第169話 空の迷宮
迷宮が発見された。
発見したのは、探索に出ていた
「空中に迷宮か・・」
地上ばかりを探していると見つけられなかっただろう。
「入口らしい施設があり、翼のある魔物が飛び立って向かってきたそうです」
報告したのは、ロシータである。
「交戦したのか?」
「
「どういった魔物だった?」
「こういう魔物・・とのことです」
ロシータが少し笑みを浮かべて、手に持っていた紙をシュンへ差し出した。
「・・ほう」
紙には、虫のような羽根を持った怪人が描かれていた。
「
シュンは、生々しく微細に描かれた魔物の姿を見て呟いた。左右3本ずつ、6本の長く細い腕は、人の腕より関節が多く6節あった。指は3本。
長い鉤爪と、顎牙、そして風と音の魔法を使って攻撃を仕掛けてきたそうだ。
「しかし・・これは、見事な絵だ」
「はい。これを・・」
ロシータが別の絵を差し出した。雲間に浮かぶ岩山が描かれている絵だった。ゴツゴツした岩塊の上に、綺麗な円錐形の構造物が生えている。
「ルクーネだったか?」
シュンは絵を見つめた。
「はい。落ち着いた性格の人物で、他の騎士から信頼を寄せられている様子でした」
「
シュンは小さく頷いて、部屋の戸口へ目を向けた。
扉が開いて、ユアとユナが入って来た。このところ、ムジェリの里に入り浸っていて、エスクードのホームと忙しく往き来している。
言うまでも無く、例の浮動する石板を使った乗り物造りをやっているのだ。以前に頼んでいた他の品も、そろそろ仕上がりそうだと商工ムジェリが言っていた。
「ボス、まだ完成までかかりそう」
「ムーちゃんの意地と根性が白熱」
ユアとユナが満足げに報告する。
「空の上で迷宮が見つかった。制圧に向かう」
シュンは
「まさか、天空のラ・・」
「ユアっ、迷宮よ!」
ユナが飛びつくようにしてユアの口を塞ぐ。
「ロシータ、"ネームド"に同行する
「3名だけで宜しいのですか?」
ロシータが訊ねる。未知の迷宮内で殲滅戦をやるには、いくらなんでも少なすぎる人数だが・・。
「問題無い」
「・・人選は?」
「ロシータが決めてくれ。同行の
「承知しました」
ロシータが低頭して小走りに退出していった。
「あちらの迷宮内で、ここと同じように魔法が使えるとは限らない。与えられた神具の使用についても障害が発生する可能性がある」
薬品類の効果についても過信せずに、種類ごとに効果を確かめておいた方が良いだろう。
「ふふふ・・ついに我が出刃包丁が活躍する時が来た!」
「我が柳刃包丁は血に飢えている!」
ユアとユナが包丁を取り出した。
「それも、神具の一種だろう?」
シュンが指摘する。双子の包丁は、銃器と同じく、神から与えられた品だ。
「・・ぅ」
「・・ぅ」
2人が軽く目を見張ってシュンの顔を見つめ、そっと包丁を収納した。
「いくら別の神の領域であっても、完全に無効化される事はないと思うが・・銃の方が無難かもしれないな」
「魔王種は迷宮にいるのでしょうか?」
ユキシラが訊ねた。
「さあな・・こちらは、魔王種が迷宮に入っている前提で行動するしかない。ただ、ゆっくり時間をかけて迷宮内を捜索するわけにはいかない」
シュンはポイポイ・ステッキの収納物に目を通しつつ、リストに指を触れた。
途端、空中に黒々とした棒が2本現れた。
「
シュンは、2本の
「ボス、ありがとう!」
「ボスの愛!」
ユアとユナが目を輝かせて黒い棍棒を受け取る。紡錘形の頭部が付いていて、2人の手にも、ズシリと重たく感じるほどの重量だった。
「あくまで予備武器だ。神具が問題無いようなら、銃や包丁を使え」
「アイアイ」
「ラジャー」
ユアとユナが黒い
『シュン様』
ロシータの声が"護耳の神珠"から聞こえて来た。
『
「よし・・」
シュンは頷いた。
「半日とかからずに戻るつもりだ。今回は、向こうの神か管理人との対話が目的だからな」
『伝えます』
「リールはどこだ?」
シュンはユキシラを見た。
「100階で
シュンのアルマドラ・ナイトに蒸発させられて手駒の
シュンは"護耳の神珠"に指を触れた。
「リール、戻れ。出るぞ」
『・・主殿、外に何か来たかの?』
「空に迷宮だ」
『ほほう・・』
面白げに笑う声がして、すぐにシュンの傍らに女悪魔が湧いて出た。神様から与えられた召喚獣とは別物で、シュンが独自に召喚した存在という扱いになっているらしく、どこに居ても、命じれば即座にシュンの元へ現れる。
「面白そうな話じゃな」
「とりあえず、魔王種が居るかどうかの確認に行く」
シュンは"ネームド"の戦闘服に換装した。それを合図に、ユア、ユナ、サヤリも戦闘服姿になる。
「どうやるのじゃ? 1階から虱潰しに攻略するのかの?」
「まずは、管理人を呼び出して、魔王種の有無を訊ねる」
「ふむ・・素直に答えるかの?」
リールが小さく首を傾げた。
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