第243話 神界封鎖


 ヴィーー・・ヴィィーー・・


 ヴィーー・・ヴィィーー・・



 いきなり、警報が鳴り始めた。


 マーブル主神の部屋の中で、、シュンが異界神から聞き出した情報を整理している最中の事だった。シュンとその婚約者達は、地上にある監視所へ戻ると言って去った後だ。


『・・まさかの?』


 マーブル主神が緊張した顔で、手元で何やら魔法陣らしきものを操作する。


 すぐさま部屋の中央に、どこかの景色が映像となって浮かび上がった。


「風の・・それに、戦乙女ですな」


 オグノーズホーンが呟く。


 風の女神が武装した戦乙女を引き連れて、神界の主宮門を攻撃していた。門を護っているのは、マーブル主神が造った甲胄人形である。戦乙女くらいなら追い返せる戦闘力があるが、風の女神を防ぎ止めるのは無理だ。


『あそこに行ってどうするんだろうね?』


 マーブル主神が腕組みをして首を捻る。


『風の女神が反逆したのですか?』


 輪廻の女神の双眸が冷たく底光りをしている。非常に危険な状況であった。


『前の主神が隠してた物があるのかな?』


『捕らえて聞き出しましょうか?』


 今にも飛び出して行きそうな輪廻の女神だが・・。



 ヴィーー・・ヴィィーー・・


 ヴィーー・・ヴィィーー・・



 別の警報音が鳴り始めた。


『他にも来てるね。手引きして引き入れたのは、風の女神かな?・・というか、もしかしてボク達以外は霊虫にやられちゃってる? やっぱり手遅れだったか』


 マーブル主神が宙に浮かんだまま苦笑した。一応、神界の中は調べたのだが、魂の奥底まで入り込まれていると、発見することができないのだ。


『このままでは、主宮に入られます』


 輪廻の女神が映像を睨み付けながら言った。

 甲胄人形を風の刃で薙ぎ払い、ズタズタに引き裂きながら、風の女神が奥へと進んでいる。付き従う戦乙女は100名以上居るだろう。


『う~ん・・そんなにボクの世界が欲しいのかな? というか、ボクって相当馬鹿にされちゃってる?』


 マーブル主神が嘆息した。


「面白そうなのはおりますかな?」


 オグノーズホーンが壁際に佇んだまま訊ねる。


『う~んと・・そうだねぇ。お・・例の龍人が来てるじゃん』


「ブラージュですか? ノイジールですか?」


『黒曜・・ノイジールだね』


「・・ふむ」


『気が乗らない?』


「いえ、主命であれば、なんであれ片付けて参りますが・・」


『他に来てるのは、・・あ、天雷の神と金剛神も上がって来てる。こっちは、使徒も引き連れてるね』


「ほう・・良さそうですな」


 オグノーズホーンが壁から背を離した。


『頼める?』


「お任せを・・」


 オグノーズホーンが軽く一礼をして消えていった。


『神様ぁ?』


 輪廻の女神がそわそわと落ち着き無く、映像とマーブル主神の顔を見比べる。


『闇ちゃんは、疲れてるでしょ?』


『もう大丈夫です。力は戻っていますわ』


『いやぁ、まあ・・あっ!』


『えっ?』


 マーブル主神が、映像に眼を凝らした。

 横で、輪廻の女神も映像を凝視する。


 白金の甲胄プラチナメイルを身に纏った美しい女神が、似通った甲胄姿の少女達を引き連れて飛翔していた。


『光・・じゃない。誰だっけ?』


 マーブル主神が首を傾げる。一見すると、光の乙女に似ているのだが、少し違うようだった。


『首にして持ち帰りましょうか?』


『え・・あ、ああ、いや・・闇ちゃんはそばに居てくれると嬉しいなぁ・・なんて』


『・・神様?』


『ほ、ほら・・淋しいっていうか』


『あぁ、神様・・』


 輪廻の女神が上気した顔を向ける。


『無いとは思うんだけどさ、ここを狙って来る奴が居るかも知れないし・・』


『私が浅慮でした! もう、神様のお側を離れませんわ』


 輪廻の女神が、マーブル主神に近付いて大胆に身を寄せた。


『・・あ、ちょ・・ちょっと落ち着こうか? 闇ちゃんが居てくれるから、ここは安全なんだけども・・他の場所を監視しないといけないからね』


『はい』


 素直に頷いた輪廻の女神が、そっと身を離すとマーブル主神の後ろに立った。触れるか触れないかの距離である。


『・・雷神の後、オグ爺にノイジールを仕留めて貰おうかな』


 マーブル主神が、連続して指を鳴らし、次々に色々な場所の映像を浮かび上がらせる。


 かなりの数の神とその使徒や兵士らしき者達が侵入して来ていた。

 それぞれ侵入した場所が離れていて、一度に片付けるのは難しそうだった。


『こちらは数が少ないからね。分散させようってことかな?』


『愚かな者達ですね』


 輪廻の女神が薄らと笑みを浮かべている。


『本当に、愚かだねぇ』


 マーブル主神が溜め息をついた。

 叛乱組の神々が戻って来た時のために、神界はあちこちに罠が仕掛けられている。入ることは簡単だが、生きて出ることは非常に難しい。

 後は、空間をずらして疑似的な夢幻回廊を出現させれば・・。


『もう帰れないよっと』


 マーブル主神は、ポンポン・・と両手を叩いた。

 設置してあった神器が一斉に作動して、神界を完全に隔絶した空間内に封じる。


 後は潰し合いだ。


『これで、10日間はどんな神様だって解けない、完全な封鎖空間の出来上がりさ』


 マーブル主神が満足そうに言った。


『外で何が行われていても分かりませんわね』


 輪廻の女神が呟いた。


『・・えっ?』


 思わず、マーブル主神が振り向いた。


『はい?』


 輪廻の女神が軽く眼を見開いて主神を見る。


『今、なんて・・?』


『・・今、ですか?』


 輪廻の女神が首を傾げる。


『外のことも分からなくなると・・』


『そう、それ! ああっ! そうか、それだ! やられたぁ!』


 マーブル主神が頭を抱えて叫んだ。


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