家族

私は物心つく前に事故で両親を失った。

両親の顔も思い出せないし、そのことを聞いた時も「そうですか」と他人事のように感じた。

両親に親戚らしい親戚はおらず、施設での生活を余儀よぎなくされた。


それでも別に自分が不幸せだとは思ったことはない、両親がいなかろうが、今自分はここで生きている。立って歩けるし、読み書きだって問題なくできる。

最初のころは手のかからない子ということで評判は良かった。だけども時間が経つと施設の人たちは「まだ10歳なのになんだか達観している、不気味でしょうがない」と言った。

そこで初めて自分が年不相応な性格をしてると知り、そのことはほんの少しだけ寂しいと思った。


間もなくして、私を引き取りたいという独身の男性が現れた。なんて物好きなと思った。後に彼はめいに似ていたから引き取ったと言っていたが、当時は、私より可愛い子も、聞き分けのいい子だっている。そこから私を選んだ彼を、なんだか似ていると、変わり者同士だと思ってしまった。


「この方が新しい親、パパだよ」と施設の人は言った。もう10歳の私には父と思うこともできず、「おじさん」と呼んでいた。


おじさんは過度かどにコミュニケーションを取ろうとしなかった。無表情で、物静かで、会話は確かに少なかったけど、おじさんの心遣いや優しさが生活の中で散らばめられていた。そんな距離感が私には心地ここちよかった。


「行ってきます」、そういってもおじさんは何も返事はしない。ただ新聞片手にコーヒーをすするだけだ。最初は聞いているのかわからず、言わなくなったりもした。でもそれは、おじさんなりの返事の仕方なんだと理解したら、なんだか心地よくなった。


引き取られてから7年が経ち、高校2年生になったけど、まだおじさんのことは父親とは思えなかった。むしろ時間が経つにつれて、親とは違うなにかを感じていた。親を知らない私が言うのもおかしな話だが、とにかくそう思えて仕方がなかった。


「それは恋だね!」帰り道で万年恋愛脳な友人は自信満々にそう言った。どんな話題でも愛だの恋だのにつなげたがる彼女に、まともな相談なんて出来るはずもなく、「そんなことある訳ないでしょ」そう言い放って彼女と別れた。

家に帰って着替えると自室のベッドにうつせで倒れこむ。今までおじさんについてこんなに考えた事なかった。恋、それがこの気持ちに一番近いのかもしれないと、そう思ってすぐに否定してしまう。あの友人に思考回路が毒されてしまっているのだと言い訳をして。


恋だと自覚してしまえば心のもやは晴れるだろうか、でもあんな不愛想ぶあいそうで、私以上に何考えてるかわからない人なんて、でも…

そう思考がループしてるうちは、目を合わせられなかった。


この気持ちが恋なのか、その解は出ないままで


「行ってきます」


この問いの答えはあとどれくらい一緒に過ごせば見つかるかな

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