運命狂信型、機構少女①

 私が最も好きな時間。それは自らの望みが叶う瞬間、叶った瞬間である。最も嫌いな時間は自らの望みが叶わない瞬間、叶わなかった瞬間である。私はこの日、世界一の喜びと世界一の悲しみを味わった。


◆◆◆◆


 私は失敗したのか?失敗?失敗?失敗、失敗。失敗。失敗。そう、失敗したのだ。間違えた、間違えた、間違えた間違えた。思い込みがあったのだ。こんなことがあってはいけなかった。価値観の押し付け、思い込み。私が違うのに、彼女がそうであるというのは全く成り立たない論理だった。彼女に対して本当に申し訳ないことをした。

 だが後悔なんてしても仕方がない。私は頭を抱えて、それをかきむしりたい衝動を抑え、この場にふさわしい顔で普通に過ごす。

 そうだ、問題は無い。失敗したならこれをバネに次は失敗しなければいいのだ。間に合う、間に合わせる。これは失敗ではない。成功への筋道だ。私の思考のBGMには動物たちの鳴き声が流れていた。……目を閉じて追憶にふける。


 辺りが光に包まれる。それ以前のことは退屈でもう忘れてしまった。その時点で退屈だった私の人生に彩りが生まれたのはその数分後のことだった。私は生まれてすぐ母親を認識したが、彼女。同じ日に隣の部屋で産まれた彼女は、初めて認識した同年代の友達だった。 誕生日が同じ。このことを理解したときはまさに運命であると悟った。


 透明な機械越しに見つけた彼女の名前は真奈香雨音。言葉そのものは後から知ったものの、私が定義した完全なパートナーであると確信。私はまなかあまねと真奈香雨音という文字を自分の名前より早く書けるようにした。入る幼稚園は同じだったが、接触しなかった。幼稚園もだが、それから中学までクラスが同じになることは無く、喋ったことは一度も無かった。


 それでも彼女には常に気を配り、不和分子が発生しそうな雰囲気を察知すれば瞬時に対応し空気を無かったことにした。彼女のための努力を続けるために、高校も同じにしようと努力し、進学先を調べ同じところにした。


 そして最も重要なのは、劇的な出会い方だ。誕生日が同じ、生まれた場所が同じ、学校が同じ………雨音に運命を感じてもらうために出会いは最も重要であるのは当然のことだった。その他の偶然の一致は運命というスパイスだ。私は『出会いに曲がり角でぶつかってそこから友情が芽生える』というものを選択した。雨音の通る道で待ち、然るべきタイミングで前に飛び出す。


◆◆◆◆


 動物の悲鳴で目を開ける。うるさいな。彼女の涙が流れ落ちる音が聞こえないのか!?思わず立ち上がって叫びそうになったが抑える。すっかり癖となってしまった、髪を整えてから弾く行為。それをして心を落ち着かせた。


 私は清廉潔白品行方正ミステリアスな人間で通っている。私は奇天烈人間じゃない。常識はわきまえている。まさか、そんな葬式で騒ぎ出すなんて真似するはずがないだろう?でも、でも。少し喋るくらいならきっと、許されるだろう?

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