楽園少女は口ずさむ②
人生で、これほど悲しみに包まれた空間は存在しないだろう。平静を保てない感情と冷静な脳の一部分で考えていた。人が、死ぬ。突如、死ぬ。
少しの後悔が一生の後悔に化け、付きまとう呪い。昨日までにこやかに話していた彼女。だが、もう彼女は棺の中で…いや、棺には何も入ってないんだったか。とにかく、二度と声を発することはない。鈴のような声と呼ばれ、親しまれていた声だったが、小鳥は潰れてしまった。二度と。二度と。そういった言葉が頭の中を循環する。これが、絶望、という感情なのだろうか。小鳥は二度と、囀ずることも、羽ばたくこともない。
下を向き、何も考えたくなくなっていた私に一つの音が向かってくる。
「あの、大丈夫、ですか」
辿々しいながらも心配していることがわかる声色。顔をあげると、そこにはいつか見た顔があった。天は私を見放してはいなかったのだろうか?
これに答えない限り私には何も無くなってしまう。
「……ええ、貴女のおかげで。少し大丈夫になりました」
話しかけてくれた女神は少しきょとん、としたがすぐに言葉を紡いでくれた。
「気分が悪いなら、私に言ってくれませんか」
私の中の救いの女神。私に都合の良い言葉を奏でる。
「私は、貴女の役に立ちたいんです」
暗い感情が渦巻いていた私にようやく光が指した。ああ、どうして、この子は私に接してくれるのか。こんな、最低な私を。……私はこの子に謝っても許されないことをした。でも、この子はそれでも許してくれるだろう。確信に近い思い込みがあった。しかし、それを彼女に直接言い出すことはできなかった。渦巻く感情は別の感情と入れ替わり、別種の決して外側には出せないものになっていた。結局のところ、私は勇気が出なかったのだ。許してもらうことは、怖い。
いつまでたっても大事なことを何も言わない私に、それでも、この子は真摯に付き合ってくれた。
式が終わっても話し続けてくれ、気がつくと私の家まで歩いていた。元気を取り戻したように見えた私を見て安心したようで、最後に「また、明日、学校で会えますか」と言ってきた。
私は迷いもせず……少し迷ったそぶりをしてから、ええ。とだけ答え別れた。私は平静を保てない感情と冷静でなくなりつつある脳で可愛らしい私の女神について考えていた。
ああ、彼女が構ってくれるなら、友人との別れも悪くなかったかもしれない。そんなことを考えてしまうくらいには私は非常に浮かれていた。そして、すぐに元友人は私の心から消える。小鳥は二度、死んだ。
「明日も、この幸福な夢が続きますように」
そう、ひとり部屋で呟き、ベッドに倒れこむ。暗い感情が渦巻いた空間に居たことで余程疲れていたのか……私の意識はそこで途切れる。そして。
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