第7話約束
その陰惨にして凄惨なる光景を見て、守は息を飲むことしかできなかった。
ゆっくりとシリウスを旋回させる。
うち砕かれた機体たちは何も語らない。
物言わぬ亡骸たち。
「千騎ほどいた星騎士たちもほとんどが先の戦いで命を落としました。残るはこのシリウスをふくめて六騎。きっと戦いは絶望に満ちているでしょう。それでも私は戦います。みずからの尊厳をかけて……」
悲しげな声でミカは語る。
「この世界に召還しておいてなんだけど、でも、無理はいいません。あなたはこの世界の人間ではないのですから。戻りたいのなら、それでもいいのです」
少し守は思考を巡らす。ぐるぐると考えが頭のなかを駆け回る。だが、答えは決まっている。
彼はそういう男なのだ。
「ミカ……君は探してたんだろう。あのステージをクリアできるほどのパイロットを」
大きく息を吸う守。
「王女さまに世界を救ってと頼まれて断る男はいないよ」
息を吐き出し、守は言う。
決断の意味をこめて。
「ありがとう、マモル」
指で涙をぬぐい、ミカは言った。
進路をさらに西にとり、シリウスはライゼンベルグ王国の都をめざした。
ライゼンベルグ王国の王都リューベルト。
帝国の進攻をうけるまでは「麗しの」と形容されるほどの都市であった。
だが、今は見る影もない。
無数の建築物を有する城塞都市が視界に入ってきた。
時刻はすでに夕刻になろうとしていた。
夕陽に照らせれる都市はよく見ると、ところとごろが崩れ、焼け落ちた建物が並んでいた。
三年前の戦いによる被害の傷がいまだに癒えないのだとミカは説明した。
都市の中央部分にひときわ高い搭を有した建物があった。
それが宮殿だと言う。
一国の王都に存在する宮殿としては、ささやかなものであった。
その宮殿もよく見ると、瓦礫などが周囲に散らばっていた。
都市を修復するための職人や労働者も多くが死んでしまっため、そのまま放置されているのだという。
「マモル、あの広場にシリウスを着陸させて」
ミカの指示に従い、シリウスを着陸させる。
砂と土と小さな瓦礫を撒き散らしながら、シリウスはその銀色の体を大地に休めた。
乗降用ワイヤーを用い、地上に降り立つ。
天使が舞い降りるかのごとくミカは華麗に大地にたった。一方守は、なんとか着地したものの、よろけてしまい、ミカの体につかまってしまうという体たらくであった。だが、何故かミカは楽しげに微笑んだ。
小さな影が守に走りよってくる。一瞬幼児かと思われたが、そうではないようだ。
かなり小柄な人物であった。
身長は150センチにみたないだろう。
美人というよりも愛嬌があり、かわいらしい印象を受ける。
ミカと同じデザインの軍服を着ているが、かなりサイズが大きいようで、手足が袖で完全に隠れていた。
赤い髪を二つくくりにし、愛らしい表情を浮かべるとぴょんと守に飛び乗り抱きついた。
「おまえが新しい星騎士か。私は第四王女ユマ・ラファエル・ライゼンベルグだ。よろしくな」
首筋に両手をまわし、守の耳元で彼女は言った。
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