第3話


 走る。

 走る。走る。

 走る。走る。走る。


 悔し涙をこらえ、俺は校内をひたすら走る。

 今の俺を止めれる者は誰も居ない。この世界で、誰も俺を止められない!


「黒岩ァ! 廊下は走るなァ!」


「ごめんなさい、先生!」


 歩く。

 歩く。歩く。

 歩く。歩く。歩く。


 悔し涙をこらえ、俺は校内をひたすら歩く。

 今の俺を止めれる者は誰も居ない。この世界で、誰も俺を止められない!






 1-A

 俺が目指した場所。まだ五月だが、すでに通い慣れたといっても良い俺の教室。その扉を勢いよく開け放つ。


 窓際後ろから三列目が俺の席。そしてその後ろで暇そうに携帯を触っている男子生徒。……見つけた。

 彼はずんずん近づく俺に気付くと、携帯をポケットにいれながらため息を吐いた。


「やっと帰ってきた。せっかく部活ないからゲーセン行こうって言ってたのにお前どこふらつき歩い、」


「健斗!」


「…………どうした?」


「俺とデートするぞ!!」


「頭でも打ったか」


 黒岩裕也はホモであるという噂が流れた。






 白石健斗は俺の親友であり、心の友である。

 これを言うと健斗は恥ずかしくないのか? と真顔で聞いてくるんだが、俺から言わせれば事実を言うことに恥ずかしいことなどあるものか。誰が何と言おうが、健斗は俺の親友だ!

 そして……、健斗はそれはもうモテる。正直モテる。はっきり言ってモテる。ちょっと引くくらいモテる。バレンタインデーになると面倒くさいからという理由で学校を休むくらいこいつはモテる。


「うらやましいッ!!」


「お前さ……、その頭の中で気持ちが盛り上がった途端に声に出す癖はやく直せって」


 だが、それも仕方ないのかもしれない。

 男の俺から見てもこいつはカッコイイ。下手なアイドルよりカッコイイ。ンでもって頭も良くて、運動神経も抜群で一見無愛想だが実は人当たりも良くてみんなから好かれてなんだこいつは漫画の主人公かよ!


「でも漫画の世界に帰るなよ! 俺が寂しい!!」


「そうだなー」


 いつもちょっとだるそうにしてやる気がなさそうに見えるのが数少ない欠点だとは思うが、やる時はやる男だ。だからこそカッコイイのかもしれない。俺には真似できないことだ。


 めちゃくちゃモテる健斗と俺は親友だ。

 だから、俺は良く健斗への橋渡しを頼まれることがあった。……悔しい、本当に悔しいさ。なかには俺が好きだった子から頼まれたこともあった。でも、しょうがないさ。健斗はカッコイイ! 健斗を好きになる気持ちは俺もよぉく分かる。だからこそ、俺は喜んで橋渡しをしたさ。当然だろう? 女の子には優しくするのが男ってもんだからな! 決まったァ!


「辛かったけどな!」


「今日一段と長いな。……はぁ、とりあえず座れよ」


 健斗は近くに会った公園のベンチを指さした。


「ゲーセンに行かなくて良いのか?」


「今のお前と行ってもな。さっきのデートの件と言い、何か言わないといけないことあるんだろ? いいから話せよ」


「健斗……、さすがだな、お見通しというわけか」


「いや、お前が分かり易すぎるんだ」


 これが、こいつがモテる要因の一つなんだろう……! 困っていたり悩んでいたりする人をこいつは見逃さない。そして見捨てない。さすがは親友、くそう! 悔しいが誇らしい!!


「というわけなんだ!!」


「まずは、そうだな……。漫画じゃないんだからいきなりというわけなんだから入るな。ちゃんと話せ」


「おっと、すまん。ついうっかり」


 駄目だ駄目だ。慌ててしまうのは俺の悪い癖だ。小学校の担任の先生にも六年間ずっと君はまるであわてんぼうのサンタクロースだね。と注意し続けてもらったというのに。

 ひとまず俺は赤音から聞いた情報を全て健斗に伝えることにした。だが、……、赤音にも彼女の友人とやらにも悪いがこのダブルデートは成立することはないだろう。過去にも同じようなことはあったが、健斗は了承したことは一度もなかった。

 健斗曰く、恋だの愛だのに興味が湧かないとのことらしい。正直俺には理解できないが、きっとこいつにもいつか本当に愛を知る日が来るだろうと俺は逆に楽しみにしていたりもする。


「……どうしてそんな慈愛に満ちた瞳をしているんだ」


「いや、なんとなくだ」


「そうか。で、そのデートだけど」


「おう」


 さて、赤音にはどう言えばよいだろうか……。とはいえ、正直に言う以外に俺に作戦は思いつかないんだが。


「日取りはいつとか決まってるの」


「そうだなァ……、実は俺もまだそこまで詳し、はい?」


「え? だから、日取りとか場所とか。それも分からないんじゃ何も出来ないじゃん」


「……するのか?」


「何を」


「デート」


「いや、お前が言い出したんじゃん……」


「…………」


「なんだよ」


「そうかァ!!」


 ついに! ついに!!

 健斗も愛を知る日が来たというわけかァァァ!! なんて良い日だ! これはなんて素晴らしい日なんだ!


「今日を祝日に定めよう!」


「お前にその権利はない」


「安心しろ、健斗!!」


「今まさに不安になった」


「このデート! この百戦錬磨の裕也様が必ずや成功に導いてやるからな!!」


「……いや、あの、俺が女の子を誘ったわけじゃないから成功もなにもだな」


「遂に健斗にも彼女が出来るというわけか! くそう! 羨ましいぜ!! 羨ましいぜ、ちくしょォォォ!!」


「おーい」


「だが……ッ! 分かっている、分かっているさ! 親友のためだ、俺がひと肌でもふた肌でも脱いでやるさ!!」


「帰ってこーい」


「こうしてはいられねえ! 悪いが、今日はここで別れるぞ! 赤音に相談して作戦を練ってくる!! また明日だ、健斗ォォォォ!!」


「……行っちゃたよ…………。てか、あいつ赤音さんの連絡先なんか知ってんのか?」


 正直に言おう! めちゃくちゃ悔しい!!

 これだけ彼女が欲しい俺にはなにもなくて、彼女が欲しいと言ったこともない健斗には恋のチャンスが転がり込んでくる。これが悔しくないなんて言えるわけがない!

 でも、あいつは良い奴なんだ! しかも、モテるからモテるなりの苦労をしている姿も俺は何度も見かけている。そんなあいつは一歩前に進むと言うのなら……、俺が協力しないでどうするんだ、馬鹿野郎ォォォォォォ!!






 赤音の連絡先を知らなかったので、今日はとくに何も出来ませんでした。

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