第12話
「青木! そっちへ行ったぞ!」
「はい、任せてください!!」
チェーンソーを振り上げ襲い掛かるゾンビに慌てることなく、彼女は銃を構える。無駄玉を撃つことなく、敵の接近を一拍分だけ待った彼女は落ち着いて引き金を引く。
バン。
放たれた銃弾は、一直線にゾンビのこめかみを貫き相手の動きを停止させる。見事だ。体力のあるあいつはヘッドショットの判定もかなり際どくなまじっかな腕前ではああも見事に決めることは出来ない。
「黒岩くん! 手が止まってますよ!」
「おおう、すまない!」
これはしまった。
彼女の思わぬ才能に惚れ惚れしてしまったとはいえ、これでも俺が彼女の足手まといになってしまうではないか。
そうはいかないと、俺も何度も死線を一緒に乗り越えてきた愛用の銃を構えなおし、迫りくるゾンビへと銃弾の雨を降らしていく。彼女のように正確無比な射撃などは出来ないが、鍛えた筋力が俺の連射を支えてくれる。敵が迫り切るより先にリロードを終わらせて、更に俺の連射は続いていく。
――GAME CLEAR
「うおっし!」
「やりましたね、黒岩くん!」
危なかった。
まさかこの世界にゾンビウイルスをバラまいた悪の秘密結社のボスがあんな隠し玉を持っていたとは……。
「あの時に話していた内容がまさかの伏線だったんですね」
「ああ、その時に青木がクレーンを破壊していなければどうなっていたか」
「いえいえ、それを言うなら黒岩くんがあの時咄嗟にシュークリーム屋のお姉さんを助けていたおかげかと」
「確かに。まさかあのお姉さんが秘密結社の」
「あれ、もしかしてクリアしたの? すごいじゃん、俺このゲームクリアしたとこ見るの初めてだよ」
「白石くん! あと五分早かったらエンディングが見れたんですよ!」
「あー、それは残念……、ちょっとトイレが混んでてさ」
もう説明することもないだろうが、俺たち四人は今ゲームセンターに来ている。
健斗は運動神経が良い。それはゲームにも活かされていて大抵のゲームを所見でも難なくこなすことが出来るのだが、そんな健斗の唯一といって良いほど苦手分野が射撃ゲームなのである。
どうしてかは分からないが、健斗は昔っから射撃だけは下手くそなのだ。とはいえ、俺も人のことを言えるほど巧いというわけでもなく、言ってしまえばただ普通。だから、俺たち二人が来たときはあまり射撃ゲームはしないのだが、ゾンビを打ち倒すある意味定番のゲーム機を見た途端に青木がどうしてもやってみたいと大はしゃぎ。
本当ならここで健斗と二人でさせるのが当然だと思うだろう? 俺もそう思った。というより、実はすでに青木と健斗は二人で同じゲームをしているんだが……。
健斗が下手くそすぎてすぐにゲームオーバーになってしまい、仕方なしで俺が引き継いだんだ。
どうかと思うところはあるが、青木が楽しんでいるようだし、それに、時にはべったりではなく少し時間と距離を置くことでお互い落ち着かせることも大事だと本に載っていたのでこれはこれで良しとしよう!
「青木の動きがとても良くてな。初めてとは思えなかったぞ」
「ていうか、青木さんがこういう系が好きっていうことがまず意外かな、俺としては」
「やっぱり、そう思います……?」
少しだけ苦笑気味の青木。
むッ! これはいかん、これはいかんぞ! 確かに俺も健斗の意見には大いに同意する。一般的にうわさで聞く彼女のイメージとこのゲームは大きくかけ離れている。
だがしかぁぁし!! だからこそ、だ! 周囲の勝手なイメージのせいで苦しい思いをするというのは俺にもよぉぉく分かるところがある!
俺の場合は、すぐに惚れられるぞと何度言われ……、まあしかしこれはあながち嘘ではないか……。
あとあれだ! 健斗とかも同じように勝手なイメージを持たれることがあって面倒くさいと言っていたか! それだぞ健斗! ここはフォローを!!
「うん、でもまあ、自分の好きなことするのが一番だと思うけどね」
「そ、そうですよね!」
さすがだ健斗ぉぉぉ!!
見たか! 見たか青木の顔を! とても嬉しそうだ!! さすがだ、さすがは健斗だ! ここでそんな台詞をさらっということが出来るお前はやっぱり優しい! お前自身が苦労していることだもんな! それを分かってくれるということはとても大きなアピールポイントだぞ! きっと今ので青木もお前のことをもっともっと好きになったに違いない! 良いぞ! 良いぞ健斗ぉぉお!!
「裕也」
「どうした!」
「顔、近い」
「お? おお! すまんな!」
これはいかん。興奮しすぎて思わず健斗の顔面近くまで近づいてしまっていたか。無駄にパーソナルスペースが狭いんだと昔から親戚の姉さんたちにも怒られていたからな。気を付けないと。
「本当はこういうゲームも大好きですし、どちらかと言えば外で運動する方が好きなんですけど……」
「なにかあるの」
「小さい頃、少し病気がちで。ああ、今はもう全然平気なんですよ? ですが、そのせいで母が心配性になってしまって」
「それはまあ……、難しいよね」
「そうですね。私のことを心配してくれているのが分かる分なにも言えなくて……」
「裕也」
「うん?」
なんだ? どうして急に俺の名前を呼ぶんだ?
いい感じの雰囲気だったのでそっと二人っきりにしようとしていたというのに。
「お前ならどうする」
「俺なら?」
「ああ、お前なら。そういう時どうする」
やれやれ……。
こういうことに答えはないと思うし、俺の意見ではなくお前の意見を青木は聞きたがっていると思うんだが……。こいつは時折こういうことをする。どうしてか大事な決め事がある時に俺に聞いてくるんだ。
それでいて、俺が言ったことと全然違うことも平気で選択するんだから、どうして聞いてくるのか。
しかし、それでも頼られて断るわけにはいかない。それが親友ってものだからな! 決まったァ!
「ありがとうと言うかもしれん」
「へえ」
「ありがとう、ですか?」
「ああ。俺の母親は青木の母親のように心配性ではないが、それでももしそうだとしたら……、うぅん、説明が難しいな。なんというか、心配してくれるというのは嬉しいことだと思うし、ありがたいことだと思う。だから、まずはありがとうって言ってから、自分がしたいことを正直に話すと思う」
よく。
お前は簡単だよな。と他人に言われることがある。し、実際そうだと思う。
それでも良いじゃないか。簡単だと言われても俺は、俺が俺であることを黙っていることが出来ないし、偽ることも上手に隠すことも出来ない。出来るようにならなけばならないんだろうが……、そうだな。どうしても難しい時は健斗にでも応援を要請しよう。うん。やっぱり、俺はこれで良い。
「ありがとう、ですか」
「良いんじゃない、裕也らしくて」
「あくまで俺だったらであって、それが青木の場合にどうにかなるとは思わないがな」
「それはそうでしょう。青木さんもそんなことは分かっているって」
「というか、お前ならどうかを教えてやれば良いじゃないか」
「こういう時はお前の言葉のほうが良いんだよ」
「そうなのか?」
「さあ」
「またいつもの適当か」
「あはは、本当に御二人は仲良しなんですね」
こいつのこういうところだけは直させないといけないか。と真剣に悩んでいれば青木がどこか晴れやかに笑っている。
うん、まあ、今はこれで良いとしようか。
「それにしても、赤音さん戻ってこないね」
「男子トイレが混んでいたんだから、女子のほうはもっとなんじゃないのか?」
健斗と同じタイミングで赤音もトイレへと行っていた。
確かに、自分で言っておきながら混んでいたとしても遅いような……。
「私、ちょっと見てきますね!」
そう言ってくれた青木の言葉に甘えることにした。
トイレへと走っていく彼女が、機械の影に完全に隠れたのを確認してから、俺は健斗に話しかけ、
「なにか言いたいことでもあるの?」
る前に、健斗のほうから質問してきた。
どうしてこいつはこんなにも俺のことが分かるのだろうか。
「実はな」
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