第8話
「ごめんね、待たせちゃったかな」
「いや、俺らもさっき来たとこ。ていうか待ち合わせ時間までまだだし」
「それもそっか。ほら、加奈子も、あたしの後ろに隠れてないで挨拶しなって」
「え、ええと……ッ! きょ、うは宜しくお願いします!!」
「ああ、うん。こちらこそ、よろしくおねがいします」
「ところで……、黒岩のやつどうかしたの」
「さあ」
「…………」
「おい、裕也」
「…………」
「おーい」
「…………」
「聞こえて、……ないな」
「あたしら、……何かしちゃ、った?」
「うぅん……、せいッ!」
「ごふぉッ!?」
「大丈夫か、お前」
さ、さすがは健斗……! 油断していたとはいえ、鍛えている俺にここまでのダメージをぶち込んでくるとは! はて、待てよ? いったい俺はここで何をしていたんだっ、はァッッ!! しまったァァァア!!
「赤音!!」
「えっ、はい!」
「びっくりするほどお前が綺麗で見とれてしまっていた! 申し訳ない!!」
「…………はぃ!?」
俺としたことが……! 先に優雅にそしてスムーズに女性陣に挨拶を交わしてこの場を温めつつ、健斗の見本になるように赤音を褒めて、健斗が青木を褒めやすい空気を作るはずだったというのに! 何をしているんだ、俺は馬鹿か!!
おそらくだが、健斗のことだ。きっと最初の挨拶は問題なく済ませているに違いない! ということは、あいつは今俺が赤音を褒めるのを待っている……! 親友の恋を応援すると決めたにも関わらず目の前の魅力的な女性に心を奪われ目的を見失うとはなんて愚かなんだ俺は!! 待っていろ、健斗!!
俺は、なぜかまん丸に見開いている赤音の瞳を覗き込んで今の気持ちを素直に伝えることにした。
「赤音! とても綺麗だ!! 普段は「待ッ!」制服や運動着姿のお前しか知らないわけだが、いや! 違うぞ、いつもの姿もまた赤音はとても綺麗なんだ! 俺は後ろの席だから分かるが、しっかり伸びた姿勢が「授業中!?」とても美しくカッコ良いと惚れ惚れしている! それに、部活の時のお前はなにより美しいと思う! 勿論、走っているときの美しさも好き「好きって、ちょ、ちょっと」なんだが、俺としては準備運動の時が一番綺麗「待って、黒岩!?」だと思っている。俺が知る限り女子部員のなかでお前は誰よりも準備運動に対する熱心さが違うように見える。ラジオ体操一つをとっても、どんな時だってお前は四肢の先の先まで意識を込めて身体を動かしているのが「どこ見ているのさ!?」分かるからな。そういった基礎を大事にする奴は大好きだし、そんなお前の身体の動かし方はいつも美しいと思っていた! すまない、長くなったな、つまりは「謝るとこそこじゃないって!」そういう普段もとても美しいと思っていることは信じてほしいが、今日の恰好は違う美しさを持っていると思うわけなんだ!! 実を言うとそこまで流行に詳しいわけじゃないが、今日のパンツスタイルはとても赤音の魅力に合った「黒岩ッ!」服装だと思う! それにそのデニムシャツはとても良いな! アビス色は今年の流行カラーだと「もう良いからッ」聞くし、なにより赤音の活発なイメージにとても合っている。にも関わらずどこか女性らしさを感じることが出来て「だからッ」正直ドキドキしてい「ドキッ!?」る!! だが、やはり個人的に一番良いと思うのは、髪留めだな! その髪ゴムの色は新緑の緑か? 普段は赤色ばかりだった「!!」と記憶しているが、その色がとてもこの季節に合っている若々しい色で似合ってへぶらッ!?」
健斗に勝るとも劣らない威力の拳が俺の腹に突き刺さる。や、やる……な、さすが、は、赤音……だ…………。
「もう良いって言ってんでしょうが!?」
「だ、だがまだ褒めるべき点が……」
「うるさいうるさいうるさい!!」
やはり、イメージトレーニングだけでは足りなかったのだろうか……。どうやら赤音を怒らせてしまったらしい。ぷんぷんと怒りながら歩きだしてしまった赤音を腹を抑えながら慌てて追いかけていく。
「わー……、あんな里香ちゃん初めて見た。すごいですね、黒岩くんって」
「そうだね。……あー、青木さんも今日の服装とても綺麗だと思うよ」
「え? ぁ、ありがとうございます!」
後ろから健斗と青木の会話が小さく聞こえてきたが、どうやら上手くいっているようだ。さすがは健斗……!
と、感心している場合ではないな。はやく赤音に謝らなくては……! あと、どこが駄目だったか聞き取りもしないとッ! ふ、転んでもただでは起きないのが出来る男ってもんだからな!!
それに、今日の俺と赤音の役目は健斗たちを盛り上げることだ。恋のキューピット役が仲良くなくては実る恋も実らなくなってしまう!!
安心しておけ、健斗、それに青木!! 俺が必ずお前たちの恋を実らせてやるからな!!
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