第4話


「おはようみんな!!」


 次の日俺は朝早くから学校へ行くことにした。赤音の連絡先を知らなかったのは盲点だった! だが、幸い俺は高校生! そう! 学校に行けばいつでも赤音に会うことが出来るのだ、素晴らしい!

 昨日考えに考え、頭から湯気が出て姉に水をぶっかけられたりもしたほど考えぬき、俺は一つの考えに至った! 聞いてくれ!

 そういえば、赤音の友達が誰か知らない!!


 俺としたことがついうっかりだ! 誰かを知らないで作戦も立てられないじゃないか! というわけで、朝一に赤音から聞こうと思う!!

 今日は部活の朝練もないから、おそらく赤音は八時には来るだろう。ということは、あと一時間半待てば良いな!!






「ぐがぁぁぁ……、すぅ~……すぴーーッ」


「おい、起きろ。いい加減起きろって」


「んが……?」


 うぅん……、いったい誰だ……? 人が気持ち良く寝ているというのに……、寝て?


「しまったァァ! 今何時だ!?」


 勢いよく立ち上がり、周囲を確認すればいつのまにかクラスメートが全員そろって着席を完了してしまっている。なんということだ! 昨日遅く夜十時まで起きていたことが仇になったしまったというのか……! 後ろの席から聞こえるため息は健斗のものだな。つまりさっき起こしてくれたのは健斗か。起こしてくれるなんてさすがは健斗だ。待って居ろ、お前のために最高のデート作戦を作ってみせるからな!!


「おい、いいから座れって」


「何を言っているんだ! 今それどころじゃないだろう!」


「ほう。それどころではないのか」


「当たり前だ! 今は何よりデートのことを考えるのが最優先だろう。何を当然なッ!」


「そうか。確かに、恋愛は大事な要素ではあるな」


「分かってくれたか健斗! ……、お前そんな声だったか? しかもよく口を動かさずに会話できるな」


 さすがは俺の親友……。そんな器用な真似まで習得していると、ん? どうして健斗は顔を手で覆っているんだ。まるでこいつは本当に馬鹿だと言わんばかりに。


「黒岩」


「ん?」


 名前を呼ばれて振り向けば、俺の担任にして英語教師の緑川先生。めちゃくちゃ美人だがそれ以上に怖いため、生徒たちからは陰で緑川女王と呼ばれている猛者だ。はて? どうして先生のこめかみにピキピキと血管が浮かんでいるのだろう。


「何かありましたか、先生」


「そうだな。朝のホームルームを開始しようと思っていたのにずっと寝ていた馬鹿がいきなり起き上がり暴走を開始しはじめているんだよ」


「……それは、大変ですね。どこのどいつですかその迷惑なやつは」


 集団の輪を乱すことはいけないことだと中学の陸上部顧問も口を酸っぱくして俺に何度も教えてくれた。俺が卒業するときには泣いて喜んでくれた顧問……。たった三年間で人が変わるほど老け込んでしまっていたが、いまもお元気だろうか。


「黒岩」


「なんですか?」


「廊下に立ってろ」


「…………」


 なるほど。

 どうやら犯人は俺だったらしい……。






「赤音ェ!」


 ホームルームも終わって、緑川先生の説教も終わった俺は一時間目が始まるまでに声を掛けるべき教室へと戻ってきた。


「……あー、おはよ。大丈夫か、あんた。なんというか、色々」


「ん? おう! やってはいけないことをしていたのは俺だからな。先生もちゃんと怒ってくれるなんてやっぱり良い担任で俺は嬉しいくらいだ!」


「あ、そう……」


「今日の失敗はあとで省みるとして、だ! 昨日言っていたデートのことなんだが!」


「ちょぉったたたぁぁい!?」


「むがッ!?」


 片手で口を塞がれ、逆の手で腕の関節を極められてしまう。さすがは赤音だ。身体の動かし方に無駄がない。しかしものすごく痛いから出来れば外してもらえないだろうか……。

 口を塞がれたのでお願いを言うことも出来ずに、俺は教室から人気の居ない階段まで連行された。


「ぷはッッ! どうしたんだ、急に」


「馬鹿かあんたッ!?」


 む? やれやれ間違いは訂正しておこう。


「今年の入試は俺が二位だから、馬鹿ではないはずだぞ」


 ちなみに、一位は健斗だ。


「そういう意味じゃないわよ、って二位なの!? 嘘でしょ、あんた勉強出来たの!?」


「当たり前だろう。いつか一家の大黒柱として働くためにも、なにより親の金で学校に通わさせてもらっている以上学生がまず優先すべきは勉学だ。そこを疎かにして良いわけがない」


「……なんか腹立つ……。まあ、そこは置いときなさい!」


「分かった、置いておこう」


「教室の中でいきなり、あの、あんなこと言うんじゃないわよ!」


「あんなこと?」


「デッ! ……デート、とか……」


 うん? 急にもにょもにょとしてしまった……? ハッッ! 待てよ、そうかそういうことか……。


「赤音!」


「ひゃい!? い、いきなり肩掴まないでよ!?」


「すまない!」


「へ?」


「デリカシーというやつだな! 確かに周りに人が居るなかでいくら振りとはいえ、あんなことを言ってしまえば恥ずかしくなるという赤音の気持ちを考えていなかった本当にすまない!」


「あ、いや……あー、合っているだけに意外というか、釈然としない、というか……」


「だが、今後のことを考えて少しでもはやく作戦を立てたいと思ってのことなんだ許してほしい!」


「う、うん……、今度から注意してね?」


「もう大丈夫だ! それより、昨日聞き忘れたんだが、赤音の友達とはいったい誰なんだ?」


「そうね。そこを聞かずにいきなり飛び出していったから実はあんたは乗り気じゃないんだと思ってたくらいよ」


「とりあえず健斗はデートはすると言っているのだが、その相手のこととかデートの日時とか教えろと怒られてしまってな!」


「まあ普通はそう、ちょっと待ちなさい」


「ん?」


「白石くんが……、何だって?」


「その相手のこととかデートの日時とか教えろと怒られてしまった」


「そこじゃない。その前」


「前? ああ、デートはするとのことだ!」


「なに色々ぶっ飛ばしてそこまでもう話進んでいるのよォ!?」


 胸倉を掴まれて赤音にひどく怒られてしまった。

 ……むぅ、なにか失敗してしまったのだろうか。恋のキューピットは難しいな……。

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