第227話 ムジェリに任せるね!


「もっと高性能ね? 材料が足りないね? 困ったね!」


 慌てるムジェリ達の前で、シュンがポイポイ・ステッキを振って、夢幻の女神と魔神の死骸を出した。

 途端、ムジェリが活動を停止した。


 怖くなるくらいの沈黙が続いた後、


「すっ、すっ、すっ、凄いねぇっ!」


「とっても、とっても、とんでもないね!」


「古い神ね!」


「太古の魔神ね!」


 ムジェリ達が狂乱状態に陥った。どこからか、別のムジェリまで次々に押し寄せて部屋がごった返す。

 大量のムジェリ達が、興奮して体の色を虹色に光らせながら押し合いし合い、我も我もと死骸の前に殺到する。


「魂は毀損しているが使えないか?」


 シュンの問い掛けに、押し寄せたムジェリ達が一斉に手を挙げた。


「任せるね!」


「これ以上ないほどの品になるね!」


「腕が鳴るね!」


「たまらないね!」


「おお、ムーちゃんが燃えている」


「こうなったら、もう誰にも止められない」


 ユアとユナが、満足そうに頷きながら言った。


「どうした?」


 シュンは背中に重みを感じて振り向いた。

 そこで、リールが真っ青な顔で身を縮めていた。


「す、すまぬ・・主殿」


 震える声で謝りながら、リールがシュンの背中にすがり付いた。幽霊騒ぎの時のユアとユナのような有様だった。


「・・気にするな」


 シュンは苦笑を浮かべつつ、背中のリールはそのままに、ムジェリ達へ向き直った。


「ん?」


 今度は、ユアとユナがシュンの両腕にしがみついてきた。


「どうした?」


「す、すまぬ・・ボス」


「す、すまぬ・・ボス」


 2人が顔を伏せて腕に抱きつく。


「お前達は、ムジェリと仲が良いだろう?」


「マブダチ」


「真の友」


 伏せていた顔を上げ、ユアとユナが笑みを浮かべる。


「なら、なぜ・・」


「弱さをアッピ~ル」


「女子力を学んだ」


「・・抱きつくのは良いが、腕ではなく胴体にしてくれ」


「す、すまぬ・・ボス」


「す、すまぬ・・ボス」


 シュンの注文を聴くなり、ユアとユナが仕切り直して、シュンの脇腹へ抱きついた。


「すぐに出来るか?」


 3方からしがみつかれたまま、シュンはムジェリ達に声を掛けた。


 その様子を壁際に避難している面々が面白そうに眺めている。ネームドのボスが苦笑をしながらも、どこか優しい表情をしていた。これは、滅多にお目にかかれない珍事である。


「2時間欲しいね!」


「より完璧に仕上げるね!」


「面白い物を思いついたね!」


「もう一つ、作るね!」


 ムジェリ達が興奮声を上げて飛び跳ねる。その気配に、リールが震えながらシュンの背中に顔を埋めた。それを見たユアとユナも、負けじとシュンの脇腹へ顔を伏せる。


『マリンもぉ〜』


 はしゃいだ声を出して真っ白な精霊獣が現れると、シュンの襟元に身体を擦り付け、長い尾を振りたて始めた。


「・・では、至急、取り掛かってくれ」


 目の前を往き来する白い尾に視界を邪魔されながら、シュンはムジェリ達に依頼をした。

 続いて、具体的な役割分担について打ち合わせを行う予定なのだが・・。


「これ、全部貰って良いね?」


「どうするね!」


「お礼が足りないね!」


「もっと何か作るね!」


 ムジェリ達の狂乱状態は、まだまだ鎮まりそうも無かった。


「それならば・・以前に話した狩猟用の罠はどうだ?」


 シュンが声を掛けると、ムジェリ達が一瞬だけ静かになる。すぐに、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。


「そうだったね!」


「あれを作るね!」


「女神と魔神があるから作れるね!」


「すぐに作るね!」


 身体を真っ赤に染めて騒ぎ立てる。


「間に合うか?」


「もちろんだね!」


「ムジェリは時間を厳守ね!」


「2時間で完成させるね!」


「すぐに取り掛かるね〜!」


 興奮声で騒ぎ立てながら、ムジェリ達が空気に溶けるようにして消えて行った。一瞬にして、嘘のように部屋が静かになる。


「さて・・」


 シュンは、壁際に避難していた面々を見回した。


 討伐会議、再開である。


「今回の騒動を鎮める為に、マーブル主神は、異界から持ち込まれたリセッタ・バグ・・同様の物を無力化してくれる筈だ。ただ、それだけでは、この騒動は終わらない。単に、向こうの攻撃を1つ封じただけで、別の手段で攻撃を仕掛けてくるだろう」


 何かに備えて守っているだけでは、敵側の仕掛けたい時に、仕掛けたい方法で自在に攻撃をしてくる。


 ここは、マーブル主神の世界だ。

 太陽神を含め、地上に降りた神々は、マーブル主神の世界から領域を分け与えられたに過ぎない。恭順は当然の事、マーブル主神の世界を守るために、全力を尽くして働くべきだ。


 魔王種は、前の主神の残りカス。ただの害虫だ。根こそぎ駆除すれば良い。


 マーブル主神に断りも無く、勝手に侵入した異界神や異界の民など論外だ。草の根を掻き分けてでも捜し出して殲滅しなければならない。


 そして・・。


「もう1つ、留意すべき勢力がある」


 シュンは部屋の中を見回した。






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12月9日、誤記修正。

再会(誤)ー 再開(正)

12月11日、誤記修正。

面々見回した(誤)ー 面々を見回した(正)

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