第18話 町へ行こう⑥ 鉄相場と香辛料
パルメニさんに見送られ、無事ギルド登録を済ませた僕は、先程のおじさんのいるロクリス食堂へと足を向けた。
僕が入り口をくぐるとおじさんは、「遅い! 晩の仕込みにとりかかるところだったぜ!」と笑って、早速肉を買い取ってくれた。
なんともも肉が1万4000ヂル。ロースは2万ヂルで買い取ってくれた。
こんなにもらっていいんだろうか。
どうやら、もも肉は主にシチューの具材として、ロースは切り出してステーキにするらしい。
例えばステーキなら20食分は焼けるとのことなので、ちょっと頭の中で計算してみる。
多分、平均的なこの世界の一食分が500ヂルとして、地球では高級和牛のステーキなんて言ったら、まず1000円じゃ食べられないし、最低でも2000~3000ヂルは取るだろう。
うん。十分もとは取れるようだ。
「おお、やっぱいい肉質だぜ。どうだ、喰ってくか。一番に食わせてやるぞ」
「いえ、暗くなる前、帰ります」
「そうかい。じゃあ今度は喰ってけよ!」
「はい」
別れ際、おじさんに調理器具と調味料の売っている店を聞いてみた。
「なんだ、おまえ俺の商売敵になるのか?」
「い、いえいえ、違います」
「冗談だ。町の東の入り口近くにあるぜ。武器屋の隣の店だ。大体揃う。調味料は良ければ俺が分けてやる。何が欲しい?」
「あ、じゃあ、えと、塩と、香辛料を」
「塩はいいが、香辛料か? 生の香草と乾燥させたのがあるぜ」
「長持ち、いいです」
「じゃあ乾燥させた方になるが、高いぞ?」
「いい、です。これで、買えます?」
僕は受け取った銀貨と銅貨を返すようなことはせず、いったん懐に閉まってから改めて取り出す。
「おいおい、1万ヂル分もかよ」
「お店、迷惑、ダメです?」
「いや、仮にも料理屋だから多めに仕入れちゃいるが。まあいい、ちょっと待ってろ」
店の奥に引っ込むと、おじさんは直ぐに戻ってきた。
手には一抱えもある麻袋とその半分くらいの袋を持っていた。
「こっちが塩だ。こっちは香辛料な。粗いんですり潰したり砕いたりして使いな」
「ありがとう、ございます。助かり、ます」
「おう」
おじさんの食堂を後にし、僕はほくほく気分で金物屋へと向かう。
そして、そこで現実は甘くないことを思い知らされた。
「フライパン、7万ヂル!?」
これではゲルブブの討伐報酬がまるまる吹っ飛んでマイナスじゃないか。
「あー、しゃーないんじゃよ。つい最近も遠征があったでな。何とかってところの、何とかってのに軍を送って、何とかってのをとっ捕まえて、むにゃむにゃ……」
いや全然わかんないよじいさん。
ようするに鉄不足ってことなのか。
軍の遠征やなんかがあったりすると、周辺の町や村では食料不足になったり、価格が高騰したりすることがある。鉄なんかも優先して武器作成に回すので、こういう鉄製品の価格が急騰したりするのだ。
でも、それにしたって7万ヂルはないだろう。
実はフライパン以外にも、町の食材を買っていくつもりだったのに。
これを買ってしまったら、『アレ』が手に入らないかもしれない。
うーん。
塩と香辛料に使いすぎてしまったかも。
でもな、と考える。
今日は僕のせいでセーレスに嫌な思いをさせてしまった。
知らなかったでは済まされない。
僕のために来たくもない町に来て、あんな目に遭わせたお詫びをしたいのだ。
ええい、地球にいた頃の価値観は捨てろ。
お金なんかなくたって十分暮らしていけるじゃないか。
むしろ全部きれいに使い切ってやる!
「すみま、せん!」
「わっ、なんじゃい、びっくりした!」
てな感じで、眠かけこいていた爺さんを叩き起こし、僕はフライパンを購入した。
残金は2000ヂルだ。短い天下だった。
さあ、もう日も傾いてくる時間だ。
必要なものだけ買って、さっさとセーレスを迎えに行こう。
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