第143話 神殿の闇
テンタクル・ウィップで拘束された9人の男女が吊されていた。
教皇:1
司教:2
司祭:6
以上の9名だ。
シュンは、ユア、ユナ、サヤリの3人に地下階の探索を指示し、1人で尋問を行っていた。
無論、乱暴な声で質問をするわけでは無い。有無を言わせずに薬を飲ませ、質問をして話した内容を手帳に記す。淡々とした作業の繰り返しだった。
9人全員を一通り終えると、また順番に薬を飲ませて質問を始める。いわゆる周回である。
質問内容は、「呪具の
8回目の尋問途中で全員が痙攣して喋れなくなったため、シュンはVSSで全員に止めを刺した。
あまり有益な情報は得られなかったが・・。
『魔核混じりなのです』
白翼の美少年が驚いたように声をあげた。
教皇の死骸が、まるで迷宮の魔物のように灰となって崩れ、丸い魂石が残ったのだ。
本来、死体が消えるのは迷宮の中だけだ。現に、先ほど
だが、教皇の死骸だけは、灰となって崩れた。
「魔物か?」
シュンはポイポイ・ステッキで魂石を収納した。
収納物の表示には、"堕ちた教皇の魂"と記されていた。
『魔憑きなのです。かなり進行していたです』
カーミュが説明する。
「光神を祭る神殿で魔憑きか」
シュンは顔をしかめた。教皇というのはイルフォニア教の最高位だろうに、魔物から身を守ることすら出来なかったのだろうか。
カーミュに神殿中の死骸を灼かせていると、
『ボス、扉を発見』
『ボス、罠っぽい』
2人から連絡が入った。
床石の穴から入ったところに石室があり、螺旋状の石階段によってさらなる地下階へと降りる。
地下にある横道を進んだ先の広間でユア、ユナ、サヤリが待っていた。
「サヤリが罠発見」
「扉に罠があるって」
ユアとユナが分厚い金属扉を指さして言う。真っ黒い表面に、銀色の模様が描かれ、大きな宝石がちりばめてある。見るからに、何かがありそうな大扉だった。
「サヤリ?」
「転移系の罠のようです。この扉は触れない方が良い気がします」
複雑な模様が描かれた大扉を、サヤリが柳眉をひそめて見上げていた。
「転移か。扉が罠だとすると・・」
シュンは少し考えて、広間の中を見回した。
「カーミュ、そこの壁がおかしい」
『抜けてみるです』
シュンが指さした石壁めがけて、カーミュが飛び込んで行き、そのまま壁を抜けて向こう側へと消える。
『道があるです』
すぐに、壁の向こうからカーミュが顔を覗かせた。
「壁は幻影か?」
『灼くです』
そう言って、カーミュが白炎を噴いた。
あるいは、ただの炎なら効果が無かったのかもしれない。しかし、カーミュの白炎は霊的なものまで灼き払う炎だ。
一瞬で壁面が消え去り、通路が開かれた。
「行こう」
シュンは通路へ入った。
「扉は良い?」
「放置する?」
ユアとユナが後ろを振り返りながら、MP5SDを肩から吊し持った。
「奥に行って何も無ければ戻って調べよう」
シュンはVSSを手に奥へ向かった。行く手で通路が左へ曲がり、奥から明かりが漏れている。
「危険感知だ」
シュンは小声で呟きながら水楯を展張し、霧隠れをかけ直す。ユア、ユナが無言で防御魔法とHP継続回復の魔法を付与した。
通路はあまり広くない。シュンを先頭に、ほぼ一列に並んで通路を曲がった。
途端、正面で銃撃音が響いた。
見ると、奥にある部屋の前に探索者の男女が並んで機関銃を連射している。
「サヤリ」
「はい」
サヤリがHK69から催涙弾、そして炸薬弾と続けざまに撃つ。
「ユア、ユナ」
「アイアイ」
「ラジャー」
動きを乱した射手達めがけ、閃光手榴弾と衝撃手榴弾が放り込まれた。その間も、サヤリの榴弾が撃ち込まれている。通路奥にいる探索者達は悲惨な状態に
一方のシュン達は銃弾を浴びたところで、ムジェリ製のタクティカル・ベストによって1ポイントしかダメージを受けない。その上、水楯によって全弾を防ぎ止めている。初めから勝負になっていないのだ。
シュン達は、水楯を正面に展張したまま進んで行った。
今度は、部屋の戸口から次の集団が飛び出し、EX技を放って来た。捨て身の攻撃である。
紅蓮の炎を纏った大蛇、そして渦を巻く雷撃が荒れ狂う。
しかし、それだけだ。
賑やかに光が明滅し、轟音が鳴り響く中、シュンは、VSSで1人ずつ撃ち斃していた。練度の低いEX技ではシュンの水楯すら破れない。
「カーミュ」
『はいです』
床に転がる探索者達を、カーミュが白炎で灼き払う。
「・・魂石」
全員では無いが、いくつか魂石が残った。
「これも、魔憑きか?」
『半分くらいなのです』
カーミュが顔をしかめている。魂の半分近くが魔に染まっているのだと言う。
「まるで魔物だな」
シュンは眉間に皺を寄せつつ、VSSを収納して、代わりに"
シャァァーーーー
低く震える呼気と共に、部屋中を埋め尽くさんばかりの蛇が襲ってきた。
『灼くです』
迎えて、カーミュが白炎を噴射した。さして広くない部屋を白炎が灼き尽くし蛇が一瞬で灰になる。
白炎が荒れ狂う部屋の中めがけ、シュンはテンタクル・ウィップを伸ばした。床から天井へ、逃れようと飛んだ人影を黒い触手が捉える。白炎に身を灼かれながらも灰にならずに耐えた者が居たのだ。
テンタクル・ウィップによって部屋から引き摺り出されたのは、10歳前後の外見をした少女だった。白金髪の綺麗な髪と抜けるように白い肌をした美しい顔立ちの少女だ。着ている衣服は、ぼろぼろに灼かれて形が分からない。
シュンは暴れる少女めがけて"
キィィアァァァーーーーーー・・
甲高い金属質な絶叫が空気を震わせ、無数のひび割れが通路の壁を裂いて走る。音による攻撃だったのだろう。
「それだけか?」
シュンは、真っ二つになったままバタバタと身を跳ねさせて暴れる少女めがけて"
なかなかの再生力を見せて、斬っても斬っても肉体が復元する。
だが、反撃できなければ再生に意味は無い。
徐々に再生力が衰え、動かなくなっても、シュンは"
やがて、生を諦めるようにして、少女が
「悪魔では無かったな?」
シュンは白翼の美少年を見た。
『たぶん、魔神なのです。でも、その魔核はちょっとおかしいのです』
「そうなのか?」
シュンは赤黒く光を放っている魔核をポイポイ・ステッキで収納した。
「"コリンラウルの魔血"と表示されているな」
『コリンラウル・・』
「知っているのか?」
『どこかで聴いた気がするです。女王様にお手紙書いても良いです?』
「頼む」
シュンは白炎が灼き尽くした部屋を覗いた。
「神具はどこ?」
「あの鏡?」
ユアとユナがそろそろと部屋に入って行く。奥に姿鏡のような物が置いてあり、鏡面から薄い紫色の光を放っている。カーミュの白炎を浴びたはずだが、焼けた様子は無かった。
シュンはテンタクル・ウィップを伸ばして"鏡"の枠に触れた。特に違和感は感じない硬質な手応えだ。しかし、鏡面部分に触れた黒い触手は、手応え無く沈み込んで消えた。
「"異界の門"に似ているな」
先日の"異界の門"と似ている。転移の神具とは違うようだが、何かの魔導具であることは間違い無いだろう。
『覗いて確かめるのです』
カーミュが許可を求めてシュンを見る。
「そうだな・・危険は無いか?」
『大丈夫なのです』
カーミュがふわりと舞って、鏡の鏡面から顔を入れる。すぐに中へと消えて行った。
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