第228話 星が泣いた!
「こちら、第三区制空部隊、隊長アリウス」
高空を飛行していた
『こちら本部、ルクーネ』
すぐさま、神殿町にある
「予定地上空に位置するも、地表にそれらしい構造物、灯火は見当たらず」
雲の高さよりも遙かに高い位置からの望遠鏡を使った確認だったが、眼下に見渡せる地表はゴツゴツとした岩山の連なりがあるばかりで生き物の気配が感じられない。
『位置は正確か?』
「正確です」
『しばし待機を・・投下許可が出た』
「了解、投下します」
アリウスが後続の騎士を振り返って声を張った。
「投下!」
大型の水瓶のような形の物を縄で吊るし持っていた2騎の天馬騎士が、両者で呼吸を合わせて縄から手を放した。
「第三区制空部隊、誘導器の投下を完了」
アリウスが本部に向けて報告をする。
『本部、了解。"ネームド"から追加指示あり』
「何事です?」
アリウスの表情が引き締まった。"ネームド"と聴いただけで背筋が伸びる。
『魔王種の反応が密集して移動している地点がある。軍兵が交戦中の場合は放置。避難民が襲われている場合には、魔王種を撃滅して救助せよ』
「魔王種の数と位置は?」
『投下地点から南南西、天馬で1時間。魔王種は推定5000体』
「了解。第三区制空部隊、急行します」
アリウスが配下の
その僅か2分後には、遙かな天空から"P号"が墜ちて来た。
第三区制空部隊が地上へ落下させた誘導器をめがけて、
多少の前後はあるが、第一区制空部隊と第二区制空部隊が別の地点に誘導器を落としている筈だ。それぞれを目掛けて別の"P号"が射出されている。
今回の作戦は、リールの
「"星の涙"作戦である!」
「怒りの涙である!」
と、聖女2人が息巻いていた大掛かりな作戦だ。
なお、狙っているのは、龍神が潜んでいるだろう場所である。"ネームド"は『龍の隠れ里』と呼称していた。その名の通り、龍人が隠れて暮らしているだろう場所だ。
前の主神が催した使徒戦の結果、多くの世界が消滅することになり、各世界の龍人がマーブル主神の世界へ移住してきた。神界の騒動以来、姿を眩ませている龍神と配下の龍人達の居場所を突き止め、炙り出すための作戦である。
もちろん、まったくの見当外れで、何も無い荒野を攻撃している可能性もあるが・・。
赤々と熱を帯びて落ちる"P号"を振り返りながら、アリウス率いる
ヴィィー・・ヴィィー・・ヴィィー・・
いきなり耳障りな音が鳴り響いた。アリウス達、
全魔王種に告げる!
忌々しい神の使徒によって"蠱毒の王"が殺された!
戦いに備えよ!
防備を怠るな!
仇敵は強大なり!
脆弱な人や獣を喰って満足するな!
全ての魔王種よ、さらなる高みを目指せ!
ヴィィー・・ヴィィー・・ヴィィー・・
幾度となく聴いた音だ。当初こそ驚いていたが、この頃は魔王種の悲鳴のようにすら聞こえる。
「アリウス隊長、使徒様方は魔王種と交戦中でしたか?」
「"P号"に巻き込まれたのでしょう。"ネームド"は"U3号"で待機中の筈です」
アリウスが苦笑を漏らした。
本来なら、争乱の主役であるはずの魔王種がただの害虫扱いである。斃す手間で言えば、
ヴィィー・・ヴィィー・・ヴィィー・・
再び、耳障りな音が鳴り響いた。
全魔王種に告げる!
忌々しい神の使徒によって"呪瞳の王"が殺された!
戦いに備えよ!
防備を怠るな!
仇敵は強大なり!
脆弱な人や獣を喰って満足するな!
全ての魔王種よ、さらなる高みを目指せ!
ヴィィー・・ヴィィー・・ヴィィー・・
また、どこかで魔王が討たれたらしい。
賑やかな日だった。
『こちら、本部』
"護耳の神珠"から先ほどの騎士の声がした。
「第三区制空部隊、アリウス」
アリウスが風の擦過音を嫌って、耳を手で包むようにしながら応答する。
『目標地点において、魔王種が半減しつつあり』
「どういうことです?」
『我らがマーブル迷宮とは別の何かが、魔王種の駆除を行っている可能性が高い』
「他迷宮からの連絡は?」
『何も無いそうだ』
「我々の行動は?」
『魔王種にとっての脅威が、人々にとっての救いとは限らない。急行して確認を』
「了解しました!」
アリウスが風に負けじと声を上げた。
後背から強烈な突風が吹きつけてきている。ちょっとした嵐のようだった。
「隊長?」
騎士の1人が
「我らと別に、魔王種を片付けている者達が居るらしい」
「友軍・・とは限りませんね」
「そういうことだ」
アリウスが頷いた。
『第三区制空部隊、応答せよ!』
"護耳の神珠"から緊張した呼び掛けが聞こえた。
「こちら、第三区制空部隊」
『第三区の誘導は"アタリ"だ! 星が泣いた! 繰り返す、星が泣いた! "ネームド"が急襲する! 機神戦に備えて距離を取れ!』
「了解! 第三区制空部隊は、この空域を離脱する!」
アリウスが喜色を浮かべながら返答した。
すぐに配下の騎士達を振り返る。
「我らがアタリを引いたぞ!」
「おおっ!」
「では?」
「ああ! "ネームド"降臨だ!」
アリウスが笑みを浮かべた。配下の騎士達も喜色満面、拳を打ち合わせて喜び合う。
「総員、我に続け!」
アリウスが号令して馬首を巡らせた。配下の
まさにその時、
霊気機関車"U3号"だ。
「さすが!」
「速い!」
兜の面頬の下で、騎士達が溜め息をつく。
本部から連絡があって、まだ僅かな時間しか経っていない。基地の中で、発車の時を今か今かと待ち構えていたのだろう。
ポォォォォォォーーーー・・
ポォォォォォォーーーー・・
ポォォォォォォーーーー・・
のんびりとした大きな音が3度鳴り響いた。
これを聴いた
魔王種の死を告げる耳障りな音が"魔王の悲鳴"なら、霊気機関車"U3号"の警笛は、双子の聖女が楽しげに笑っているようである。
いや、事実、霊気機関車"U3号"の指揮車内で、ユアとユナが御機嫌な笑い声をあげていた。
「
「
連結された格納車に向けて呼び掛けながら、神聖光の奔流となって"P号"の落下地点上空へと急行する。
"星の涙"作戦、第二段階の始まりであった。
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