第30話 死と再生と誕生⑥ 崩壊

 あれ……。


 僕はひとりきりだった。


 辺りはまだ暗い。


 腕の中にあったはずの彼女の温もりが消えている。


 どこだセーレス。


 どこに行ったんだ。


 暗闇の中、両手を伸ばしても彼女に触れることはない。


 遠くで何か音がする。


 それは何かと何かが激しくぶつかり合う音。


 何かと何かが必死に地を駆けずりまわる音。


 そして誰かが叫んでいる。


 な・う・と――


 タケル、ナウト――と。


「え」


 目の前が真っ赤だった。

 猛々と立ち込める煙に咽る。

 燃えていた。

 あばら家が。

 籠も鍋もフライパンも。

 何もかもが炎に包まれていた。


 僕は跳ね起き、入り口から飛び出した。

 飛び出した途端、ものすごい衝撃が頭部を襲った。

 一瞬にして全てが遠ざかる。

 視界も、音も、匂いも、感触も、何もかもすべてが。

 ゴシャ、と顔から地面に落ちるのが気持ちいい。


 頭をあげようとして、何かに踏んづけられているのがわかった。

 首を巡らせると、蒼色の甲冑を身につけた騎士が僕を足蹴にしていた。


 フルアーマーの全身甲冑。

 リゾーマタの紋章ではない、見たことのない徽章が胸に彫られている。


 それよりなによりも、その騎士はゾッとするほどの冷たい視線を僕に向け、そして手を伸ばした。


 僕の懐から零れた、電源の死んだスマホを手に取る。

 男の顔に、憤怒が宿った。

 ガンっ、ととんでもない力で頭を踏まれる。

 呻くこともできない。

 痛みすら感じない。

 これ、不味いやつだ……。


 また声が聴こえる。

 ぼやける視界の中で、セーレスが男たちに雁字搦めにされていた。

 必死に抵抗したのだろう。

 全身がボロボロになっていた。

 彼女より遥かに大きな体躯を持った銀甲冑の騎士たちが群がり、手を脚を、カラダを組み伏せていた。


 やめろ――! セーレスに触るな!


 声が出ない。

 自分のカラダが自分のモノじゃないみたいだ。

 そうして僕は抵抗も虚しく、再び踏みつけられた。

 抗うこともできず、意識が泥の中に沈んでいく。

 泣きながら必死に叫び続ける彼女の姿を目に焼き付けながら。

 僕は気を失った。

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