第14話
「この子に触らないでよ!」
「おー、怖ッ! へへ、でもそんな顔も可愛くなーい?」
「ふざけないで! 友だちが待っているんだからもう良いでしょ!」
「いやいや、でもほら、ぶつかってきたのはそっちからだしぃ」
見つけた!
ゲーセンの一番隅にあるトイレの傍。つまり一番目立たない場所に赤音と、そして青木がいた。加えて、彼女たちの周りには五人ほどの見知らぬ男達。
赤音は青木を自分の背に隠すように一歩前へ踏み出している。
……。おそらくだが、トイレから出てきた赤音があの男達とぶつかったかなにかで捕まっているところに青木がやって来たのだろう。
男達の見た目は、もはや狙っているのだろうかと思うほどにチャラい。必死で言い返している赤音を取り囲むようにしてニヤニヤ笑っている様子に腹が立つ。
「赤音! 青木!」
「黒岩……」
「黒岩くん!」
「あぁ?」
あとのことは健斗に任せておけば問題ない。
そんなことよりも俺は少しでも彼女たちを助けるために、大きな声で名を呼びながら男達を掻き分けて進んでいった。
「おぃ、なんだてめぇ!」
「え? なに、お前が彼女たちの言う友だち?」
「うわ、あれじゃん、少女漫画じゃん、うける!」
ゲラゲラ笑う彼らの声は聞いていて気分の良いものではないが、そんなことよりもなによりもだ。
「二人とも、怪我はないか」
「う、うん……」
「里香ちゃんが守ってくれましたから!」
「そうか。すごいぞ、赤音。でももう大丈夫だからな」
口ではそう言いつつも、念のために俺は彼女たちをじっくり観察する。
本当はあまり女性の身体を見るものではないのだろうが、状況が状況だ。もし不快だったらあとで謝れば良いだろう。
「ちょ、まじすげえ! 兄ちゃん、あんたまじ少女漫画じゃん!」
「おいおい、じゃあ俺ら悪役? まじパねえ!!」
「ていうかさー! 無視は良くなくなくなーい? パパとママにも言われませんでしたかぁ~?」
「言われたことなーい」
「おめえに聞いてねえし! やめろよ、受ける!」
背中をバシ! と殴られる。
さて。ここからが正念場か。
向こうは気にしてないのだろうが、簡単に人の背中を殴るもんじゃないと思う。実際少しだが痛かったぞ。
不安そうな二人にニカッ! と笑ってから、俺はゆっくりと男達のほうへと向き直った。
「ひゅーっ! ヒーローくんがこっち向いたぜ!」
「でも、あれじゃん? ヒーローって言うよりは……」
「元気出せよ! 男は顔じゃねえぜ!」
うるせぇ!? 人が気にしていることを……!
「てか、お前が言う台詞じゃなくなくなーい?」
「そそ。鏡見ろし? みたいなー? なあ、兄ちゃんもそう思うだろ?」
「ていうかぁ? 別に俺ら悪いことしてないわけだしぃ」
「ぶつかってきたのもそっちの子からだしぃ!」
確かに。
コレが本当の少女漫画なのだとしたら、ここに居る俺は健斗のように誰が見てもイケメンか。それか、ゴリラのような筋肉隆々の男だったのだろう。
だが、現実なんてものはそう簡単なものじゃない。
スポーツをしているのでそれなりに筋肉はついているほうだが、それでも俺がやっているのは陸上であって格闘技でも何でもない。
喧嘩だって滅多にしない。
五人相手に無双出来るなんてすごい真似が出来るはずがない。一対五で勝てるなんてそんな漫画みたいなことはあり得ないんだ。
それでも、今は俺が彼女たちを守らないといけない。
別に俺が赤音のことを好きだからというからではなく……、いや、ちょっとはあるけれど。
それよりも、彼女たちと俺はもう友だちで。友だちってのはそういうもんだからだ! 決まったァ!
覚悟を決めた俺は、拳に力を込めて、必殺の一撃を目の前の男にぶち込んだ。
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