第177話 混戦
「ジータレイド、迷路入口の守りを!」
「承知しました」
シュンの指示に、ジータレイドが頷いて、ルクーネ、アリウス両騎士を連れて迷路入口まで後退していった。
「サヤリ、
「畏まりました」
「リール、地上と地下から来る奴らを一匹も通すな!」
「承知じゃ」
リールが双眸を紅く
アレク率いる"竜の巣"は、巨大ヤスデの大群を相手に高火力での殲滅戦を展開している。そこへ、15メートル近い大きさの鳥竜が次々にわき出て襲いかかり、ヤスデを足の爪で捕らえて喰い散らかし始めた。
それでも、巨大ヤスデの大群は強引に押し寄せて来ている。
「ケイナ」
シュンは、"護耳の神珠"に指を当てて"ガジェット・マイスター"のケイナに声をかけた。
『はい・・トラブル?』
「迷路外で防衛中だ。長期戦になる。迷路の入口に陣地を構築してくれ」
『分かったわ! すぐに行きます!』
ケイナの勇んだ声が返る。
その時、遙か上空で派手派手しい炸裂音が響いた。咄嗟に振り仰いだ空を、紅蓮の火炎帯が奔り抜けていた。
ユアとユナは火炎系の魔法を使わない。
状況を見極めようと眼を凝らした先で、小さな槍状の炎が無数に飛び交い、細かく炸裂して爆発音を鳴らして。
シュンは広く空を見回し、さらにヤスデの大群が迫る前面、後方に下がったサヤリや
「主殿、迷宮を挟んだ背面側にも、結構な数が来ておる」
「・・あちらに出入り口は無いが」
シュンは少し考えてから、再び"護耳の神珠"に指を触れた。
「アオイ」
『アオイです』
即座に返事が返る。
「迷路の外に、魔王種らしい大群が来ている。迷宮内はどうだ?」
『異変はありません』
「よし、マリンの糸結界を解く。
『承知しました。"一番隊" "二番隊"で処理に当たります』
「無理は必要無い。長期戦のつもりで手堅く頼む」
『了解』
「リール、上もか?」
シュンは女悪魔に訊いた。円形をしたシータエリアに表も裏も無いが、迷路入口が切ってある側を表とするなら、反対側が裏側になる。魔王種は、両面から押し寄せているようだった。
当然、地中や空中からも迫っていると考えるべきだろう。
「まだ感知できる範囲には来ておらぬようじゃ」
リールが首を振った。
「カリナ!」
「はっ」
「迷宮へ戻って、各階への転移を警戒しろ」
「承知しました!」
鋭く返事をして、
シュンはリールに後を任せ、黒翼を広げつつ空へと舞い上がった。
白銀光が高空で明滅し、甲高い叫びが響き渡った。シュンが上昇していく横を、頭部が無くなった巨大な
抉られて体の部位が消失した様からすると、双子のハウリングを浴びたのだろう。
散発的に小爆発が起こっている雲の中から、ユアとユナが飛び出して来た。身体の表面を淡い黄金光に包んでいる。
「ボス、大きな
「
2人が口々に何やら言いながらシュンの左右をすれ違うと、
「急速上昇っ!」
「エネミー接近っ!」
声を残して凄まじい速度で上昇して消える。
直後に、雲を引き裂くようにして、黒い巨大な
しかし、次の瞬間には、大きな鎌のような前脚が切断され、三角の頭部が接合部から刎ね斬られていた。
黒翼を生やしたジェルミーが、堕ちていく巨大
「ジェルミー、2人の援護に行け」
シュンの命令に、ジェルミーが小さく頷いて遥か上方にいる双子めがけて飛翔した。
シュンは後を追わず、VSSを構えると、雲めがけて引き金を絞った。銃弾が鉛色の雲中へ吸い込まれ、硬い命中音が響くと、先ほどの
今度は、
通常の
シュンは、胸の辺りへVSSの銃弾を撃ち込んだ。
体の表面近くで透明な膜らしいものに銃弾が当たったようだが、そのまま貫通して繊毛に覆われた胸から腹部にかけて小さく穿孔が爆ぜる。
ムジェリの防御力無効アタッチは、きちんと効果を発揮している。
「テンタクル・ウィップ」
シュンは、左手を振って黒い触手を伸ばした。
霞むように消えかかった
テンタクル・ウィップも通常通りの効果だ。障壁らしい透明な膜は問題無く引き裂いている。巨大な
「ん?・・魔法か?」
何かが周囲から迫った気はしたが、シュンに届く前に霧散したようだった。
『精神恐慌の術なのです』
カーミュの声が聞こえる。
「精神恐慌?」
『そんなのご主人に効くはずが無いのです』
くすくすと笑う声がする。
「そうか。さて・・」
シュンは"
『形代を準備してるです』
「形代?」
シュンは"
寸前で、巨
『く・・貴様は・・何者だ?』
どこからともなく声が聞こえる。
脱け出たものが姿を消しているのだろう。少し時間をかければシュンでも捉えられそうだが・・。
「マリン、捕まえろ」
『はい~』
声と共に、真白い精霊獣が現れて尾を団扇のように膨らませながら宙を駆ける。
たちまち、無数の水霊糸が張り巡らされて辺りを包んでいく。
『まさか、精霊召喚まで・・』
低く唸る声と共に、やや上方で青白い色をした蛆のような生き物が糸に巻かれた状態で姿を現した。2メートル近い長さの
シュンは、"
『ご主人、また脱け出るです』
「・・なに?」
カーミュの声が聞こえると同時に、シュンの眼の前で大きな
テンタクル・ウィップが襲い、マリンの水霊糸が包むが、ぎりぎりのところで逃してしまったようだ。
『ごしゅじん、きえたぁ~』
不満そうに言いながら、マリンが右往左往して駆け回る。
『ご主人がエスクードに戻る時の転移とそっくりなのです』
白い美少年が姿を現した。
「リターンか。
シュンは軽く顔をしかめたまま小さく息をついた。
『ボッス~、応答せよ~』
『何か出たぁ~』
高空で空中戦をやっていた2人から連絡が入った。
「また虫か?」
シュンはやや硬い表情で訊ねた。
『・・うわわ!』
『ちょ・・ちょと、ヘルプ!』
ユアとユナの声に余裕が無い。
シュンは"
『青と赤!』
『緑もいる!』
急上昇するシュンが眼を凝らした先で、2人が鋭角に向きを変え、回避行動をとっている。
追って襲っているのは、龍人だった。
2人が言っているように色違いの3体だ。緑の個体をジェルミーが受け持って斬り結んでいた。ユアとユナを追っているのは青色と赤色だ。
「召喚、アルマドラ・ナイト」
シュンに喚ばれて漆黒の巨甲胄が姿を現した。
「赤い方をやれ」
そう命じながら、シュンは青い龍人めがけて一直線に向かって行った。
「ユア、ユナ、青いやつからやる」
『アイアイ』
『ラジャー』
2人が目まぐるしく移動し、龍人の吐く火炎を回避し、赤鱗の龍人の剣をくぐり、青鱗の龍人の槍を避ける。
「こっちだ!」
シュンは、青い龍人めがけて呪怨の黒羽根を投げ打った。
赤鱗の龍人めがけてアルマドラ・ナイトが斬りかかった。力任せに打ち払おうとする赤鱗の龍人の剣を、騎士楯で抑え込み、アルマドラ・ナイトが押して出る。
ガアァッ・・
短い苦鳴が空気を震わせた。見ると、ジェルミーが相手をしている緑鱗の龍人が曲刀を握った腕を切断されて仰け反っていた。さらに、ジェルミーが前に出るなり、袈裟斬りにし、逃れようとする龍人を追って横薙ぎに刀を振り抜いている。
シュンは、迫ってくる青鱗の龍人と真っ向から斬り結んだ。龍人が突き出そうとする槍より、シュンの"
青鱗の龍人が口から水槍を放った。
しかし、煩げに払ったシュンの左手によって掻き消える。逆に、シュンのテンタクル・ウィップが青鱗の龍人の手足に、胴体に、首に巻き付いて拘束してしまった。
「まず、1匹」
シュンは"
=====
10月20日、表現修正
袈裟に斬りつけ → 袈裟斬りにし、
10月20日、誤記修正
ムジェリのダメージ無効アタッチ(誤)ー 防御力無効アタッチ(正)
2回り → 二回り
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