第2話 ギャンブルの仕組み(その2)
突然ですが、ここでクイズです。
期待値に関する簡単な質問で、あなたのギャンブラーとしての資質を測ります。
質問① AとBのどちらを選びますか?
A:100%の確率で1万円もらえる
B:80%の確率で1万5千円もらえるが、20%の確率でお金はもらえない
Aを選べば問答無用で必ず1万円が手に入ります。では、Bを選んだ場合はどうでしょうか。Bを選んだ時の期待値を計算してみましょう。
Bを選んだ場合の期待値:15,000円 x 80% = 12,000円
Aの期待値を100%とするならば、Bの期待値は120%という結果になりました。つまり、期待値という観点で考えるのならばBを選ぶのが正解です。BはAよりも1.2倍も儲かる選択肢なのです。ここでAを選んだあなたはギャンブラーには向いていないと言えるでしょう。
では、次の質問です。
質問② AとBのどちらを選びますか?
A:100%の確率で1億円もらえる
B:80%の確率で1億5千万円もらえるが、20%の確率でお金はもらえない
もらえるお金が一万円から一億円に変わっただけの質問です。期待値はBの方が高いのはあきらかで、Bを選択すればAよりも1.2倍儲かる計算です(2000万円も!)。でもBを選んでしまうと、確実にもらえたはずの一億円をドブに捨ててしまう可能性があります。最初の質問でBを選んだのに、今回はAを選ぶという人も多いのではないでしょうか。それはなぜか? 一億円が大金だからです。人は大金を目の前にした途端に、目の前が曇って間違った選択をしてしまうのです。
最後の質問です。
質問③ AとBのどちらを選びますか?
A:100%の確率で1億円払わなければならない
B:80%の確率で1億5千万円払わなければならないが、20%の確率で払わなくて良い
これまでと逆のパターンですね。Bの期待値はマイナス1億2千万円となるので、Aよりも2000万円も多く払わなければいけない計算になります。期待値の観点からいくと、Aを選択するのが正解です。ですが、普通の人はBを選ぶでしょう。なぜなら、一億円も持っていないからです。現実の世界で実際にこの状況に置かれることを想像してみて下さい。きっとこうなるはずです。
「Bだ! Bを選択する! 一億円も払えねえ……。貯金だって50万円しかないのに……。頼む、頼むから20%を引き当ててくれええ!!」
あなたは額に脂汗を浮かべ、絶叫し、必死の思いで神に祈るでしょう。
この自分では思い通りにならないことの結果を強く願うという行為こそが、人がギャンブルに熱狂するものの正体です。我を忘れるほどに興奮し、他のものは一切目に入らなくなります。そしてこの状態のとき、あなたの脳みそはチンパンジー以下に退化しています。
あなたがパチンコで、
「ああ、もう駄目だ。これが最後の一万円……。神よ、我に確変を!」
と願い、ハンドルを握る手にグッと力を込めたとき。
パチスロで、
「GODだ! ここから逆転するには8000分の1のフリーズを引くしかねえっ!」
と握りしめた拳で、力を込めてレバーを叩くとき。
競馬場で、
「差せええぇっ!差すんだジョォーーっ!!」
と絶叫するとき。
いずれのときも、あなたの脳みそは正常に機能していません。哀れなチンパンジー以下となってしまった知力では、期待値の計算など到底することができないのです。往々にして、ギャンブラーはこのような状態に陥ります。
そして熱狂が過ぎれば後の祭り。
なんであのとき最後の一万円を使ってしまったんだろう。ギャンブラーなら誰もがこのような後悔をした経験があるはずです。それはひりついた勝負が終わって、脳が正常な状態に戻ったからこそ、浮かんでくる後悔なのです。
ギャンブルの楽しみの根源である熱狂は人の頭を狂わせます。もしあなたが勝つためにギャンブルをしたいのであれば、熱狂を求めてはいけません。常にクールであり続け、明晰な頭脳を持って期待値を追い求めていかねばならないのです。これはギャンブルで勝つことが難しい大きな理由の一つでもあります。熱狂を求めて博打を打つのに、熱狂していては勝てないのがギャンブルなのです。
さて、先ほどの質問②と③に戻りましょう。
宝くじのときと同じように、もしあなたが100億円持っていたら、と考えてみてください。質問②ではBを、質問③ではAを選び、きっと純粋に期待値を追い求めた正しい選択ができるのではないでしょうか。このように大金は人の目を曇らせ、誤った判断へと導きます。これもギャンブルで勝つのが難しいもう一つの理由です。そしてこれは同時に、ギャンブルは基本的に金持ちが有利であることの証明でもあります。
大金の価値は人によって異なります。十万円が大金という人もいれば、千円が大金だという人もいるでしょう。大切なのは、その人にとっての大金を賭けてはならないということです。「ギャンブルはほどほどに」という言葉がありますが、実はこれ、的を射た名言なんですね。
こんな反論をする人がいるかもしれません。
「ちょっと待てよ。一度しかチャレンジできないなら、俺は確実にお金をもらえる方を選ぶ。それが一万円でも一億円でも、もらえないよりはマシだろう?」
一理あるような気がしますよね。ただし、もしあなたがギャンブラーとしてお金を稼ぎたいのであれば、その選択は間違いです。ギャンブラーは常に期待値を追い求めなければなりません。そして実際にプロは皆、そのような選択をしています。
一度しかチャレンジできないなら
実はこの部分にとても重要な秘密が隠されています。
それは「確率の収束」です。
そのギャンブルは一度しかできないのか、それとも百回できるのか、或いは一万回できるのか。期待値とはあくまで、結果として期待できる仮の数字。一度の試行回数で100%確実に達成できる数値ではないのです。運悪く20%の方を引き当ててしまえば、もらえたはずの一億円がもらえないという結果も当然起こり得ます。しかし、それでも期待値が高い方を選ばなければならないのがギャンブルなのです。
ですがご安心ください。そのような不幸をカバーする数学的な方法論もきちんとあります。そして本物のプロはそれを忠実に実践しています。ギャンブル必勝法は確かに存在していて、実際にギャンブルで生活しているプロはいるのです。
突き詰めれば、全てのギャンブルは「期待値」と「確率の収束」の二つの要素だけで構成されています。この二つを正しく理解し、それぞれのギャンブルに当てはめて、現実の期待値が100%を超えるようにすればいいだけ。
投資の世界でも、投資はギャンブルだと言う人がいますが、ある意味正解です。ギャンブルは手持ちのお金を投入して利益を得ようとする行為なので、一種の投資行為として捉えることもできます。
この「期待値」と「確率の収束」という考え方は、日常のあらゆる場面でも応用することができるので、ギャンブルに興味がない方も知っておいて損はないでしょう。
次回から「確率の収束」について解説していきますが、小難しい数学を用いる気はさらさらありません。できる限りわかりやすく、簡単な解説を心がけます。「確率の収束」というものの正体、概念さえ知ってしまえば、自ずとギャンブルの仕組みも見えてくるはず。決して難しく考える必要はないのです!
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