第290話 ハンディキャップ
「体が重たいね!」
「山盛りね!」
「確かに預かったね!」
「責任重大ね!」
巨大に膨れあがったムジェリ達が体を揺らしながら口々に言う。
「すまない。他に方法が見つかるまで頼む」
「ありがとね、ムーちゃん!」
「感謝だよ、ムーちゃん!」
シュンとユア、ユナが巨大なムジェリ達と拳を合わせる。
拳を合わせ終わった巨大ムジェリ達が、一体、また一体と転移をしてムジェリの里へ戻る。
「お礼はまた持っていくからね!」
「いっぱい持っていくよ!」
ユアとユナが笑顔で言った。
「楽しみね! とっても嬉しいね!」
「いつでも来るね! 待ち遠しいね!」
パパ・マージャとママ・マージャが嬉しそうに声を上げながら、大きな手をそっと伸ばして2人の拳と触れ合わせる。最後に、シュンと拳を合わせてから大気に透けるようにして消えていった。
「みんな大きくなっちゃった」
「村が大変なことになったかも」
ユアとユナが腕組みをして唸る。ムジェリ達は快く引き受けてくれたが、迷惑を掛けたことに違いはない。
「改めて謝罪に行かないといけないな」
シュンは左手にステータスを表示させながら言った。
「・・95か」
想定では、70前後まで抑えられるはずだったのだが・・。
「なぜか不変」
「謎である」
ユアとユナが自分の体を確かめている。
元々、レベルと体型には因果関係などないのだが・・。
「少し広いが・・防護壁を頼む」
シュンは闘技場内を見回した。
「アイアイ」
「ラジャー」
ユアとユナが敬礼をして、黒い翼を背に宙へ舞い上がった。
「カーミュ」
『ご主人?』
名を呼ばれて白翼の美少年が姿を現した。
「女王様への挨拶は良いのか?」
『終わってからで良いのです。機嫌が良さそうなのです』
カーミュが観覧席の方を振り返ると手を振った。
「・・そうらしいな」
シュンは遠い観覧席に向かって一礼した。続いて、視線を巡らせ、マーブル主神を見つけて同じように頭を下げる。
それが合図であったかのように、
ドォォォ~ン・・
ドォォォ~ン・・
ドォォォ~ン・・
重々しい大太鼓の音が場内に鳴り響いた。
『顔合わせの大太鼓なのです』
カーミュが闘技場内を見回した。
「始まるのか」
シュンは、"
『まずは姿を見せ合うのです。それから女王様が戦いの決め事をお話しするです』
「決め事があるのか?」
『
「・・そうか」
シュンが呟いた時、シュンから見て右方、石床の上に八角形の魔法陣が浮かび上がり、黒々とした大きな花の蕾が生み出される。
魔法陣の上で黒い蕾が回転を始め、見る間に花弁が開いて中から甲胄を着た女が姿を現した。
女は、艶のある黒紫色の甲冑を着込み、背には紫色のマントを羽織っている。武器は細身の長剣、そして体格に似合わない大型の盾を携えている。
跳ね上げた兜の面頬の下に覗くのは、やや目尻の吊った切れの長い双眸だった。
ドォォォ~ン・・
ドォォォ~ン・・
ドォォォ~ン・・
再び、大太鼓の音が場内に響いた。
『これより、
死の国の女王の声が響き渡った。
『
場内に響く女王の声を聴きながら、シュンはこれから戦う相手を観察していた。
相手もまたシュンの様子を見ている。厳しい眼差しが"ネームド"の戦闘服、そしてシュンが右手に握る"
『弱き者より請願の書が出された』
静まり返った場内に、女王の声が響き渡った。
「請願の?」
シュンはカーミュを見た。
『弱い側には、力の差を少なくするために五つの条件を記した請願の書を出す権利が与えられるです。主神が妥当なものだと判断したら、正式な試合条件として決定するです』
カーミュが囁いた。
「どちらが弱き者だ?」
『宵闇の女神なのです』
「・・そうか」
シュンは無表情に頷いた。
『これより、宵闇の女神から請願された条件を読み上げる』
女王の声が響いた。
『一つ、主神側の使徒は、主神が選ぶ1人のみとする』
『一つ、主神側の使徒は、主神より与えられた武器しか使ってはならない』
『一つ、主神側の使徒は、主神より与えられた魔法しか使ってはならない』
『一つ、主神側の使徒は、主神より与えられた薬品しか使ってはならない』
『一つ、主神側の使徒は、テンタクル・ウィップを使ってはならない』
宵闇の女神が求める五つの条件が読み上げられた。
『現界の主神よ。宵闇の女神の条件を受け入れるか?』
『なんか・・逆じゃない? ボクが与えた武器とか魔法は許可しないって言うのが普通でしょ? ボクの武器は使って良いって・・ふざけてんの?』
マーブル主神の声が響いた。
『現界の主神よ。受け入れるのか?』
死の国の女王が繰り返し問いかけた。
『なんか、腹が立つ条件ばっかりだけど・・良いよ。どうせ拒否できないんでしょ?』
『聞き届けるのであれば、戦う使徒を1人選びなさい』
『使徒シュンを指名する』
マーブル主神が即答した。
『そうか・・では、使徒シュンが主神側の代表となる。他の使徒は闘技場の外へ出よ』
女王が上空を舞っているユアとユナに声を掛けた。
「ボッス?」
「どうする?」
ユアとユナが舞い降りて来た。
「マーブル主神の近くで待機だ。これは恐らく、主神の失策・・」
「アイアイ」
「ラジャー」
2人が笑顔で敬礼をして飛び去った。
その後ろ姿を見送るシュンに、
『言ってみるものだな』
強く張り詰めた女の声が掛けられた。
『どれも却下されるものだと思っていたぞ』
「そうか」
シュンは小さく頷いた。
他に、これといって感想は無い。
『その呪薔薇は、主神が与えた武器ではあるまい? ブラージュから奪った槍も然り』
「・・そうだな」
シュンは"
『対して、私は何の制限も無く、あらゆる武具を持ち込める。あらゆる術を使えるぞ!』
宵闇の女神が勝ち誇ったように言い放った。
「良かったな」
シュンは感想を述べた。
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