第223話 潜入! 秘密基地


 陽が暮れて夜闇に包まれた上空を、密やかに降下している人型の巨影があった。


 数は3つ。


 アルマドラ・ナイトを先頭に、2体のルドラ・ナイトが銃を手に、頭を下にして降下をしていた。


 先頭を行くアルマドラ・ナイトは漆黒。

 すぐ後方に続く2体は、白を基調に、黒い水玉がちりばめられた柄をしている。他のルドラ・ナイトと違い、頭部には斜め前へ伸びる一本の角が付いていた。


 眼下には、大きな岩塊が見えている。

 空中に浮かぶ岩塊だった。小さく見えていた岩塊だったが、近付いてみると起伏に富んだ形をしている。


 岩肌の様子がはっきりと見える高さまで降下したアルマドラ・ナイトとルドラ・ナイトは、降下速度を落として、静止状態に近づけながら岩塊との距離を縮めていた。

 やがて、ほとんど音らしい音を立てずに静かに着地をした、アルマドラ・ナイトとルドラ・ナイトが吸い込まれるように姿を消した。

 外から見ると、岩塊の中へと消えたかのように見えたが・・。


 アルマドラ・ナイトと2体のルドラ・ナイトは、長方形をした大きな開閉扉の前に移動していた。

 幻影によって岩塊に見えているだけで、実際には金属製の壁面に覆われた大きな建物がある。この仕掛けを見破ったのは、小悪魔インプを操って調査をしていたリールだった。


 大型の開閉扉の横で、小悪魔インプが羽根をパタパタと羽ばたかせつつ、壁面にある把手を指さしている。


 アルマドラ・ナイトが右手を伸ばして、壁面の把手を握ると、軽く右側へ・・動かないとみて、すぐに左側へと捻った。



 パシュゥ・・



 小さく空気の漏れる音がして、開閉扉が左右に分かれて開いた。中は、通路が奥へ一直線に続いていた。開閉扉と同様、アルマドラ・ナイトが歩いて通れるほどの高さと幅がある。奥の方に小さな明かりが見えているだけで、通路の内部は暗かった。


 小悪魔インプが先頭を飛び、やや離れてVSSを手にしたアルマドラ・ナイト、そして2体のルドラ・ナイトがMP5SDを抱えて歩く。

 硬質な金属床の上だったが、3体とも驚くほど静かに滑らかに歩行していた。


 この建物は、アルマドラ・ナイトよりも大きい体躯の利用者を想定して設計されている。身の丈が20メートル近い存在でも狭く感じないだろう。


 先頭を行く小悪魔インプが、通路の途中で止まり壁を指さした。

 そこに窪みがあり、把手レバーが見えている。


 アルマドラ・ナイトが把手レバーを引き下ろすと、カチン・・と、小さな金属音が鳴って、横壁の一部が下から上へ持ち上がった。短い横道の先に、手摺りに囲まれた円い床が見えている。


 小悪魔インプに誘導されるまま、円形の床に乗り、手摺てすりに付いている赤く点滅するボタンを押し込んだ。



 ブウゥゥーー・・



 低い振動音が聞こえ、円形の床全体が明るく光を放った。

 アルマドラ・ナイトと2体のルドラ・ナイトを載せて、円形の床が下方へ垂直に降り始める。円筒状の縦穴をかなりの速度で移動し、すぐに停止をした。正面に開閉扉があり、小悪魔インプに促されるまま把手レバーの操作をして開ける。


 唐突に、何処とも知れない明るい日差しに満ちた場所に出た。

 広々として開けた空間には、森や湖があり緑豊かな平原があった。岩塊の内部に潜ったはずだったが・・。出た場所は、平原の中央に建っている円筒形の柱の中程だった。見えている地面までは200メートル程度。見上げる頭上には、青空が広がっている。


『ボス、あれ見て』


『格納庫っぽい』


 2体のルドラ・ナイトが左下方に見える箱型の建物を指さした。

 周囲には、似たような建物がいくつか点在し、少し離れた場所には長方形の水を溜めた池がある。


『池も怪しい』


『きっと秘密基地』


 2人が呟いている。


『使徒の姿が無いな』


『池の下じゃ。横の建物から地下へ入れる』


 小悪魔インプを操っているリールが会話に混ざる。


『では、手前の建物から調べよう』


 アルマドラ・ナイトが円筒形の柱を離れて地面へと飛び降りた。続いて、2体のルドラ・ナイトが降りてくる。


『これ、本当の土みたい』


『草も本物っぽい』


 ズシズシ・・と踏んで歩きながら、ユアとユナが操るルドラ・ナイトが地面を見回している。


 事実、幻影では無く、本当の土や草だった。遠くに見える森の木々も本物なのだろうか。あるいは、この辺りだけに本物の草木を植え、遠く見える部分は幻なのかもしれない。


 建物の正面側へ回り込むように移動すると、支柱を背にして甲冑人形がずらりと並んでいた。


『ふふん・・ルドラの方が美しい』


『完成度が違う』


 ルドラ・ナイトから2人の感想が聞こえてくる。


 確かに、建屋の中に並んでいるのは、やや横幅のある全体に丸みを帯びた甲冑人形だった。甲冑の色は、黄土色。その光沢の無い色は、美観はともかく実戦的に感じられる。


 ルドラ・ナイトはすらりとして姿の佳い騎士のようだが、ここに並んでいる甲冑人形は、筒状の胴体に、半球状の頭部、手足は四角い箱を繋ぎ合わせたような造りで、複雑な動きは難しそうだった。見たところ、指のような物は無く、手の先には筒状の武器らしき物が填め込まれている。


『う~ん・・バルカン?』


『ビームかも?』


 ユアとユナが意味不明の単語を呟いている。

 身の丈は、ルドラ・ナイトの方が頭一つ高い。横幅は、黄土色の甲冑人形の方が倍近くあるだろうか。

 この建屋に並んでいるだけで15体。

 当然、他にもあるのだろう。


『収納は・・』


 アルマドラ・ナイトの手に、ポイポイ・ステッキが現れた。ステッキの先が黄土色の甲冑人形に触れると、跡形も無く掻き消えた。


『・・できたな』


『どんどん収納』


『根こそぎ持って帰る』


『そうしよう』


 ムジェリへの良い手土産になるかもしれない。

 端から端まで、並んでいた黄土色の甲冑人形を全て収納すると、次の建物へ向かった。そちらにも似たような甲胄人形が並んでいた。


『大量でござる~』


『連隊が作れるでござる~』


 ユアとユナが御機嫌だ。


 実際は、動かし方はおろか、動くかどうかすら分からないのだが・・。


『主殿、次の建屋じゃ。地下へ通じる道がある』


 飛び回る小悪魔インプからリールの声が聞こえた。


『そうらしいな』


 アルマドラ・ナイトがVSSを構えた。建屋の中を物色していた2体のルドラ・ナイトも、大急ぎでMP5SDを構える。


『"ディガンドの爪"を・・』


『アイアイ』


『ラジャー』


 すかさず、巨大な"ディガンドの爪"が浮かび上がる。

 直後、向こう側の建屋から黄色い光が奔り伸び、"ディガンドの爪"の表面に当たって閃光を散らした。さらに、続けて光弾が連続して着弾する。


『速いが・・見えるか?』


『見えた!』


『見える!』


 ユアとユナが勇んだ声で答えて応射した。銃弾が壁を撃ち抜けずに跳ねるかと危惧したが、MP5から放たれた銃弾は易々と壁を貫通した。


 再び、建物の中から光弾が飛来したが、アルマドラ・ナイトもルドラ・ナイトも、ディガンドの爪で受けつつ応射する。


『見えた!』


『飛んだ!』


 無数に撃ち込まれる銃弾から逃れ、建物の天井部分を突き破りながら空中へ飛び上がったのは、すらりとした細身の真っ白な甲冑人形だった。

 方形の半透明な盾を左手に、右手には銃器らしき物を握っている。兜の庇の下には、女の顔を想わせる造形をした面頬が覗き見える。大きさは、ルドラ・ナイトと同程度だ。


『滅殺!』


『スクラップ!』


 ユアとユナのルドラ・ナイトが空中の白い甲冑人形を狙って銃撃するが、空中を身軽く飛翔する相手を捉えきれない。逆に、上空から光弾を撃ち込まれて"ディガンドの爪"を傘にして右へ左へ逃げ惑うことになった。


 白い甲冑人形が、手にした銃器だけでなく、脇腹の辺りからも小さな光弾を連射して狙って来る。


 その間、シュンのアルマドラ・ナイトは、白い甲冑人形が出て来た建屋に入って内部の確認をしていた。銃器や懸架台など、収納出来そうな物は全て収納してから、ドタバタと騒いでいるユアとユナのルドラ・ナイトを見る。


 一見すると劣勢で追い立てられているようだが、光弾は一発も当たっていない。ぎりぎりの所で勘良く回避している。


『当たらない!』


『なにかズルしてる!』


 ユアとユナのルドラ・ナイトが"ディガンドの爪"を使って光弾を受け流しながら、MP5SDで撃ち返している。


 弾数で圧倒しながら攻めきれない白い甲冑人形が、不意に向きを変え、長方形の溜め池の方へと移動し始めた。


『逃がさん!』


『許さん!』


 ユアとユナのルドラ・ナイトが、それぞれ手榴弾を放り投げた。閃光手榴弾と衝撃手榴弾である。


 光弾を撃ちながら、溜め池の上へ降り立とうとしていた白い甲冑人形の足元へ、2個の手榴弾が綺麗な弧を描いて落ちていく。


『どんどん投げろ』


 シュンのアルマドラ・ナイトから指示が飛ぶ。


『アイアイ』


『ラジャー』


 激しい爆発と閃光の中で、ルドラ・ナイトが、閃光手榴弾と衝撃手榴弾を握った。


『・・なんだ?』


 視界を埋め尽くした閃光の中を、巨大な何かが移動している。


『ロケット?』


『戦艦?』


 真っ赤な色をした流線型の物体が下から上へ、勢いよく飛び上がって行く。激しい熱気と突風が噴出し、周囲の施設の残骸と共に、アルマドラ・ナイトとルドラ・ナイトを襲った。


 咄嗟に、伸ばしたテンタクル・ウィップが、見えない何かに弾かれた。そう感じた直後、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を手にアルマドラ・ナイトが瞬間移動をして斬りかかった。


『・・なに?』


 わずかな手応えはあったが・・。

 シュンのアルマドラ・ナイトの前から、赤い飛翔体が掻き消えていた。ほぼ空振りをした"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を手に、アルマドラ・ナイトが周囲を見回す。


『消えた!』


『転移っぽい!』


 興奮声で、ユアとユナが騒いでいる。


『今のは・・船か?』


 "魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"の切っ先に感じたのは、金属というより石材を斬った手応えだった。油断したつもりは無かったが、どこかで気が緩んでいたのだろう。大型の獲物を取り逃がしてしまった。


 地面を見ると、長方形の溜め池があった辺り一帯が消えて無くなり、巨大な縦穴が覗いて見えている。


『地底基地~?』


『戦艦を隠してた』


 ユアとユナのルドラ・ナイトが、縦穴の縁に立って下を覗き込んだ。


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