第178話 龍人戦

「2匹・・」


 赤鱗の龍人の首を斬り落としたシュンが、残った緑鱗の龍人を見る。

 緑鱗の龍人は、死んでこそいないものの、ジェルミーを相手に武器を握る腕を斬られ、胸を突かれ、毒息を吐こうとすれば顎を打ち上げられ・・動きを封じられている。

 同胞が討たれたことに気付き、身を翻して逃走を図ろうとするが、退路に張り巡らされていた粘着性の水霊糸の網に突っ込んだ形で動けなくなった。


 すかさず、黒い触手が緑鱗の龍人を捉える。


「人の言葉を話せるか?」


 シュンは声をかけながら、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を龍人の背へ突き入れた。



 ガァァッ・・



 体の前面を水霊糸の網に着けたまま、龍人が苦鳴をあげた。


「なぜ来た? 龍人は地上界の争いに干渉するのか? 魔王種に味方するつもりか?」


 背から胸へ突き出た"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"がじりじりと胴体を斬り裂いて下へと降りていく。



 グァッ・・ガアァァ・・



 何とか反撃をしようと振り回す龍人の尾をジェルミーが抜き打ちに切り飛ばした。



 ギィアァッ・・



 苦鳴をあげる龍人の首に、テンタクル・ウィップが巻き付き、締め上げていく。


「白い奴は何処に居る?」


 訊ねるシュンの右手で、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"の表面に赤い筋が血管のように浮かび上がって淡く明滅を始めている。同時に、黒い触手の表面に無数の裂け目が開いて龍人の体を喰い始めた。小さな咀嚼音が方々で鳴り響き、龍人が苦鳴をあげて暴れる。



 ギィッ・・ギィアァッ・・



 緑鱗の龍人は、必死の動きで何とか体を動かそうとするばかりで言葉を発することは出来なかった。


「龍人はしゃべれないのか?」


 死骸をポイポイ・ステッキで収納し、シュンは首を傾げた。


 これで3匹目だ。


「ユアは見た。龍さんが泣いていた」


「ユナも見た。龍さんが怯えていた」


 大空の支配者達が近くへ舞い降りてきた。


アリはどうした?」


 シュンは"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"とテンタクル・ウィップを収納しながら空を見回した。2人は高空でアリと遭遇戦をやっていたはずだ。蟷螂カマキリの化物は見たが・・。


「ハウリングで消えた」


「粉々になった」


 ユアとユナが胸を張る。自慢のハウリングで消滅させたらしい。


蟷螂カマキリのような魔物はいきなり来たのか?」


 雲から次々に襲ってきたが・・。


「う~ん、転移っぽい何か?」


「雲が転移の門っぽい?」


 ユアとユナが腕組みをして首を傾げる。


「雲が? そうなのか?」


 シュンは先ほどの雲を探して視線を巡らせたが、どこにも見当たらなかった。


「虫は兵隊」


「術者っぽいのが居た」


 2人が言うには、虫の羽根を生やした四本腕の怪人が空の上に居たらしい。


「斃したか?」


「もうちょっとのところで逃げられた」


「首から上がにょろっと外れて転移した」


「赤子のような姿だったか?」


「サザエみたいだった」


「殻から出したやつ」


「・・サザエ?」


 シュンの知らない名称だ。


「ぐちゅぐちゅ」


「にょろろん」


 ユアとユナが手帳を開いて手早く絵を描いた。


「・・なるほど」


 サザエというのは、巻き貝の一種らしい。俗にと喚ばれている部分に、小さな棘状の突起が無数に生えていた。


「魔王種というのは、迷宮の魔物とは作りが違う感じがするな」


「マーブルの趣味じゃないね」


「マーブルよりセンス悪いね」


 2人が断定する。


「そうだな・・防御魔法をかけ直せ」


 シュンは斜め上方を見上げて指示した。

 なぜとも訊かず、即座に反応してユアとユナが防御魔法とHP継続回復の魔法を重ね掛けしていく。


「黒・・だな」


 シュンの双眸が、高空から降りてくる黒い鱗の龍人を捉えていた。


「サヤリ、そちらはどうだ?」


 接触までわずかに間がある。シュンは地上のサヤリに連絡を取った。


『"竜の巣"が圧倒しています。回り込んで来る虫もリールが仕留めていますので問題ありません』


「空に龍人が来ていた。3匹斃したが・・追加が来た。そちらへの余波に気を配っていてくれ」


『畏まりました。地上の皆に伝えます』


 サヤリと連絡を取っている間にも、黒鱗の龍人はぐんぐんと高度を下げて近付いて来ている。


 シュンは右手に"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を、左手に楯を握って迎えるように高度を上げて行く。左右を、アルマドラ・ナイト、そしてジェルミーが護る。ユアとユナはやや後方を追随する。


「アルマドラ・ナイトは左、ジェルミーは右、俺は中央だ。カーミュとマリンは背後を固めて逃がすな」


『はいです』


『はいです~』


 白翼の美少年と白毛の精霊獣が姿を現す。


「ユア、ユナ、回復は任せる」


「ナイトを着ないの?」


「そのままやるの?」


「追加で白い奴が来る可能性がある。温存だ」


「アイアイ」


「ラジャー」


 ユアとユナが納得顔で敬礼した。



 クアァァァーーーーー・・



 距離500メートルで、黒鱗の龍人がいきなり口から火炎を噴射した。凄まじい業火の噴射を、アルマドラ・ナイトとジェルミーが左右へ回避する。

 シュンは構わずに突っ込んだ。

 肌が焼け、視界が歪むが、即座に治癒魔法がかけられて回復する。

 炎を突き破って現れたシュンを、黒龍人の大剣が襲った。シュンが、溶解しかけた楯で受け流し、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"で斬りつける。


 続けて攻撃をしようとする黒龍人の左からアルマドラ・ナイトの大剣が突き込まれた。危うく身を捻った黒龍人の右からジェルミーの一刀が振り抜かれる。



 ギィィィーーーン・・



 黒龍人の肘の辺りから棘状の突起が伸びて、ジェルミーの細身の刀を受け止めていた。黒光りする突起の中程まで食い込んだ刀を抜こうとするジェルミーめがけ、黒龍人の尾が襲う。

 そこへ、シュンが真っ向から"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"で斬り込んだ。



 クアァァァァーーーー・・



 黒龍人がシュンへ顔を向け、至近距離から業火を噴射した。構わず、シュンが"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を振り下ろす。

 ほぼ同時に、アルマドラ・ナイトの大剣が黒龍人の脇から突き入れられた。しかし、硬い黒鱗に切っ先を滑らされ、浅く肉を抉りながら背側へ流された。それでも衝撃で黒龍人が姿勢を乱す。


 炎に包まれたシュンをユアとユナの魔法が癒やす。

 シュンの振り下ろした"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"が黒龍人の肩口から胸の中程まで深々と斬り割っていた。


 黒龍人が肩口を斬られながらも、牙の並んだ大口を開けてシュンに食い付こうとする。しかし、黒龍人の側頭部を、ジェルミーの一撃が大きく弾いた。よほど骨が硬いのか、浅く斬り割っただけで、頭蓋は断てなかったらしい。

 傾いだ頭を軽く振って上体を起こそうとする黒龍人の手足にテンタクル・ウィップが巻きついた。


 シュンが"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を引き抜いて再び振りかぶる。

 瞬間、黒龍人の全身から不可視の暴風が噴出し、シュンがジェルミーが、そしてアルマドラ・ナイトが噴き飛ばされていた。後ろで、ユアとユナまでが跳ね飛ばされている。

 しかし、テンタクル・ウィップを巻き付けていたシュンだけは10メートルほどの位置で姿勢を立て直していた。


 黒龍人がシュンに襲いかかった。

 テンタクル・ウィップが手足に巻き付いているにも関わらず、わずかに動きを制限された程度で大剣を手に突進してくる。


「・・金剛力」


 シュンは溶解した楯を捨て、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を両手で握った。


 互いに、真っ向から大剣を振り下ろす。

 空中で互いの大剣がわずかに交錯し、金属音が秘やかに鳴る。

 直後、シュンの"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"が黒鱗の龍人の頭頂から股間まで真っ二つに斬り割っていた。龍人の大剣は側方へ弾かれ、握る手首が真横へ折れ曲がっている。


「4匹目」


 呟いたシュンが、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を横殴りに振り抜き、黒龍人の首をね斬った。






=====

10月21日、誤記修正。

ウィップが巻いた(誤)ー ウィップが巻きついた(正)


10月22日、誤記修正。

体の全面を(誤)ー 体の前面を(正)

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