第222話 宣戦布告?


「宣戦布告?」


 シュンは、マーブル主神を見た。


『そう、宣戦布告』


 マーブル主神が頷いた。


「数と位置は?」


『・・ああ、その前に、君・・ボクに報告する事があるんじゃない?』


「報告? 異界の移民船の事ですか?」


『移民船?』


「こちらの世界に、何億という数の・・頭を運んでいたそうです。魂の数をカーミュが数えたようですから・・大きな差違は無いと思います」


『異界の神めぇ・・やりたい放題だな』


「こちらへ侵入した船を1隻、向こうの世界で7隻破壊しました。他にも侵入しているとは思いますが・・」


 異変が起こる前提で、迷宮を中心にした防衛の準備を念入りに整えていたところだった。魔王種用の探知器は予定数の埋設を終え、巨大迷路シータエリアの外縁部から1キロメートルほど離れた位置に防塁を築いてある。


 "竜の巣"と"狐のお宿"が踏破した迷宮は、どちらも30階程度と、階層が浅かったため、罠を設置の上、最上階にはリールの合成獣キメラを放ってある。


『君の強さを知って、それでも戦いを挑んできたってことか。異界神・・合理的な判断をする感じだったし、それなりに根拠があるのかな?』


 マーブル主神が宙に漂いながら唸った。


「異界の神が宣戦布告を?」


『異界神が太陽神達と結託した。独立するんだってさ』


「独立?」


 マーブル主神が創造した世界で、独立とは・・? どこかの異界にでも旅立つのだろうか?


『地上世界を全部寄こせって言って来たよ』


 マーブル主神が嘆息した。


「・・主神様の世界を?」


 正気とは思えない話だった。シュンの眉間にしわが寄った。


『うん』


「アルマドラ・ナイトの封印を解いて下さい」


『解除手段は与えるけど・・使うと世界が滅ぶから、ようく考えてね?』


「・・時と場所は選びます」


 シュンは頷いた。


『そうしてよ。本当の・・最後の手段にして』


「約束します」


『今回の争乱はボクの責任が大きい。仮に・・もしもだよ? 君が世界を滅ぼしちゃっても恨みはしない。それは約束する。でもね・・それでも、ボクはこの世界が好きなんだ。消滅させたく無いんだよ』


 マーブル主神が俯きがちに呟いた。


「大丈夫です」


 シュンにしても、世界を滅ぼして迷宮を失うことは避けたい。アルマドラ・ナイトの封印解除は、他に手が無くなった場合の最終手段だ。


『さっきも言ったけど・・向こうは、相応の対抗手段を手に入れたと思う。異界神は知らないけど、太陽神は勝てない喧嘩をやる奴じゃ無い』


「そうでしょう。喧嘩は、勝てる算段がついた側から仕掛けるものですからね」


 シュンは大きく頷いた。


『う・・うん、まあね。ああ、そういう意味では、朗報が1つある』


「朗報が?」


『風の女神が、こちらの陣営についてくれる事になった』


「風の・・」


『ずうっと昔から中立だった女神だ。さすがに、今回の異界神の動きは腹に据えかねたらしい』


「なるほど・・ところで、輪廻の女神様はどちらに?」


 シュンとしては、よく分からない風の女神より、強力な戦力だと確認ができている輪廻の女神の方が重要だ。


『闇ちゃんは、凶神を追って行ったままなんだよ。未だに連絡がつかないんだ。ちょっと、ややこしい空間に入り込んじゃってるみたいでさ』


 マーブル主神が唸った。


「アルマドラ・ナイトの封印を解除した状態で、どのくらい活動できるでしょう?」


 シュンは訊ねた。脈絡も何も無い、いきなりの質問である。


『へっ? なんで、いきなり? 使う前提なの?』


 マーブル主神が怯えた顔を見せる。


「いいえ。ただ、万が一にも使わざるを得ない状況に追い込まれた時、どの程度なら安全に使用できるのか・・それを把握しておきたいのです。こればかりは、試しただけでも問題が起こりそうですので」


『確実な事はボクにも分からないよ。ただ・・5分を超えない範囲だろうね。安全を見て、3分以内かなぁ』


 マーブル主神が首を傾げた。


「3分ですか・・ちなみに、その後、通常の活動に支障が出ますか?」


 いちいちラグカル病になって寝込むようでは、使い物にならないのだが・・。


『君の回復力なら問題無いでしょ。まあ・・何十秒か、動けなかったりするかも? でも、1分も経たずに元通りだと思うよ』


「・・ありがとうございます。そういう事であれば、数の不利を補えると思います」


 シュンはほっと息をついた。


『えっ? いやいやいやいや、使う前提だよね? 使うつもりになってるよね? なんで、事後の心配とかしちゃってんの?』


 マーブル主神が、恐怖に顔を歪めてシュンに詰め寄る。


「瞬間的に解除、そして送還をすれば問題無いのでしょう?」


『・・まあ、理屈の上ではね? でも、本当に何が起こるか分からないからね? 世界が割れちゃったり、時空が歪んじゃったり・・太陽が消し飛んでも驚かないよ?』


「逆に、期待したほどの破壊力では無い可能性だってありますよね?」


 一番困るのは、身体の変調を覚悟して封印解除をしたものの、期待した成果を得られない事だ。


『それは無い! 君の・・普通のアルマドラ・ナイトだって、ヤバいでしょ? ぶっちゃけ、おかしいよね? アルマドラ・ナイトの大きさに合わせて、"魔神殺し"まで巨大化しちゃってるし・・他の神は、アルマドラ・ナイトの事ばっかり言ってるけど、本当にヤバいのは"魔神殺し"とテンタクル・ウィップだからね? いや違った! 君がヤバい! それを使えちゃう、君が一番ヤバい!』


 マーブル主神が、シュンの顔を指さして断定した。


「ところで、独立ということでしたが・・どのような勢力分布図になるのでしょう? 私が把握した迷宮の位置とのすり合わせを行いたいのですが、そういった情報は頂けますか?」


『・・本当に、ヤバいよね?』


「私がですか?」


 シュンは驚いた表情でマーブル主神を見た。


『・・いいけどさ。もう、こうなったら、じゃんじゃん情報を出しちゃうよ。味方になってくれた神様の情報も必要でしょ? 共闘するんだし・・』


「無いよりはあった方が良いですね」


 シュンの反応が薄い。


『あれ? 無くても良いの?』


「私が知りたいのは、敵の位置です」


『味方の位置は?』


「後から、そこに味方が居たのかと分かる程度で結構です」


『・・ちょっと待って? 何なの? 君、まさか味方まで消し飛ばすつもり?』


 マーブル主神の顔が不安で曇る。


「ああ・・それは違います」


 シュンは首を振った。


『何が違うの?』


「敵か味方か・・それは、その時々によって違うでしょう?」


『どういう意味?』


「こちら側が優勢なら、味方は増えるでしょうし、劣勢なら味方は減るでしょう? 結果として戦いが終わった時に結論が出ると思います」


 誰が味方で、誰が敵なのか、考えるだけ無駄なのだ。


『あのねぇ、そんな事を言っていたら、せっかく味方だと言ってくれている神々まで造反しちゃうよ? そりゃあ、数は少ないけども・・ボクに味方するって言ってくれるんだから、大事にしなくちゃ駄目でしょ?』


「しかし、今、この瞬間にも向こう側についているかも知れませんよ?」


『・・なんで?』


「太陽神は慎重なのでしょう? 一柱でも多く味方にしようとして、当初から画策を続けているのではありませんか?」


『・・うぅ、そうかも。いやっ・・違う! こんな時だからこそ、信じなきゃ! 疑っていたら、きりが無いよ!』


 マーブル主神が声を張り上げた。


「そうですね。ちなみに、現状で敵側になっている神々は何柱で、所在は何処になるのでしょう?」


『ああ、それは・・すぐに記録した物を送るよ。ポイポイに放り込んでおくから戻ったら確認してね』


「ありがとうございます。ちなみに、夢幻の女神についてですが・・」


 シュンは次の話題に移行した。


『えっ? ああ、忘れてた。魂石?』


「これを、アルマドラ・ナイトの強化に使えませんか?」


『ぉぉぉ・・』


 マーブル主神が妙な声を漏らした。


「妙な事に、中から出てきた別のものを斃した際に別の魂石を落としました。この2つを使えば、かなりの強化ができると思うのです」


『ええと・・前にも言ったけど、膂力と防御力とか・・その辺の強化だけだよ? ルドラ・ナイトだっけ? 甲冑人形の数は増えるけど』


「広域で戦いが起きるなら、ルドラ・ナイトを増やす必要があります。あれがあれば、私のレギオンの人間なら、龍人や神々とも互角以上に戦えますから」


『ふむ・・まあ、君の当然の権利だし、あの女神はボクもよく知らないから良いかも・・いや、待てよ? あの女神、夢幻回廊を生み出せるんだったよね?』


「はい」


『ふうむ・・やっぱり、強化に使うのは1つだけにして、女神の魂石は保管しておいてよ』


「何か使い道が?」


『あるかもしれない・・まあ、使い道が無ければ、後で強化に使えば良いでしょ?』


「・・なるほど」


 マーブル主神の提案にシュンは頷いた。


「次の案件ですが・・」


『まだあるの?』


 マーブル主神が嘆息した。元々は、マーブル主神がシュンを呼び出したのだが・・。


「こちらの世界と異界を往き来する手段はありませんか? できれば安全に、大々的に」


『異界か・・本来なら揉め事の種になるから駄目なんだけど、宣戦布告して来てるし・・』


「可能なのですね?」


 シュンの問いかけに、マーブル主神が頷いて見せる。


『可能だね。ボクが前に創った玩具を貸してあげるよ。君の悪霊君がやったように、空間に穴を開けて固着させる事ができる。昔、あっちの世界に遊びに行った事があるんだ。紫色の太陽が2つあったでしょ?』


「ありました」


『・・もしかして、あっちに攻め込むの? 移民船はもう墜としたんでしょ?』


 マーブル主神が訊ねた。


「向こうで使徒から攻撃を受けました。位置を特定できましたので討伐に向かおうと思います」


『おぉ・・異界神の使徒? ってことは、向こうの神界かい?』


「神界というより、空に浮かぶ島のような場所ですね」


 リールの小悪魔インプが、使徒を追跡して突き止めたのだ。追跡に気付かれているかどうかは五分五分だと、リールが言っていたが・・。空振りでも構わない。敵として戦う事になる相手なのだ。試しに一当てやっておくべきだろう。


『あれ? 異界神は、まだこっちに来て居ないのかな? 宣戦布告をしておいて、のんびりしてるね』


 マーブル主神が首を捻った。


「あるいは使徒だけ残しているのかもしれません」


『ふむ。まあ、どうせ滅びる世界でしょ? 好きにやったら良いよ』


「そのつもりです」


 シュンは頷いた。


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