第170話 迷宮討伐
結論から言うと、空に浮かぶ迷宮からは、虫のような魔物しか出て来なかった。
シュン達、"ネームド"は迷宮入口にて、自作の"拡声器"で呼び掛けを行った。それから、迷宮内に踏み込んで呼び掛けた。
神が居るなら神が、それでなくても管理人が何らかの対処をしてくるだろうと予想しての侵入行為だった。
しかし、"
"ネームド"はしばらくの間、様々な種類の魔物を斃し、ドロップ品らしきものを収拾したり、解体をして部位を手に入れたりしたが、いつまで経っても管理人らしい存在は姿を現さず、似たような虫人間ばかりが襲ってくる。
約1時間後、"ネームド"は迷宮を出た。
離れた空域で、天馬騎士が見守る中、迷宮入口付近めがけユアとユナが光砲弾を撃ち込んでいたようだが、すぐに飽きたらしく、ユキシラ、リールと一緒に
「退避ぃ~~」
「ボスが出るぞぉ~」
何やら楽しげに騒ぎながら、ユアとユナが
ボスが出る。退避。そして、距離を取る・・これだけで次に何が起こるのか想定できる。
ユアとユナの先導で、"ネームド"と
全員が、"護目の神鏡"と"護耳の神珠"を装着し、
「機神、出ました!」
「巫女様」
ルクーネという女騎士が、ユアとユナに向けて
どういう理屈なのか、女騎士達の中では、ユアとユナは"巫女"と位置づけられているらしい。
「聖なる楯!」
ユアがEX技を発動し、全員を保護する。
「
念の為、ユナが聖なる楯の内側に、光壁を出現させて護る。
「・・10秒」
ユキシラが時間を計っている。
ゴオォォォーーーーーン・・
轟音が轟き、眩い閃光が視界を埋め尽くした。"護目の神鏡"がなければ目視できない光の奔流の中、単眼鏡を覗いていた
遙かな上空から、純白の貫通光が迷宮を呑み込んで
さすがは神の迷宮である。
巨大化したアルマドラ・ナイトの一撃で消滅する事は無く、円錐形の迷宮部分を虫食い状に半壊させられつつ何とか原形を残している。数秒の沈黙の後、迷宮が高速で元の姿へと修復していく。
「第2撃、来ます」
観測中のアリウスが言った。
ゴオォォォーーーーーン・・
貫通光が上から下へ、空中迷宮を呑み込んで抜けた。
「・・25秒経過」
時計を手にしたユキシラが呟く。
ゴオォォォーーーーーン・・
「こ、これは・・」
「なんだ!?」
「どうしたのじゃ?」
リールが
「その・・体に力が満ちるのです」
「先ほどから、どんどん体が強化されている気がします」
女騎士達が
「ああ・・それは、あれじゃ」
リールが苦笑しつつ、悲惨な状況下にある空中迷宮を指さした。
「あの場で灼き殺されておる大量の魔物どもが、
「
「・・なるほど」
女騎士達が頷いた。
「後で地上に散ったであろうドロップ品を集めて回らんといかんのぅ」
リールがくっくっと喉を鳴らすようにして笑う。
ゴオォォォーーーーーン・・
「45秒です」
ユキシラがユアとユナに声をかける。
「ボッス~、45秒ですよぉ~」
「もうすぐ、1分ですよぉ~」
2人が"護耳の神珠"で連絡を入れた。
「・・おぅ、まだやりますか~」
「・・おぅ、そうでありますか~」
ユアとユナが互いに顔を見合わせて小さく肩を
「テンタとテロス、両方やるらしい」
「直接斬っちゃうそうです」
2人が報告した。
「本気で殺しにかかっておるのぅ」
リールが低く唸る。
遙か上空から黒い触手が次々に伸びてきて、崩落しかかった空中迷宮を幾重にも巻き付いていた。
「機神っ、斬り込みます!」
単眼鏡を覗くアリウスが声を上げた。
"
ザシュウゥゥーーーー・・
硬質な擦過音が大気をびりびりと震動させて響く。
思わず背を縮めた面々の見守る前で、巨大なアルマドラ・ナイトが縦横無尽に大剣で斬りつけ、突き刺し、至近から貫通光と灼熱を浴びせる。
ゴゴォーーン・・
ゴンッ・・ゴンッ・・
ゴォォーーン・・
「黒い・・空? 星が見えます!」
報告するアリウスの声が悲鳴に近い。
すぐさま、ルクーネも単眼鏡を使って観察を始めた。
アルマドラ・ナイトの"
「1分20秒です」
ユキシラが双子に緊張した声で伝える。
「ボスっ! 1分30秒」
「ラグカル、なっちゃうよ!」
"護耳の神珠"で呼びかけるユアとユナにも余裕が無い。
ドドォーーーン・・
連続した斬撃を繰り出し、迷宮を滅多斬りにしていたアルマドラ・ナイトが少し距離を取った。
ヒュイィィィィィィィィーーーーー・・・・
異様な高周波音が15キロ離れていても聞こえる。
"
「1分45秒・・」
「ボス、もうすぐ2分!」
「ラグカル警報っ!」
ユアとユナが拳を握りしめて騒ぐ。
その時、アルマドラ・ナイトが大きく踏み込んで"
巨大な閃光が、右上から左下へ・・。得体の知れない黒い空間を斬り裂いた。
直後、
ギュイイィィィィーーーーーーー・・
思わず顔をしかめる、耳障りな轟音が響き始めた。
歪んだ視界をアルマドラ・ナイトが大きく後退して距離を取り始めている。
「シュンさん! 撤退してっ!」
「シュンさん! 危ないっ!」
ユアとユナが叫んだ。
「2分です」
ユキシラが告げた。
「えっ!?」
「なに?」
女騎士達が思わず声をあげる。空から光が消えたのだ。唐突に、明かりが消えるようにして、光という光が消え去っていた。
「光壁っ!」
ユアが光壁を展開した。
「光壁っ!」
ユナも再展開する。
本来なら眩く輝く光の壁が出現するはずの神聖魔法だったが、周囲からは光が失われたまま何も見えない状態だった。
「大丈夫、まだEXは継続してる!」
「見えないだけ! ちゃんと護られてる!」
ユアとユナが全員に聞こえるように大声で言った。
その間も、キシキシ・・と、何かが
「まあ、婚約者殿が防げぬならお手上げじゃ。静かに待とうではないか」
リールが
「聖女で教皇っ!」
「ナメたらいかんぜよ!」
ユアとユナの声が響き、いきなり周囲が色を取り戻して淡い光に覆われた。
光の中心で、ユアとユナが両拳を握り締めて、全身から神聖光を噴き上げている。
「ぁ・・」
ルクーネが小さく声を漏らした。
唐突に、辺りの闇が消え去り、元の澄み切った青空に戻ったのだ。
「シュンさん!」
「シュンさん、どこっ!?」
ユアとユナが視線を左右しながら、"護耳の神珠"で呼びかけている。
「ぇ・・?」
「ぁ・・」
2人が真上を見上げた。
そこに、すでにアルマドラ・ナイトを送還したシュンが黒翼を広げて浮かんでいた。
シュンの左腕から伸びたテンタクル・ウィップが上方へ伸び、何かを絡め取っているようだった。
「警戒を続けろ。何かが来る」
シュンの冷静な声が聞こえてきた。
=====
10月13日、誤記修正。
呼び呼び掛けた(誤)ー 呼び掛けた(正)
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