第4話 宝くじで勝つ方法

 第一話で紹介した宝くじ必勝法を生み出した男の話をします。


 最初に言っておきますが、これは三十年近く前の話であり、現在でも通用するものではありません。ただ、ここまでのおさらいとして非常に良い例なので、このタイミングで取り上げることにします。


 繰り返しますが、ギャンブルで勝つ方法は「期待値」と「確率の収束」を追いかけることだけです。


 犯罪行為やイカサマ、そしてパチンコやパチスロなどの機械相手のギャンブルでは過去に実際に攻略法が存在したこともありますが、それはまた別の機会に紹介します。


 宝くじ必勝法を生み出した人物。その男はルーマニア人の経済学者ステファン・マンデルといいます。1960年代、共産党のチャウシェスク独裁政権下にあったルーマニアにおいて、彼の生活は非常に困窮していました。国から支給される給料は一万円にも満たず、どうやってお金を増やすかということに腐心する毎日だったようです。


 そこで、彼が目をつけたのが宝くじです。


 彼は得意の数学を駆使して必勝法を生み出し、なんと14度も宝くじに当選しています。彼が注目した宝くじとは、複数の指定された数字の中から数個の数字を選ぶ、といういわゆるロト6タイプのものでした。この方式のくじは、毎回全ての組み合わせが売れるわけではないため、一等が出ないことがあります。この場合、一等当選金はキャリーオーバーとして次回に持ち越されることになります。


 彼はこう考えました。


 何度もキャリーオーバーされて膨らんだ当選金額と、全ての組み合わせのくじを買い占めたときの合計金額を比較し、当選金額の方が多ければ「期待値は100%を超える」と。


 まさにその通りですよね。理論上、負けることはない宝くじ必勝法がここに誕生したのです(厳密にいうと、一等が二口あった場合は当選金は半分になるので、この点も考慮して、多額のキャリオーバーが発生した時だけを狙います)。


 しかし、全ての組み合わせを買い占めるには膨大な資金が必要でした。彼は軍資金を集めるため、インターナショナル・ロトファンドという投資信託を立上げ、投資家たちから出資を募ります。そして、当時のレートで11億円もの資金を集めることに成功したのです。


 ステファン・マンデルがこの資金を元手にして宝くじを買ったのは、アメリカのヴァージニア州が主催するロトくじでした。1992年の2月、キャリーオーバー合計金額が34億5千万円に到達します。全ての組み合わせを買い占めるには、700万枚以上のくじを購入する必要があり、彼は35人もの人員を雇って有り金を突っ込みました。トラブルもあり、結局は78%までの買い占めしかできなかったそうですが、彼は見事に一等の当選金を手にすることに成功したのです。


 しかしこれ以降、アメリカでは全ての州で宝くじの全通りを購入することを禁止する法律ができたので、現在ではこの必勝法は通用しなくなっています。


 さて、この話の教訓はなんでしょうか?


 「期待値が100%を大きく超える」ように「当選確率を78%まで収束させた」ということです。ステファン・マンデルは勝つべくしてこのギャンブルに勝ったのです。


 と、ここで気になったので日本のロト6についても調べてみました。


 ロト6は「1」から「43」までの数字の中から6つを選び、その全てがヒットした場合の一等当選金額は二億円です。キャリオーバーもありますが、その上限は六億円に設定されています。ちなみに、くじ一枚の値段は200円。


 43個の数字から6つを選ぶ場合、その組み合わせは6,096,454通りとなります。買い占めるとすると、この数字に200円をかければいいので、約12億円という結果になりました。買い占めれば、必然的に二等以下も当選しますが、二等当選金額は一千万円と大したことはありません。高額当選が二口以上発生することも考えれば、最高キャリーオーバー時のロト6の期待値は確実に50%を下回るでしょう。つまり、ロト6は勝てないギャンブルだということです。


 ロト6の期待値が45%だったとしましょう。


 もしあなたが、毎月一万円をロト6の購入に充てているのならば、それは毎月五千五百円をドブに捨てているのと同じです。期待値を追う、とはそういうことです。


 ではここで、日本で身近にあるギャンブルの平均的な期待値ランキングを発表します。あくまで理論上の目安の数字です。


一位:パチンコ、パチスロ 70~85%

二位:競馬、競輪、競艇、オートレース 75%

三位:宝くじ 45%


 パチンコ・パチスロは以前は90%に迫る時代もあったようですが、昨今の業界の衰退と売上減少により、その期待値は大幅に低下しているようです。


 海外のカジノにも目を向けてみます。


 カジノに設置してあるスロットの期待値は95%と言われていますが、基本的にはやっていはいけないギャンブルの一つ(理由はまたの機会に)。全てのギャンブルの中で最も期待値が高いのはブラックジャックです。フル攻略すればその期待値は99%に近づき、またカウティングというテクニックを使えば、わずかながらですが100%を超えます。カジノのギャンブルにおける期待値は往々にして日本のギャンブルよりも高いですが、だからといって勝てる訳ではありません。むしろ大金を一瞬で失い、ぼろ負けするリスクはカジノの方が高いと言えます。この点についても追って解説していきます。


 大切なことは、期待値の平均が100%を超えるギャンブルなど存在しないということ。胴元は利益を得るために賭場を提供している訳ですから当たり前です。彼らはボランティアではありません。


 もう一度、日本のギャンブルの期待値ランキングに目を向けてください。宝くじ、競馬、パチンコの順に期待値が上がっていますよね。


 これはなぜなんでしょうか? 気づくことはありませんか?


 一つは抽選から結果に至るまでにかかる時間が影響しています。宝くじは結果が出るまで、月単位で時間がかかります。競馬は30分くらい。パチンコやスロットは一回の抽選を受けるまでの時間は秒単位です。時間当たりの試行回数が多いギャンブルほど、その期待値は上がる傾向にあります。もしパチンコやパチスロの期待値が45%だったとしたら、とんでもないスピードでお金が減っていくことになるので、こうなると客が飛んでしまいます。


 そしてこれは、当選金額の大小にも関係しています。一度の抽選で得られる当選金額が大きいほど、抽選から結果に至るまでの時間は長くなる傾向があります。宝くじは期待値が低い代わりに、当選金額が億単位。もし年末ジャンボ宝くじの一等当選金額が10万円だったら、誰もくじを買わなくなるでしょう。人は大金に目が眩むという習性が利用されている訳ですね。


 もう一つの理由はコスト。胴元にとってコストがかかるギャンブルほど、その期待値は下がる傾向にあります。パチンコ屋の経営だって、人件費、土地・建物代、電気代、新台入替費用など様々なコストがかかります。ビジネスですから、これに加えて純粋な利益も稼がなければなりません。これら全てを考慮した上で、期待値が設定されているのです。


 このコストは誰が払っているのか?


 疑う余地はありません。全てはプレイヤーの財布から出たお金です。


 パチンコで勝つとこのように考える人がいます。


「よし、店側から金をふんだくってやったぞ」


 間違った考え方です。


 どんなギャンブルにおいても、あなたが手にしたお金とは、全てのプレイヤーが胴元に支払ったお金の一部なのです。ギャンブルのプレイヤーとは、全てのプレイヤーが払い込んだお金を奪い合う存在に過ぎません。結局は宝くじのシステムと同じなんです。そしてこれは、ギャンブルに参加するカモ(素人)が多ければ多いほど、儲けるチャンスが生まれるということを意味します。大事なことですので覚えておきましょう。


 今回はここまで。


 次回からはいよいよ日本のギャンブルの王様であるパチンコに斬り込んでいきたいと思います!

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