第6話騎士たちの墓標
乾いた駆動音をたて、シリウスは右手のひらを彼らの前にゆっくりと置いた。
「さあ、乗って」
重力から解放されたのではないかと思われるほどの身軽さで飛び乗ったミカは、手をさしだした。
その手を握り、守もシリウスの手に乗る。
シリウスの手は胸部のコクピットに向かってあげられる。
コクピットのハッチが開く。
そのコクピットはアーケードゲーム「シューティングスター・ナイト」とまるっきり同じだった。
いや、違うところがある。
コクピット内の計器が並ぶ中身をのぞきながら守は思った。
「もうひとつある」
上方向を見ながら、守は言った。
「そうよ、リアルの星騎士は双座式なの。私は上に乗るわ、マモルは下をお願いね」
守が躊躇していると、
「女が上はいやかしら」
とミカは言った。
「本物のミカはそんなこともいうんだ」
はははっと笑いながら、守は答える。
するりと体をシートに滑り混ませる。
「そう、ゲーム内の私は猫がぶってたのよ」
と言い、ミカは上部シートに乗り込んだ。
ふふっと笑い、チャーミングなウインクをする。
細いワイヤーがシートのヘッドからのび、守のぼんのくぼあたりをチクリと刺した。
ちょっぴりの苦痛に守は眉をよせる。
「遺伝子登録完了。脳波同調開始します。95パーセントに安定。オペローターはミカ・エル・レイラ・ライゼンベルグ。パイロットはユウキ・マモル」
計器類を確認しながらミカは言う。
コクピット内に電源が入り、計器類に光が点っていく。
モニターに映し出される青い空と緑の草原。
操縦桿を握る感触もゲームと同じであった。
「同じだ」
操縦桿の手触りを肌で感じながら守は言った。
「そうよ。このシリウスはあなたが時間と愛情をこめて、作り上げたものと同じよ」
ミカが答える。
「私は情報管理と策敵調査を担当するわ。操縦はマモル、お願いね」
「ああ、わかったよ。ゲームと同じだな」
「そう、まずは西に百キロメートル地点に飛んでもらえるかしら。あなたに見せたいものがあるの……」
つい最前まで冗談を言っていたミカの口調が、突然暗いものになった違和感を覚えながら、
「了解した」
と守は答えた。
シリウスは飛行モードに変形し、天空を駆ける。空と風と雲を切り裂きながら、彼は駆け抜ける。
その爽快感に身を委ねる守であったが数分後に見えた光景のため、思わず息を飲み込んだ。
無数の星騎士の残骸が大地をおおっていた。
おかしな言い方だがロボットにまるで生気がなかった。
大地に突き刺さる剣やスピア。
腕や足が砕かれ、飛び散り、胴体部分だけが転がっている。
無数の死した星騎士たち。
「三年前、魔星帝国軍ジブル・ジョブルの進攻を受けた我が国はなんとかそれを食い止めたものの、持てる軍事力のほとんどをうしなってしまったの。我ら流星騎士団の墓場。あの星騎士たちの亡骸は救国の英雄たちの墓標……」
涙ながらにミカは言った。
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