2人のお母さん
盛田雄介
第1話 2人のお母さん
紘一と健一の2人は同じ日にこの世に産まれた。2人には誕生日だけでなく、母親がいないと言う共通点もあった。2人は物心がつく前から、この男児だらけの施設で同じ様な境遇な子供たちと暮らしていた。
2人はどうしても自分の母親に会いたかった。そんなある日、施設長からこんな事を言われた。
「そんなに母親に会いたければ、勉強をしなさい。勉強して政府から選ばれれば母親に会えるチャンスがあるだろう」
2人はそれから、何年も勉強のみに集中し、20歳の誕生日にエリートとして施設を出た。そして、政府が管理している会社へ就職することとなった。
「ようやく、母さんに会えるな」紘一と健一は同時に同じ言葉を発した。
「やっぱり、俺たちって気が合うよな」2人は笑い合い、会社の中へと案内された。
「君達、母親を探しているらしいね」先頭を歩く案内人は背中越しに2人へ疑問をぶつけた。
「そうです。僕達、母さんに会いたくて頑張ってきました」2人はまたもや声を合わせた
「そうなのか。母親に会えるといいな」
案内人はポケットからカードキーを取り出し、何重にもロックされているドアを解除していき、ある部屋へと案内した。中は暗く、中央に大きな柱状の機械がそびえ立っていた。部屋の中は高音の機械音が響き渡っている
「君達は我々とともにこの重要な管理システムの調整及びバージョンアップを行う仕事についてもらう」2人は機械を見上げた。
「失礼ですが、これは何を管理している機械ですか」
「君達、歴史を学んだと思うが、2100年の大災害の事は覚えているかい」
「はい。人口のほとんどが死滅し、全世界において生き残ったのは数100人程度になった大災害ですよね」
「そうだ。2人とも正解だ。我々人類はそこから這い上がり、たった100年程度で人口3億人まで拡大し復活した。それも祖先が作り出してくれたこの管理システムのおかげだ」
「なるほど、これで地球の自然などを管理しているんですね」
「いや、それは隣の部屋の機械だ。この機械が管理しているのはもっと別だ」
「それってなんですか」2人は案内人の声よりも室内にこだまする機械音に気が取られ始めている
「だんだん、聞こえてきたんじゃないかないか。この響き渡る音こそが正解だよ。今、頭に浮かんでいる事が正解なんだよ」2人は機械を凝らして見てようやく、自分達のいる場所の正体が分かった。
「この機械の名前は『マザー』。人間製造機にして、君達の探し求めていた我らが母さんだ」
2人は耳に入ってくるこの音にどこか懐かしさを感じていた。その答えが案内人の言葉でようやく合致した。この音は産まれ育った施設でも毎日聞かされていた赤ん坊の声だ。
「そんな、僕らの母さんがこの機械だったなんて」2人は同時に膝から崩れ落ちた。
「大災害の後、偶然にも人間は雄しか生き残れなかった。そして、子孫を自分達で作ることが出来なくなった代わりに人間を造る機械を作った。それが、この『マザー』だ」
「僕らもこの機械から産まれたってことですか」
「そうだ。今いる人間は全てこの『マザー』から造られている。つまり、私も君達もみな兄弟なんだ。そして、君達は同じ日に『マザー』から産まれた百子の内の2人ということだ」唖然とする2人に案内人は「マザー」についての書類を手渡した。
「この『マザー』には1つだけ欠点がある」
「それはなんですか」2人は書類にも目もくれず、案内人だけを見つめていた。
「『マザー』の欠点は雄しか作れないことなんだ。だから、我々はこの機械から離れることが出来ないんだ。長年、研究を進めても雌を作ることは出来てないんだ」
「それで、この人生の中で男しか見たことがなかったのか」2人は男児だらけでの施設のことから、これまでの人生を振り返った。
「母親に会いたいという君達の願望は恐らく、母からの愛情よりも雌を求める本能が強かったのかもしれない」2人は顔を赤らめて照れた。
「何を照れることがある。それが生物だ。そこらへんにいる昆虫だって雄と雌は愛し合っている。我々だってそうしなければならない」案内人は膝まづく2人に手を差し伸べた。
「さぁ、一緒に未来を作っていこう」2人は同時に手を握り、神秘を求める世界へ歩みを進めた。
2人のお母さん 盛田雄介 @moritayu
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