第7話


「健斗!!」


 指定した待ち合わせ場所に居た親友の姿を発見した俺は、手を振りながら駆け出した。


「悪いな、待たせたか!」


「いや、今着たとこ……、どうしてお前と恋人みたいな会話をしないといけないんだよ」


「何がだ?」


「別に……、なんでもない。それにしても」


 珍しいものを見るかのように、健斗の視線が俺の頭から足先までを何度も往復していく。


「そんな服持ってたっけ」


「ああ、これか? 実は、デートの相手が青木だと分かった日の夜なんだが……」





『ただいまーッ!』


『裕也!!』


『お兄ちゃん!!』


『『女の子とデートって本当(なの)!?』』


 部活を終えて帰宅した俺を待ち構えていた姉と妹によって、俺は押し倒されてしまった。くそう、油断していたとはいえこの俺が……! 女性に押し倒されるなんてなんて間抜けな姿を! カッコ悪い……!!


『ど、どうしてそれを……?』


『そんなことはどうでも良いのよ!!』


『そうよ! 相手は! 相手はまともな人なんだよね! 騙されているとかじゃないんだよね!?』


 ふむ……。騙されている、ということはないな。むしろ、俺と赤音はデートの振りをしているわけなんだから……。


『俺はどっちかというと騙す方だと思う』


『諦めな』


『うん、お兄ちゃんには無理だよ……』


 失礼な!! 確かに人を騙すことはいけないことだと分かっているが、だからこそしないのであって、出来ないわけじゃないぞ!!


『ていうことは……、何か事情があるデートってことね。よし、裕也』


『全部話すまで今日はごはんないよ』


『嘘だろ!?』





「ということがあってな」


「相変わらず家族仲良いね、お前んとこ」


「まあな! 自慢の家族だ!! ああ、それで全部話したんだが、そういうことならと二人も協力してくれてな。昨日部活終えて家に帰ったらこの服を買ってきてくれていたんだ。カッコ良いだろ!」


「うん、似合う似合う」


「それにしても、どうして二人は俺が今日デートすることを知っていたんだろうか……」


「あれだけ教室内で大声で話したんだから、どこかで噂にでもなってたんじゃないの? うちの高校と妹さんの中学って距離近いし」


「ああ、なるほどなぁ……」


 さすがは健斗だ……! 俺がずっと考えてい、……たわけではないが、正直健斗に話すまで忘れていたが、その謎を一瞬で解き明かすとはな。そうなると、こいつは将来名探偵になることも出来るということか。…………、似合うな。実に似合う。数々の難事件を解決し、日本だけに留まらず海外にまでその名は浸透していくわけだ。と、なるとサインも必要になるだろう。やはり英語か? いや、確かに便利な言語ではあるがだからといって英語を使うこともあるまい。なにせ俺たちは日本人だ。日本人としての心はどこに行こうとも忘れてはいけないと思う。つまり……。


「京都でお茶を習うぞ、健斗」


「何を言っているんだ、お前は」


 確かに、いくら可能性があるからといって健斗の将来を俺が勝手に決めるのは良くないことだったな……。


「すまん、お前の将来はお前のモノだもんな」


「うん、それはそうだな」


「だが、お前が海外に行ってしまっても俺はずっとお前の親友だからな!」


「行かないし」


「困ったことがあったらいつでも呼べよ!」


「だから」


「遠慮するな!!」


「ありがとう」


 まったく。ここまで言わないと素直にならないとは困った親友だ! だが、だからこそ俺はこいつの力になってやろうと思うわけだ。なにせ、健斗は変なところで不器用だからな!!

 ああ、そうだ。不器用といえば、


「二人が来たらどうすべきか分かっているか?」


「まずは飯に行くんだろ?」


 やれやれ……、困ったやつだ。念のために聞いておいて正解だった。


「何よその顔」


「良いか! デートの時には、まずは最初にその女性の姿を褒めるのが何より大事なんだ!」


「へえ」


「安心しろ! いきなりお前にそんな難しいことをしろなんて俺は鬼ではない! 俺が赤音相手にやってみせるからお前も真似てみると良い!!」


「それは助かるね」


 ふふ……、実は俺も実践するのは初めてなんだが、幼い頃より何度もイメージトレーニングは行い続けている。無論、どこかで失敗してしまうこともあるかもしれないが、健斗のことだ。俺の失敗をすぐさま見抜き、それを学習した上で青木を褒めることが出来るだろう。

 俺個人としても、あとで健斗と赤音からどこが駄目だったか確認することによって本当のデートに時への良い練習となる!! これぞまさしく一挙両得! この作戦に不備はない!!


「おーい! 黒岩ーッ! 白石ーッ!」


 なんてことを考えていれば、俺たちを呼ぶ声。

 振り向けば、少し駆け足気味でやってくる二人の女子が居たのだった。

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