第13話
「実はな、俺はお前に謝らないといけないんだ」
「へえ」
特に驚いているようには聞こえない健斗の返事は、俺がこれから言おうとしていることすら予想しているからか、それとも別の理由があるからなのか。そこまでは分からないが、軽い声が逆に話しやすくしてくれている。
「今日は、お前と青木のデートが最優先だ。にも関わらず、俺はどこかで赤音と自分が良い感じになれば良いなと思ってしまっている」
「良いんじゃない? 真相はどうあれダブルデートなんだから。で? それが謝らないといけないことか」
「いや、違う。……違わ、ないこともないがもっと別のことがある」
「なんだよ、早く言えよ」
健斗が傍に会ったソファーに座ったため、自然と俺は健斗を見下ろす形になってしまっている。
見上げてくる健斗の視線から逃れたい気持ちはあるが、ここで逃げれば俺は完全に卑怯モノだ。
目の前のこいつとこれからも友人であり続けるために、俺がこいつを、そして願わくばこいつが俺を親友だと胸を張って言ってくれるためにもここは逃げるわけにはいかない。
「健斗。俺は、お前に嫉妬しているんだ」
「お前が? 俺に?」
「ああ。はっきり言ってお前はモテる。そんなことは出会った時から分かっていることだ。そして俺はモテない」
「そんなことはないと思うけどな」
「今はそんな見え透いた同情は止してくれ。勿論、お前がモテることと、俺とお前が親友であることは別の話だ。でもな、赤音から今回の話を聞いた時、なんだろうか……、こう、悔しいというか、その、情けないというか……。そういう感情を覚えて、なんだ。うんと、あれだ。どうして俺ばっかり。なんて小さいことを考えてしまった」
自分の感情を言葉にしようとするのは、どうしてこうも難しいんだろか。きっと、こんなことも健斗ならもっとスマートにやってのけるのだろうな。
謝りたいと言いつつ、何を言っているのか俺自身も分からないような言葉ばかり、まったくもって情けなくなってくる……。
「お前が青木と、勿論双方同意の上でだ。青木と恋人同士になれば良いと思っていることに嘘偽りはない。だけど、どうしてもいくら叫んでも走っても、お前への嫉妬が消えないんだ。モテるつもりのないお前がモテて、モテたい俺がモテない。どれだけ望んでも彼女は出来ず、むしろ気持ち悪いと言われてしまっていたあの中学時代を思い出してしまう。本当に情けな……、なんだその顔は」
「どんな顔に見える」
「何言っているんだこいつは、みたいな顔に見える」
「正解」
分かり易く健斗は大きくため息をつきながら立ち上がったと思った、らガッ!?
「ど、どうしていきなり殴る……」
「裕也のくせに意味分からないことでぐだぐだ悩んでるから目ぇ覚まさせてやろうと思って」
「俺のくせに、か……」
「ああ」
やっぱり。
「悩み事は似合わない、よな……」
成績は悪くないつもりだ。健斗には負けるが、入試は二位だったしな。一生懸命努力を重ねて勉強もしている。
だが、それでもどうやら俺は周囲からは馬鹿だと思われるらしい。言動、なんだろうか。それでいて、悩みもないように見えるようだ。何度か……、悩んでいると生意気だと言われたこともある。
やっぱり……。
「だいたい何考えているかは分かるけど、そういう意味じゃないからな」
「え?」
「そうじゃなくてさ。……あー、なんていうのか、その」
珍しいな。
健斗が、言いよどんでいる。
「俺と違ってお前は本当にモテたいわけだから、嫉妬とかそういうのは当たり前じゃねえか。むしろそのくせに俺に正直に言ってくるあたり本当にお前はすげえよ。と、俺は思っている」
「健斗……」
「うぅん……、良いよ別に嫉妬してくれて。ていうか、どっちかと言えば俺だっていつもお前に嫉妬しているんだ。偶にはお前が嫉妬してくれないと釣り合いが取れない」
「は?」
嫉妬?
健斗が?
「誰に?」
「お前に、って今言っただろうが。人の話聞けよ」
おまえ。
オ=マエ?
「お、ま、え。黒岩裕也」
「どうしてだ」
「恥ずかしいから一生言わない」
「お、おい!? それはズルいぞ! 俺だって言ったんだから、お前も言えよ!」
「お前が勝手に言い出したんだろうが、知るかそんなこと」
く……ッ!
確かに健斗の言う通りだ。そう言われてしまっては言い返すことも出来ない……! くそう、今ばかりはこいつの頭の良さが妬ましいぞ!
「まあ、あれだな。俺とお前がジジイになってどっちかが死ぬときになら話してやっても」
――離してって言ってんでしょ!!
「ん?」
「今の声、赤音さ、っておい!?」
健斗が何か言っているようだが、悪いが今はそれどころじゃない!
なんだ! なんだ今の声は!!
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