第45話 グリフォン・グリフォン
迷宮を上り始めて数ヶ月が過ぎ、シュン達はようやくレベル15になった。
到達階は、14階である。
14階をひたすら周回して、魔物狩りに
当然、低層階に出てはいけない魔物も登場したし、例によって隠し部屋も探し当てて攻略した。
14階に留まっていたのは、骸骨に貰った秘伝書のお陰で魔法力の底上げができ、得意の魔法以外の魔法を使った魔物狩りを行なっていたためだ。
また状態異常を起こす魔物が多く、耐性の練度上げも行えた。
すべては、"文明の恵み"があればこそだ。
この頃になると、食事のほとんどは魔物産である。
飲料だけは魔法による水や聖水がふんだんに手に入る上、"文明の恵み"によって嗜好品も飲める。その他は調味料まで魔物から得ていた。
恐らく、通常のドロップ品では手に入りにくいだろう品も、テンタクル・ウィップで拘束して剥ぎ取りをするため、多種多様な物が豊富に手に入る。おかげで、ポイポイ・ステッキの中には、得体の知れない品が賑やかに収納されていた。
解体から加工、精製まで、最初はシュンにお任せだった双子も恐る恐るながら手伝うようになり、最近では危なげない手付きで手伝えるようになってきた。大物を仕留めた時は、これにジェルミーが加わって一大解体祭りとなる。
角、鱗、頭骨、牙、歯、舌、脳髄、鶏冠、鬣、髭、嘴、心臓、血液、体液、毒腺、魔石、胆石、胆嚢、胃、腸、眼球、腱、皮、羽根、鉱石、宝石・・・。
シュンのポイポイ・ステッキの中はとんでもない事になっている。
レベル15になって、"武器の書・銃"と"武器の書・刀剣"を同時に使用できるようになったため、魔物狩りはより安定して行えるようになった。今も、もう何度目になるのか分からない、亜種の魔物を仕留めたところだ。大型の毒蜥蜴や大蛇が多い階層に、上半身が鷹で下半身が獅子になった魔獣が出る。さらに、何十回かに一度は銀色や黄金色の翼をした魔獣が混じるのだった。
「これは、肉が美味いからな」
「テリヤッキー希望」
「かしわ天希望」
双子が座り込んだまま言う。
5日かかっていた魔物が2日で仕留められるようになったのだが、とにかく動きが激しくて狂ったように火を噴き、風魔法の竜巻を連続して放って来る上に、隙あらば鉤爪で襲いかかって来るのでギリギリまで緊張を強いられるのだ。この2ヶ月間に、金毛を3頭、銀毛を7頭斃している。金毛は全て解体できる状態だったので、ほぼ総ての素材を剥ぎ取っていた。
ポイポイ・ステッキに収納された素材名から、金色はエルダーグリフォン。銀色はヒポグリフォンらしい。
蜥蜴は、ポイズンリザードとバジリスク。蛇だか鳥だか分からない魔物がコカトリス。たまにポップする強い蜥蜴はロックドラゴン。
「ゴブリンが懐かしい」
「コボルトは癒し」
抱えた膝頭に顎を乗せて何やら言っているが、いつもの事なので放っておく。
強い魔物に共通するのは、とにかく再生能力が高い事、それからHPの総量が多く、防御力が高い事だ。
例えば、エルダーグリフォンを相手にすると、シュンのサウザンド・フィアーは、VSSを使用すれば30秒間に300万近いダメージを与えられるが、それでも3日かかるのだ。魔物が妙な光を帯びたり、発狂したかのように暴れ狂ったりする時、HPが完全回復しているんじゃないかと双子が言っていた。事実として、そうであってもおかしくないくらいダメージを与えている。
秒単位でHPがモリモリ回復しているに違いないと、これも双子の推察である。
逆に、シュン達は一撃で5000前後のダメージを負うから命がけである。防御魔法を使っていて5000のダメージだから、防御魔法が無ければ即死かも知れない。霧隠れは平均して、3撃を浴びると消え去る。狂乱状態のエルダーグリフォンが9連撃をやって来る時が正念場で、"ディガンドの爪"はもちろん、リビング・ナイトと水楯を出すタイミングが生死を別ける。
「蘇生魔法を覚えたんだよな?」
「死にたく無いでゴザル」
「逝きたく無いでゴザル」
「・・まあな」
死なないに越した事は無い。ただ、事故のような強撃を浴びて即死した場合の事も考えておきたい。
「リライフで蘇生」
「500消費」
双子が教えてくれた。まだ、使用回数はゼロだ。
「プロテードのレベルが上がった」
「物理攻撃を防御」
「マジックシェルのレベルが上がった」
「魔法攻撃を防御」
「ホーリーシェルのレベルが上がった」
「呪詛系の攻撃を防御」
「・・なるほど」
シュンは頷いた。
「キュアのレベルが上がった。キュアリーを覚えた」
「メンバー単体回復と全員回復」
双子の報告が続く。レベル15になって、色々と覚えたらしい。
「ふむ・・」
「シャットを覚えた」
「相手の魔法封じ」
「ディスマジックを覚えた」
「かけられた魔法を解除」
「セイクリッド・キュアを習得した」
「かけられた呪詛系の悪疫全てを浄化」
「メンバーの?」
「指定すれば誰でも。魔物にもかけられる」
「セイクリッド・ハウリングと同じ」
「なるほど」
シュンは頷いた。
「俺は、水系を少しだな」
「水楯が分厚くなった」
「霧隠れが4回まで効くようになった」
「うん・・・他にも、水療というHPとMPを同時に回復させる魔法を覚えた。まあ、どちらも500ずつだから微妙だな」
「育てる」
「練度上げる」
「そうだな。それから、水鏡。ごく少量みたいだが、相手の攻撃を反射できるらしい」
「有能」
「育成不可避」
「あと、ジェルミーが雷撃系の魔法を使えるようになったらしい」
「なんっ・・」
「・・だと!?」
双子が目を
しかも、ジェルミー自身のMPを消費するのでシュン自身はMP残量を気にしなくて良い。
「有能過ぎる」
「嫉妬で爆死」
ユアとユナが
「パーティが強くなるから良いじゃないか」
「パーティ内での地位に響く」
「すでに底辺」
「2人は十分に優秀だと思うけどな」
シュンが言ったが、
「フォロー感謝」
「同情痛み入る」
双子は膝頭を見つめたまま動かなかった。
(触手技というのも覚えたな)
シックル・ストームという技名だった。双子も包丁の技を覚えたらしい。戦闘中に敵を切った回数だったり、与えたダメージ量が一定値に届いたり・・武器ごとに武技を発動するための条件があり、それを満たした時のみ技を発動できるという仕組みだ。"武器の書・刀剣"で選択した武器だけの技らしく、使い込んでいるはずの短刀にはそうした技が発生しないようだった。
色々と覚えたが、シュンの攻撃パターンは変わっていない。単体の強敵相手には、テンタクル・ウィップで拘束してからのEX技、そしてVSS連射。複数の通常ポップの魔物は、水渦弾。これに、新しく覚えた魔法や技を混ぜて練度を上げている。
(防御に使える魔法はできる限り練度を上げておきたいな)
シュンは少し離れた場所にある魔物が大量にポップする広場の方を見やった。今居る通路から50メートルほど戻った場所だ。
常にバジリスクが15体徘徊していて、高確率でコカトリスがポップし、鳴き叫んで仲間を呼ぶ。乱戦必至の広場で、大技よりも細やかに技や魔法を使った方が良い場所だ。
(グリフォン狙いなら、この通路で粘るか・・・先にある泉を張り込むか)
ほぼ経験値は入らなくなったから、次の階へ行っても良いのだが、レベル15になって覚えた技や魔法の練度上げをしておきたい気持ちもある。
「練度上げデスネ?」
「ワカリマス〜」
双子は不服そうだが、
「練度は上げておいた方が良いだろう?」
シュンはもう何周か14階を巡る事にした。神からも、ゆっくり攻略するように言われているし、しっかりと練度上げをやってから進んだ方が良い。
「ボスに従う」
「否は無い」
「・・よし。広場に戻って、蜥蜴を狩り尽くそう。リポップの
「ラジャー」
「アイアイサー」
双子が立ち上がって敬礼した。護耳、護目、ディガンドの爪という3点セットは常態化している。今は、プロテード、マジックシェル、ホーリーシェルの3点がけも切らさず行われていた。これに、シュンの霧隠れと水楯、水鏡で防御態勢は整う。時間で効果が切れるので、かけ直しが面倒だが。
移動を開始しようとして、
「あ、待てっ!」
シュンの
高さ50メートル、幅が80メートルほどの岩肌の通路を見回しつつ、霧隠れを使用しておく。
「リビング・ナイト」
漆黒の甲冑騎士を召喚し、防御につかせる。
さらに、ジェルミーを出して後背を守らせつつ、通路の中央部に湧き起こった魔力の噴出を見守る。
「黒いグリフォン?」
シュンは緊張声で呟きながら水楯を出した。
上半身は鷹、下半身は龍を想わせる巨体が姿を現した。
「知ってた」
「覚悟してた」
ユアとユナがそれぞれXMとMK手榴弾の安全ピンを引き抜いた。
出現した直後の魔物は1秒程度動かない。
ユアの閃光爆弾がグリフォンの顔の前へ、ユナの衝撃爆弾が龍っぽい腹の下へ投げられて、それぞれ爆発した。
直後に、吐かれた毒霧中をリビング・ナイトが突進して斬りかかる。
「毒、麻痺、死病の呪い」
「動きを遅くされる魔法」
双子が報告しながら即座に回復する。
「属性が見たい。聖なる剣を」
「アイアイ」
ユナがEX技の聖なる剣を発動した。
リビング・ナイトごと巻き込むが、味方には50ポイントしかダメージを与えない。黒いグリフォンに真っ向からぶつかっていたリビング・ナイトもろとも、無数の白銀の剣撃が襲った。
(500から720・・これは、聖属性が効いているのか?)
VSSで撃ったが、僅か4ポイントだった。
顔をしかめるシュンの横で、ジェルミーが雷撃の魔法を使ったが、80ポイントだった。
「これは・・長丁場になるな」
思わず呟いたシュンの後ろで、
「まさかの3ヶ月コース?」
「まさかの記録更新?」
ヒソヒソと囁き合う声が聴こえた。
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