第9話ブルームよりの使者
ミリアの美人とは言いがたいが、なかなかに愛嬌のある顔を二人は見た。
「あんたが、姫さんたちが会わせたがってた人か?」
武蔵がそう尋ねると、ミリアは頷き、彼らの前に腰かけた。
「ドワーフか……ちょっとイメージと違うが、ついに来たって感じだな」
あははっと楽しげに笑いながら、武蔵は言った。武蔵の銅色の瞳を見て、守もつい、にやりとした。
ここはやはり違う世界なのだという感情がふたりの心によぎった。
ふたりのやり取りをだまって、ふっと少し笑い、受け流しミリアは語りかける。
「あなた方に取りに来てもらいたいものがある。それはブルームの地下に眠っている。それは帝国と戦うのに重要なものだ」
ミリアは小さな声で言う。
「重要なものって……」
守はきく。
「ここでは言えない。まあ、企業秘密だな。来てからのお楽しみにというやつだ。なあ、あんたら姫様方をつれてブルームまで来てくれないか」
赤い髪の頭をさげ、ミリアは懇願する。
守と武蔵は視線を交差する。
「女の子の頼みは断れませんね」
守は言った。
「そうだな、兄弟」
武蔵は肩を組み、そう言った。
「それでは、少し、失礼するよ」
そう言い、ミリアは自らの額を守の額に密着させた。反射的に避けようとしたが、かなりの腕力で後頭部を押さえつけられ、逃れることはできなかった。
ドワーフを名乗るだけのことはある。
大人の男を押さえつけるのは彼女にとって容易いことであった。
「動かないで」
暖かい吐息が頬にあたり、くりくりとした瞳で守をみつめる。
「今から情報を転送させるわ」
そうミリアが言うと守の脳に軽い電撃が走り、少しだけ目眩を感じた。
その一瞬後、脳内に情報が波となって流れみ、注ぎ込まれる。
奔流となって駆け巡り、情報が定着する。
脳内に注ぎ込まれたのは工業都市ブルームの詳細な情報であった。
その街の地図が頭に浮かび、リンクされた風景が甦る。
頭のなかで想像すると、まるでその街にいるのではないかという光景がはっきりと見えた。
生まれて一度も行ったことがないのに、何度も行ったことがあるような記憶が脳内にこびりついた。
ふうっと息を吐き、ミリアは離れた。
「こ、これは……」
驚愕の声で守は言う。
「私たちの世界はね、あなた方がいた世界より精神文明が発達しているの。それにしても流石ね。星騎士の操縦者だけはあるわ。こんなにもスムーズに転送が行われたのははじめてよ」
うふふっと何故か楽しげにミリアは笑い、言う。
「姫様方はもっと上手よ。ライゼンベルグ王家は我々の文明の頂点に位置する一族だからね。だから、帝国に忌み嫌われたってのもあるんだけどね」
テーブルにある麦酒をぐいぐいとミリアはうまそうに飲むと、
「それでは、待っているわ。必ず来てね」
そう言い残し、ミリアは酒場を去った。
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