第10話 木の棒で戦う舐めプ厨
ふう、一応目配せしてみたが、やはり付いてきたか。
細い路地を右に左にどんどん進み、途中で巻いてやろうと思ったが、息を切れさせながらもなんとか付いてこれたようだ。
死地へ飛び込みにくるとはなんと勇敢で野蛮なものか。
イキリ野郎……いや"たくや"と呼ばれたその少年は追いついたや否や、何もない空間から金ピカの剣を取り出し構えた。
その構えは達人のようで、お前ら別ゲー出身だろと再び思うしかなかった。
頭からつま先まで金ピカピカリンな成金装備を纏い、趣味の悪い金の腕輪に金の指輪、金のマントに金の防具、金の剣と金の盾ときたものだから太陽が乱反射して眩しい。
なるほど、そういう状態異常を発生させる装備なのか。
だったら全身鏡ばりの方がいいよな?
金ピカ装備の成金イキリ野郎とか救うに救えないやつだ。
しかし、スライムと一緒でレアな色ならドロップ品もいいものが望める。
路地にぽっこりと空いた空き地。運営が建物を置き忘れた空き地にて戦闘が始まろうとしていた。
剣を構えた直後、吹き出す金のオーラ!
戦闘後の金ドロップでも上昇させるのだろうか。
相手は俺と言葉を交わすつもりもないのか、スキル的なものを使い始めている。
「《リカバリー》《プロデクト》《マジックシールド》《エターナルキュア》《セイントカバー》《ライトソウル》《オーバーパワー》《ハイパーシールド》《身体強化》《身体超強化》《覇者の道》《英雄の波動》《勇気の剣》《天下無双》《攻撃力向上》《エンチャントライト》」
おいおい、だから別ゲーじゃねーか!
ざっけんなよ!俺なんてなアクション系スキルがデホォルトでもってる回避とノービススキルのジャンプ、アタックしかないんだぞ!ダッシュすらないし。
スキル使いすぎだろ。ずっる。
「ハァァァァァ…………!!」
何?力み過ぎてここで出したくなった?
"たくやは攻撃力が上がった!
たくやは防御力が上がった!
たくやは素早さが上がった!
たくやは光属性攻撃力が上がった!
たくやは持続回復をした!
たくやは蘇生魔法を発動させた!
たくやはHPが完全回復した!
たくやはさらに防御力が上がった!
たくやは勇者の力を解放した!
たくやは神の力を発動した!
たくやは魔法攻撃を無効化した!
たくやは光属性により強化された!
たくやは物理攻撃力が3倍になった!"
チャットに流れるログ。
スキルを持っている奴一人もいないし、こういうやつ初めてみた。
感動。
だが、簡単には倒せなさそうだ。
「ゆ、勇者よ。話し合いに応じるつもりはあるか?」
「あるわけねーだろ!なんで俺が勇者だってわかった!!?」
いやなんとなく?
「ままままて待て!そうだ!世界の半分をやろうではないか!」
「いらねーよ!そうやってゲームオーバーにするつもりだろ!わかってんだよ!!」
あ、なんだこのネタ知ってんのかよ。
やかましく叫びながらものすごい勢いで突っ込んでくる勇者たくや、黒の服や黒の剣を持っていないことが残念だ。
実に残念。
だが金の装備的にレアドロップ確定キャラだ。
腰から引き抜いた歪みまくりの細長い木の棒を振り抜くと、最低限の回避……というカッコ良げなものではなくイナバウワーのような滑稽な姿勢でスレスレを交わし剣を構えて俺を斬ろうとして
鎧を砕きながら吹き飛んだ。
器用999のパラメータなめんな。
明らかに当たってなくても当たり判定つくんだよ!
器用999とかもはや空間破壊だ。
当たり判定が小さいはずの木の棒なのに振るった瞬間、攻撃が前方210°の範囲攻撃に40mの距離に透明な攻撃が通り抜けることになる。
つまり的が早いとか透明で見えないだとかでも後ろと前を殴っておけば敵に当たるのだ。
技量は必要ない。達人力の前には無力。とはこのことだ。いくら強くとも核の前では無力。
器用999とはそういう力なのだ。
多分、普通のゲームだったら当たり判定じゃなくて防御貫通とかクリディカルヒット率だと思うがな。
筋力999に木の棒+1の攻撃により趣味の悪めの金の鎧は全て砕け散りキラキラと光り空に溶けていった。
ああああぁぁぁぁ!!レアドロップが!ぁぁぁぁ!
手や頭があらぬ方向に曲がった勇者たくやは壁に引っかかりながら吹き飛び続けたうち、壁にめり込み姿を消した。
「逃げてんじゃねー!!!」
壁にめり込むとかふざけんじゃねーよ!だったら敵を倒したらドロップ自動回収にしろよ!!
手抜きのくせにここだけモン○ン感出してんじゃねー!!
俺は吠えた!達人感半端ない勇者は薄汚い木の棒如きで死んだ。木の棒で死ぬ勇者。哀れ。先が思いやられる。
奴は死してなお逃げ、最悪なことに壁をすり抜け裏世界に逃げやがった。お陰でレアドロップは拾えなかった。拾えそうなアイテムは攻撃では砕け散った。
俺は何をしたかったのか自分でもよくわからなくなった。
その場の勢いで行動する愚かさを再確認した。
俺は腹いせに路地裏を徘徊していたNPCを壁に押し込み、裏世界の落として永久に落下しながら悲鳴をあげる姿で心の傷を癒した。
なんだか知らないが非常に疲れた俺はセーフティポイントなのに魔物が入ってくるこの街の宿で一晩を過ごすことにした。
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