あめつちの史

きし あきら

あめつちの史

 昔むかし、とてもひろいところに、おとぎ話が好きなかみさまがいました。

 精さまはながいあいだ、たくさんのおはなしをあつめてきましたが、あるとき、すこしだけねむってみたくなりました。


 かみさまは考えました。

 「わたしがねむっているあいだ、これらのおはなしが傷んでしまわないようにしなければ。そのためには、これらをみんな、くるくるまわしておくのがよかろう。」

 そこで精さまは自分のからだを使い(といっても、この精さまは大きなこうべひとつしか持ちませんでしたが、)おとぎ話にみかをあたえることにしました。

 「くるくるまわるために、すみかはまるいほうがよかろう。そして、どこでも明るくて暗くて、からからでじめじめで、あたたかくてさむくて、かたくてやわらかいのがよかろう。」

 考えながら精さまは、だんだんとかたちを変えてゆきました。ながい髪は草木に、高い鼻と耳とは山谷となり、口から清水しみずが湧きました。


 こうしてこうべかみさまが、まるい地となったので、そこには天もできました。

 それから、ころがり出たふたつの目のうち、右がわは金の星に、左がわは銀の星になりました。(これを、のちのものは、それぞれに太陽と月と呼ぶのです。)

 さいごに精さまは、あつめたおとぎ話を地にも天にもちりばめて言いました。

 「ああ、これで夢のなかでも、好きなときに好きなものを見ることができるね。それではおやすみ。わたしの大切なおはなし。」

 たくさんの、ちいさなひかりが、ひろいところでまたたきます。精さまは深い息をひとつ吸うと、それきり、しずかなねむりにつきました。


 (はじまりは、これにておしまい。)

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