第6話
「というわけだ! 今週の日曜日にデートに行くぞ、健斗!」
意気込みばっちりで飛び込んだ俺の言葉は、
「意味が分からない」
冷静な健斗によって一蹴されてしまった。
「ふぅん……、青木さんだったんだ、相手って」
確かに、いきなり言っても意味が分からないなと納得した俺は、赤音から聞いた話を出来るだけ詳細に健斗に話した。
その結果、出てきた感想がこれなんだが。これはまずい。
「健斗、保健室に行くぞ」
「どうしてだよ」
ジト目になった健斗はきっと、こいつは今度は何を言い出すんだ。とか思っているんだろうが。やれやれ、まったくもって仕方のない親友だ。
「いいか、お前は熱があるんだ」
「ないけど」
「確かに顧問からも自己管理の大切さはよく言われるが、体調を崩してしまうことは恥ずかしいことではない。放置しておくことが一番の愚策なんだ、分かるだろう」
「それはよく分かるけど、本当に体調悪くないんだって」
「そんなことはない!」
「だからどうしてだよ」
「青木だぞ!? あの青木ッ! デート、というか好意を寄せている相手が青木だと分かったのに平然としていられるだなんてあり得ないだろう、普通に考えてッ!」
「それはお前だけじゃないか?」
「馬鹿野郎! 俺だったら誰が相手でもすごいことになる自信がある!!」
というか、実際なったしな!
……、完全な誤解だったわけだが。
「……それもそうだな。うん、今のは俺が悪かった」
「分かってくれれば良いんだ」
「でも、じゃあ俺だったらどうなると思う?」
「健斗だったら?」
ふむ……、健斗だったらか。
こいつは本当に昔からモテていたからな。小学生の頃は、クラスどころか別学年の女子まで休み時間の度に健斗に会いに来て教室がパンクするほどで、五年生の時に発表会で演劇をすることになった時などは健斗を王子様役にして自分をお姫様役にしたいという女子たちの争いでクラスが世紀末のようになったほどだ。
中学生のときには、俺たちが入学したときにはすでに私設のファンクラブが完成しており、ファンクラブの許可なく健斗に話しかけた女子は大変な目に会っていたという噂もあるらしい。最も、学校の約8割が会員だったため実際には会員同士の抜け駆け足の引っ張り合いだったとも聞くが。
そんな健斗だから当然、学校一の美少女と言われる子にも何度も告白されている。つまり……。
「羨ましいッ!!」
「とりあえず理解してもらったと思うことにするな」
「ああ……、正直羨ましすぎて涙が出そうになった」
「出てるから、ほら、拭けよ」
完全にこちらの嫉妬だというのに、健斗は優しくティッシュを差し出してくれる。ああ、まったく……。やっぱりこいつは良い奴だ。羨ましいとか、どうしてとか、悔しいとかそういう気持ちはある。実際にある。
でも。
「お前を幸せにしてみせるからな、健斗!!」
「え、プロポーズされているの、これ」
悔しいという気持ちを正直に抱えて、それでも相手の幸せを願うのが友情ってもんだろう! 決まったァ!
「それにしても、よくデートする気になったな」
少なくとも俺が知る限りで健斗が誰かとデートをしたことはなかったはず。
「うん? まぁ、ちょっとそういう気分だったんだよ」
「そうか! よく分からないがそういうことなら俺も全力で協力するから安心すると良い!」
「はいはい、頼りにしてるよ」
「俺もデートしたことはないけどな!」
「ほんと、頼りになるよ」
俺も振りとはいえ人生初めてのデートだ! 男として、隣に歩く女性が楽しめるようにしないとなッ!!
「ああ、駅前の噴水公園で待ち合わせしたあと近くで昼飯を食べて、そこからはゲーセンに行こうかということになっている」
「ゲーセンで良いの? 青木さんのイメージにないけど」
「ああ。その辺は俺等のほうに合わせてくれたみたいだ。どうだ、青木は良い子だろうッ」
「そうだね」
「それにしても日曜日が楽しみだな!」
「それよりも……」
「うん?」
「お前が考えもしないで教室内で大声で話すから」
うんざりしている健斗の視線を追えば、教室のなかにいたほとんどの男女が錯乱状態にあった。
「な、なんだこれは」
「むしろ今まで気づかなかったのがすごいよ、あれじゃない? 自分で言うのもなんだけど、俺も青木さんもそれぞれに人気あるからさ」
「あー……」
しまった。まったくそのことを考えていなかった。健斗も青木もどっちもモテる。その二人がデートするなんてことになったら、なるほど。こういうことになるのか。
「はーい、授業はじめ……、なんだこの状況」
「「「黒岩が!!」」」
「またお前か」
5限の授業のためやってきた担任に事情を説明するのにとても苦労した……。最終的に健斗が収めてくれなかったらどうなっていただろう……。
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