第8話星騎士ベガ

ぐっと首筋に抱きつくと鼻をくっつけ、ユマはにおいをかぎだした。

「おまえ、いい匂いがするな」

にこりと愛らしい笑みを浮かべ、彼女は言う。

くんくんと守の匂いを彼女はかいでいると、

「姉上っ」

ミカがユマの襟首をつかむと簡単に空中に投げてしまった。

あわわっと悲鳴を上げて、空を舞う王女を受け止めた人物がいた。

よく日焼けした精悍な風貌。

短く茶色い髪に銅色の瞳。

その顔立ちはどこか狼を連想させた。

たくましい体格を作業服の上下で包んでいる。

「姫さん、そりゃないぜ」

白い歯を見せ、その男は言った。

「なんだ、ムサシ。焼きもちか」

ユマがうふふっと笑いながら、今度は男の首筋に抱きついた。

「まあ、そういうことにしとこうか」

ユマは自身の頬を男の顔にこすりつけた。

「やっぱり、ムサシが一番だな」

とユマは言った。

ぴょんとユマは男の横に立った。

「よお、兄弟。俺は榊原武蔵、よろしくな」

明るい口調で男は言い、守の背中を強く叩いた。そのせいで、守はすこしむせた。

「しかし、ミカはひどいのだ。実の姉を放り投げるんだからな」

腰に両手をあて、頬をふくらませて、言った。

「姉上がいけないのですよ」

ミカも頬を膨らませてそう言う。

その仕草はやはり、姉妹といったところか。体格はまるで違うがよく似ている。

姉妹喧嘩を尻目に武蔵は守に語りかける。

「俺の機体の名は星騎士ベガ。あのゲームをクリアしたらこの世界に召還されて、姫さんに世界を救ってくれて頼まれたくちさ」

なれなれしく守の肩に腕をまわし、はははっと笑い、武蔵言った。

不思議とそれが嫌ではななかった。

その場にいるだけで場を明るくする。武蔵はそんな男のようだ。


ふたりは薄暗い酒場にいた。

ユマとミカは召還の疲労のため、宮殿の自室で休んだいた。その間にとある人物にあってほしいということで、彼らは酒場で夕食をとっていた。

ビールを傾けながら、料理を口にしていると、

「王女たちを帝国に差しだそう。そうすれば我々は臣民として帝国に迎えられるというのではないか。流星騎士団は壊滅し、五大都市は占領された。我々に残されたのは、王女たちを帝国に差し出し、忠誠を誓うしかないのだ」

怒鳴るような大きな声が彼等の耳に入ってきた。

そうだ、そうだと賛同する周囲の声。

怒りを覚え、頭に血が昇り、拳を握り震えている守にそっと手をかさね、

「落ち着け。どこにでもアンチってのはいるものだ」

冷静な声で武蔵が言う。

二人の目の前に黒いローブを着た人物があらわれた。

「あんなのは恭順派の戯れ言だ。降伏したからといって生き残れる保証はどこにもない」

深く被ったフードをとり、その人物は言った。

その声はすこしかすれた女の声だった。

濃い茶色い髪に、赤い瞳。

小柄だが、女性にしてはしっかりと筋肉のついた腕はアスリートのようだ。

張りのある健康的な胸がタンクトップの隙間からその存在を主張していた。

「私はシルバードワーフ族のミリア。工業都市ブルームから来た。星騎士のお二人、あなた方に頼みたいことがある……」

と彼女は言った。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る