第12話黒騎士

廃工場の中は埃っぽい。

クモの巣が天井にはられ、小さな黒い蜘蛛が複数の目で五人を見ていた。

所々に錆びた工具やなにかの機械が放置されていた。

ここはミリアの隠れ家の一つだ。

「王女様がたに見せたいものがあります」

静かにミリアは言い、ローブの下から透明なクリスタルを取り出した。

それは着いたり消えたりする照明の光をかすかに反射する。

「これはとあるシステムの起動装置です。発動させるには王家の因子が必要なのです。お二人では完全なる発動は無理ですが、起動させるには十分です」

ミカとユマの間にクリスタルをさしだす。

二人の姫たちはそのクリスタルに手をかけようとする。


「これはこれは、ライゼンベルグの姫様がた、お元気そうでなによりです」

突然、男の声がした。

彼らは突如そこにあらわれた。

ほんのついさっきまで、そこには誰もいなかった。

そこには何もいなかったはずである。

つい最前まで誰もいなかった空間にいきなり、彼らはあらわれた。


その男は黒い甲冑を装備していた。黒い鞘の剣を腰にぶらさげ、羽織るマントも漆黒であった。

顔と髪だけが白い。

その白さは病的だ。

瞳の色は青い。

青い、だがそれは濁っていた。

蛇のような目つきで、守たちを眺めていた。

いやらしい笑みを口元に浮かべる。

「休戦協定いらいですな」

黒い甲冑の男は下卑た笑みで言う。

「貴様はベルフェゴール」

歯を食いしばり、ミカがいう。その口調には怒りと憎しみがこめられていた。

その手はレイピアの柄にかけられている。

「薄汚いドワーフと何を話しているのですかな。そのような外道たる亜人風情と会話などされてはいけませんよ、王族の品位が疑われますぞ」

くくくっと喉の奥を鳴らす奇妙な笑いかたで、黒騎士は言った。

「我らが友を侮辱するとは、許せん」

素早く、かなり訓練された動作でレイピアを抜き放ち、ミカは文字通り目にもとまらぬ速さで刺突を繰り出す。

必殺の一撃であった。

だが、レイピアの切っ先は黒騎士の眼前で完全に停止した。

空間が歪んでいた。

透明な波紋が空中に広がる。

「シールド能力か」

ユマが残念そうに地面を踏み鳴らす。

「私にそのような攻撃はききませんよ」

面倒くさそうにレイピアの切っ先を手の甲で払いのけ、黒騎士は言った。

攻撃を弾かれたミカは、後方に飛び下がる。

悔しそうに黒騎士を睨みつける。

「ミカ王女様。ありがとうございます。友と呼んでくださいました。地面をはいつくばり、ゴミをあさり生き延びたかいがございます。さあ、このクリスタルに手を当ててください」

ミカとユマはその手をクリスタルに手をあてる。

クリスタルは鈍く輝き、その透明な球体に色が帯びる。

白銀と真紅の二色であった。

クリスタルが二色に染め上げられた次の瞬間、地面が轟音をたて、揺れだした。

立っていられるのが困難なほど、それは大きな揺れであった。


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