が漏れた。魔族種となった僕の感覚でなければ気づかないほどささやかなものだったので、ラエルの擬態は完璧と言えた。
「その点は保証いたします。そちらで僅かな調整を施すのみで、すぐにでも競りにかけられる商品をご用意いたしましょう」
「ほう、それほどまでに自信がおありですか……」
「もしよろしければ、今すぐにでもご覧いただけますが」
「なんですと?」
マンドロスは身を乗り出した。
ヒト種族の領域に獣人種奴隷を引き連れて歩くリスクは高い。
塀に囲まれて、見張りの兵士にもアナクシア商会の息がかかっている聖都とはわけがちがう。いつでも逃亡される恐れがあるのだ。
「隣のお部屋をお借りしています。少々お待ちを」そう言って音もなく立ち上がったラエルは楚々と部屋を出ていく。マンドロスは口をへの字に曲げたまま僕に視線を送った。
「今のところ敵意はないみたいだ」
「そうですか。引き続きお願いします。少しでも怪しい素振りがあれば……、頼みますぞ」
本当は敵意どろころかおまえを殺す気満々だったのだが。
まあ知らぬがなんとやらだ。黙っておこう。
「おまたせいたしました」
僅か一分ほど。ラエルは少女と思わしき奴隷を一人連れて戻ってきた。ヒト種族の領域では他種族であることがバレれば問題になるので、目深くフードを被り、マントのように身体のラインを隠せる服を着用している。
「よろしければ手に取り、お確かめください」
ラエルが目配せすると、少女はフードを脱ぎ捨てた。
現れた少女の顔に、僕は「ブフッ!?」と吹き出した。
「ナスカ・タケル?」
「いやすまん。ちょっとむせただけだ。続けてくれ」
「まあ、もしやうちの奴隷が故郷に残してきた愛しいヒトに似ていたりしましたか?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべて、わざとらしくラエルが言ってくる。
僕は「いや、違う」と咳払いをして平静を装った。
マンドロスは怪訝な顔をしていたが、商談中に追求するつもりはないようだ。
フードの奥から現れた顔は僕のよく知るものだった。
というか会った回数は僅かでも、ファーストインパクトが強すぎて忘れられなかったのだ。
「はじめまして。よろしくおねがいします」
これまた丁寧なお辞儀をしてニコっと笑いかける赤い髪をした獣人種の少女。
ラエルの屋敷で出会った赤猫族の少女――名前は確かソーラスだったか。
彼女はまっすぐに僕を見つめて微笑んでいる。
その目が何かを期待するように輝いてるのは気のせいだろうか……。
「ほう……、これは赤猫族ですな。年の頃は13,4といったところですか」
「ご名答。今年で14歳になる正真正銘の生娘です」
「触ってもよろしいですか?」
「もちろん、存分に」
マンドロスが触ると言った瞬間、ソーラスの尻尾が心なしか垂れ下がった。
そして口元にあった笑みを消して、マンドロスのことを受け入れる体制に入る。
それでもチラチラっとソーラスの視線が僕に注がれる。
なんだよ、僕に何をしろっていうんだよ。
やんないぞ。僕は絶対にしないからな……!
マンドロスはそんなソーラスの様子に気づきもせず、彼女の真ん前にまで近づくと、くいっとその細い顎を手にとった。
「失礼」
そうして顎にかけた手から親指を伸ばし、少女の下唇を引っ張る。
露わになる少女の歯茎と白い歯。犬歯はやや長く伸びており、小さな少女であっても狩猟民族である事実が垣間見える。
「色艶も問題ありませんな。こちらは……?」
そう言って今度は顎を窓の方に向けて下瞼を引っ張る。
目の前に手をかざしたり、引っ込めたりを繰り返す。
瞳孔反射を見ているようだ。
「健康なようです。では感度は……」
マンドロスはさも当然のようにソーラスの胸に手を伸ばそうとして、不意にやめた。なんだ、どうした?
「いかがしましたか、マンドロス様。何かその者が失礼をいたしましたでしょうか」
「いえ、そういえばと思い出したのです。今当商会に猫人の奴隷を要望しているのは、とある貴族のご子息様でしてな。そう、ちょうどうちの護衛と同じくらいの年齢なのです」
おいおい、こいつは何を言ってるんだ……?
「ナスカ・タケル。申し訳ないが、私の代わりに彼女の感度を確かめていただけませんか。私が触って確かめるより、同じ年頃のあなたの方が適任でしょう」
その時――、僕はどんな顔をしていたのだろうか。
かろうじて無表情でいたとは思う。
自然と僕はラエルを見やり、「どうぞ」という返答を微笑みと共に貰ってしまった。そして赤猫族の少女を見やれば、待ってましたとばかり、満面の笑みを浮かべていた。
「これも仕事だ……」
ソーラスにではなく、自らに言い聞かせるように吐き捨ていると、僕は彼女の前に立とうとして思い直し、ささっと後ろに回った。せめて顔を見ないようにという配慮だったのだが、「ほう」とマンドロスの感嘆を得ることとなった。
あくまで判断をするのは彼であり、少女の表情や仕草が判断材料であるのだから、僕の気遣いはマンドロスの要望をアシストする結果となってしまった。
「あ」
ソーラスの猫耳に触れる。
牢獄の中で触った時と同じように、その輪郭を撫で、耳孔に指を入れる。
指先に当たる軟骨をコリコリとすると、少女はギュッと目を瞑り、口元を抑えた。
「声を我慢する必要はありませんよ、ありのままに、感じたことを声に乗せなさい」
ラエルがまるで聖母のようなほほ笑みを向けながらソーラスに言う。
「は、い……」と力ない返事をして、彼女は深呼吸をひとつ、居住まいを正した。
僕は再び猫耳を愛撫する。
「あっ、あっ、ああ……!」
甘えるような、鼻にかかった艶声を上げるソーラス。
僕はゆらゆらと蠢く尻尾をギュッと押さえつける。
ビクンッ、と少女が身体を強張らせる。
ゴシゴシと尻尾の毛並みを逆立てるようにしごいていく。
「はあっ、はああっ、ああっ、はぅう……!」
ソーラスの荒々しい呼吸に合わせてケモミミの中のコリッとした軟骨をつまみ上げ、尻尾の先端から付け根を逆撫で、最後は尾の根本をギュウっと握りこんだ。
「はあっ、はああああああッ――!」
嬌声とともにソーラスが喉をそらし、ピーンと全身を硬直させた。
次の瞬間には力がいっぺんに抜け落ち、膝から崩れ落ちる彼女を、僕は後ろから抱きかかえた。
「す、素晴らしい……! ナスカ・タケルよ、まさか猫人族の扱いを知っていたのですか……?」
「いや」
「だとすればこれも若さ故の才覚ですか。あなたに任せてよかった。私はヒト種族と同じような部位で感度を確かめようとしましたからな」
マンドロスは絶賛だった。拍手喝采のスタンディングオベーションだった。
僕はただ単にヒト前で女の子の胸やお尻を触るのが照れくさくて避けたのだが、結果としてそれは大正解だったようだ。
「本当に素晴らしいですわ。私の商品をここまで昂ぶらせるなんて。女を誑し込む才能
そう言いながら僕の手からソーラスを受け取ったラエルの目は笑っていなかった。
これは彼女のなりの本音半分、嫌味半分といったところだろう。
と、その時、ソーラスが熱にうかされたように僕の名を呼んだ。
「タ、ケル様……もっとぉ」
「あら、ダメよ。もうおしまい。おかわりが欲しかったら、ちゃんといい子にしていないとね」
余計なことまで口走りそうだった少女の口元を押さえつけ、ラエルは控室に戻っていった。
「あなたを連れて来て本当に助かりましたぞ」
僕は思わぬ方向にまでマンドロスの尊敬を集める結果となり、盛大なため息をついた。
何をやってるんだろう僕は……。
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