第187話 永遠の友情


「さあ、ムーちゃん!」


「これが、ビクトリーロード生成器であるぞ!」


 ユアとユナが、マーブル神から泣き落としで強請ねだった神具を誇らしげに掲げて見せた。

「本当ね? 凄いね!」


「さすが聖女ね!」


「教皇ね!」


 職人ムジェリが興奮して体の色を変え、ぶるぶると全身を震わせながらユアとユナを取り囲んだ。


「さあ、取り付けるが良い! 至高の職人達よ!」


「見事成功すれば、褒美は思いのままであ~る!」


 調子に乗った2人が椅子に登って、何もない彼方かなたを指さして言った。


「神の箱ね!」


「どうやったね!」


「よく貰えたね!」


 職人ムジェリ達が手を繋ぎ合って体を波打たせる。


「凄いね!」


「もう跳ぶね!」


「走るね!」


 興奮したムジェリ達がそこら中で弾み始めた。


「・・リール?」


 シュンは背中に気配を感じて振り返った。顔を引きらせた女悪魔が、身を縮めるようにしてシュンの背に隠れようとしている。


「まだ苦手か?」


「い、いや・・慣れようとはしておるのじゃ」


 リールが強張った笑みを浮かべる。


「ユアとユナが無理をさせた礼を払おう」


 シュンは、身を揉んで弾んでいるムジェリ達の前に、龍人の死骸を出した。


「龍ね!」


「凄いの出たね!」


 半狂乱になって騒ぐムジェリ達の前に、さらに追加で龍人の死骸が並べられていった。その数68・・いや、69体。

 最後に、ポイポイ・ステッキから出て来たのは、真っ白な鱗をした個体だった。


「これなんね! 一刺しね!」


「斬首ね!」


「首にしか傷が無いね!」


 ムジェリ達が押し寄せて騒ぎ立てる。どの龍人も首を落とされるか、胸を貫かれるか・・傷口が一つしか無い。


「対価として足りるか?」


 シュンは押し寄せて来たムジェリ達を見回した。


「もちろんね!」


「多すぎるね!」


「でも、全部欲しいね!」


「全部くれるね?」


「欲しいね!」


「欲しいね!」


 職人ムジェリに、商工ムジェリ、黒服ムジェリまで混ざって飛び跳ねる。


 シュンは、商工ムジェリに向けて拳を突き出した。


「すべて渡そう。苦労をかけた対価のつもりだ」


「問題ないね!」


 商工ムジェリのひんやりとした手がシュンの拳に触れる。回りから、職人ムジェリの手が伸び、黒服ムジェリの手も伸びた。


「ムジェリの友ね!」


「永遠の友ね!」


 興奮で体を震わせながらシュンめがけてムジェリが押し寄せ、競うようにシュンの拳に手を触れる。


「龍人の鱗と骨、筋があるね! もう完成するね!」


「任せるね! 全ムジェリが集まるね!」


「宴会ね! 前夜祭ね!」


 凶乱状態のムジェリが集まって騒ぐ中、リールが震えながらシュンの背中を掴んでいる。


「大丈夫だ。ムジェリは優しい」


 シュンは苦笑しながら、リールに声をかけた。


「う、うむ・・それは分かっておるのじゃ。ただ、どうも・・」


 リールが申し訳なさそうに俯いている。


「ボス、始まりの村に行く」


「ボスに助けて貰った村」


 ユアとユナが、ムジェリの波を掻き分けるようにして近付いて来た。


「迷宮に入る前の?」


「村から離れた所に施設を造った」


「旅立ちの施設」


 2人が何やら企んだ顔で笑って見せる。


「・・飛ぶのか?」


「走る」


「走る」


 ユアとユナがその場で駆け足の仕草をする。


「走るのか?」


 迷宮入口の村は、当然、アルファエリア、ベータエリア、シータエリアの内側だ。飛んで超えようにも、上空はマリンが水霊糸を張り巡らせたガンマエリアである。大型の乗り物は通り抜けができないが・・。


「出発の時は、マリンちゃんに糸を消してもらう」


「別の方法でも良いかも」


「まあ、任せる」


 つまり、巨大迷路の上を飛び越えて出発するわけだ。空を飛んでいく事になりそうだが、2人はあくまでも"走る"と言い張っている。まさか、地下を走って行くのだろうか?


「前祝いね!」


「明日は出発ね!」


「今夜中に仕上げるね!」


 ムジェリが差し伸ばした手に、ユアとユナが軽快に拳を合わせる。


「ムーちゃん、頼んだよ!」


「ボスにお披露目だよ!」


 2人とムジェリが拳を合わせる。


「任せるね!」


「ムジェリを信じるね!」


「聖女の依頼を忠実に再現したね!」


「ご依頼の謎機能が満載ね!」


「龍人素材と神具で解決したね!」


 職人ムジェリ達が、龍人の死骸に群がりながら応える。すでに、69体の龍人がテキパキと解体され部位ごとに容器へ入れられていた。


「リールさん、大丈夫ですか?」


 サヤリが腰が抜けたようになっているリールに肩を貸して立たせている。


「すまぬ。正直、大丈夫ではない。マージャが・・こんな数のマージャを見て、よく平気でおるな」


 リールが恨めしげに呻く。


「すぐに慣れますよ」


 サヤリが穏やかに微笑した。


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