2章 ズルとチートは違うんや!

第11話 家の中の宝箱からドロップした


門からずっと直線に進んだところにある貴族街には少しだけグラフィックがまともなNPCが闊歩している。

王城、貴族の住まいがある貴族街とそれ以外との間には見えない透明な壁がある。

見えない壁とそれ以外つまり平民街や商業街にある建物の隙間に挟まってガクガク落ち続けているNPCやモンスターが印象的だ。

見えない壁はあるものの、壁に向かってバックジャンプをしているとすり抜けられてしまう。

そのほかにも、見えない壁に背を向けて移動可能オブジェクトを自分に重なるようにおいても通り抜け可能だ。

商業街に"落ちてた"ワイン入りの箱を掴んで貴族街とを隔てる壁まで移動すると自分を挟むようにワイン入りの箱を置いて当たり判定的に後ろに押し出された俺は滑るように不可視の壁を通り抜けた。

すいーと、スイートにクールに通り抜けた俺は、隣接する建物の中に出現した。


"カーミット魔法品店"

ストーリークエストをクリアしないと入れない貴族街にある商店で強力な装備や回復アイテムが買える素晴らしい店だ。

ちなみに俺はここで買い物をしたことがない。

俺の様にストーリークエストをクリアせずに貴族街に侵入していても中に入れれば、このお店は買い物をさせてくれる。

初期段階かつ、実績解除によるスキルやシステムの解放なんていうクソシステムがなければ是非欲しいものだったが、ノービスで装備ができるものはエンチャントや特殊効果がない武器のみである。

正直敵がインフレしてからはそういう普通の武器もいらなくなって、結局のところ耐久値無限の木の棒が最強という始末だ。

ここにきたのはたまたまではない。

ちょっと、"採取"をしにきたのだ。


商品棚の商品が盗めな……"採取"できないのは残念だなと思いつつ、店番の後ろを通って倉庫室に侵入する。


倉庫に配置されたチェストを開いて行く、店番のすぐ後ろでやっているのだが何も言われない。

案山子か?役立たずめ!



店長「取られないか、ちょっと見てて?」

店番「はい!見てます!」

俺「めっちゃいいもんあるやんけ!ウッヒョー!これいいね!あ、これも」

店番「……(じぃー」

俺「採取するもの無くなっちまった!さて帰るか」

店長「おい!あれ?倉庫に置いておいたアイテムがなくなってやがる!どうなってんだ!」

店番「盗まれました」

店長「はぁ?!ちゃんと見てろっつうたろ!!」

店番「ちゃんと見てました!でも止めろって言われなかったので盗まれるのを見てました!」


うーん、最近の若者がいいそう。

なんかそういう話聞いたことあるんだよね。

たしか、この書類焼いておいて?って上司に言われて燃やしたアホの話とか。

この場合、焼くとはコピーするって意味なのにさ。いや、謎かけとかとんち働かせてんじゃねーよ!ちゃんと働け。


ちゃんと働かない案山子のおかげで盗み放題。

次から次へとインベントリに放り込んで行く。

"アークトレントの杖を手に入れた

水の宝珠・大を手に入れた

回復薬・小×12を手に入れた

700zejを手に入れた

月狼の毛皮を手に入れた

錆びた何かを手に入れた

虫の羽を手に入れた

赤い木の実を手に入れた

期限切れの回復薬を手に入れた

何処かの鍵を手に入れた

曼荼羅の盾を手に入れた

20zejを手に入れた

ピカピカの皿を手に入れた

ゴブリンの棍棒を手に入れた"


うーん、ゴミばっか。

倉庫?ゴミ箱の間違いじゃないの?


勇者からレアドロップが取れなかったが、ここからは期限切れの回復薬というレアドロップを回収できたしよしとしよう。

この世界では全てのアイテムに期限などというものは存在せず、期限切れというアイテムを手に入れるには、何処かから漁るしかないのだ。

特に意味のないアイテムだがゲーマーならいらないアイテムも上限の×999個まで貯めたいだろ?


ちなみに、ここのチェストはアイテムを奪ってもある程度すると補充される魔法のチェストである。

ダンジョンの宝箱みたいなものだ。

最高!


俺はここの常連なのだが、ブラックカードならぬブラックリストに載せられているだろう。


「またのお越しを」


堂々と玄関から外に出る俺に店番は的外れなことを言ったまたのお越しをだって。馬鹿じゃん。

また採取しに来てくださいってか?

わかりました。また来ますね?


少し寄り道をしてしまったが今度こそ、宿へ向かい歩き出した。

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