第46話 申し訳ありませんでした!
『ねぇ・・』
呆れ顔の神が浮かんでいた。
「申し訳ありません」
シュンは深々と頭を下げて謝罪した。
『あのさぁ、何べんも言ったと思うんだけど・・』
「今後は気を付けます」
再び、シュンが頭を下げる。
『えっとね? あの黒いグリフォンは、ダーク・グリフォンって言ってね? 85階層に居るやつなの』
「いきなり出現したために、止む無く・・」
『死ぬほど低確率なんだよ? ほぼゼロに近いくらいの確率なの。どうやったら、そんなの引き当てるかなぁ?』
「確率は分かりませんが、エルダー・グリフォンを何頭か
シュンが訊ねると、少年神がうんざりとした顔で首を振った。
『エルダー・グリフォンは55階の魔物』
「かなりの頻度で出現しましたが・・」
『14階に3ヶ月も籠もってたら、そりゃあ出るでしょ? もうね、呆れるのを通り越して何だか腹が立ってきたんだけど?』
「すいません。お許しください」
シュンは丁寧に頭を下げた。
『さすがに、これは修正ものだよ。こう、何度も同じような事でレベルを上げられたら面白くないからね。う~ん・・仕方ない。リポップに出現する魔物を選び直すか。あ・・いや、そうか。その階には出ないはずの魔物がポップした時は斃しても経験値が入らないようにしよう。まあ練度は今まで通りで、経験値は雑魚敵と同程度にしちゃいます。あとは時間制限を設定しないと駄目だね』
「お手数をお掛けして申し訳ありません」
『君って、本当に手間ばかり増やすよね?』
「すいません。急がず、ゆっくり進もうと心掛けたのですが・・」
そのために、同じ階を周回して練度上げを中心にやっていたのだが・・。
『う~ん、良いんだけどね。ルール通りだし、1階に3ヶ月とか時間かかるのは普通だし? ただ、同じパーティに、こんなに連続してボーナスをあげるってどうなの? 完全に想定外なんだけど?』
「すいません。規則を踏み外しているようなら・・」
『規則通りだから頭を抱えてんの。まあ、良いんだよ? エルダーくらいならさ? だけどダークは・・ヤバイっしょ』
「何度も死にかけました」
『死ぬから普通。死にかけで済まないから! あぁ、神聖術が使える子が2人もいるし、ディメンション・イーターの触手持ちだしねぇ。あの武器はマズかったなぁ』
「・・今は無くてはならない武器なのですが」
テンタクル・ウィップがあったからこそ、ダーク・グリフォンに勝てたのだ。あの触手の拘束力は凄まじいものがある。
『ああ、一度あげた物を取り上げたりしないよ。それこそルール違反だからね。ジェルミーは自我を持たせる方向で育成中か。まあ、君には絶対服従だし・・・うん、愚痴ばかり言ってても仕方ない。最速でレベル15到達したから、身体能力に上昇ポイント、一度も蘇生魔法の世話になっていないので、幸運値が上昇、ええと・・心身の練度限界に到達した項目は限界値の引き上げ、既存の習得技能の進化・・と、ここまでが特別ボーナスになるね。それに、通常のレベルアップボーナスを加算して、ああ、レベル15までメンバーを1人も死なせていないから、能力に指揮力という項目が追加されます』
少年の姿をした神が独り言のように呟いている。シュンは足下に視線を落として立ったまま聴いていた。
『"護耳" "護目" "文明の恵み"がそれぞれ進化します。"護耳の神珠"は呪詛などの呪系の音、術を防げる能力の追加。"護目の神鏡"は鼻や口も護るようになって、毒や病原菌なんかを浄化してくれる。まあ、見た目は変わって無いんだけどね。"文明の恵み"は、内部に仮眠室が設けられました。ちゃんと目覚ましが付いているから寝坊の心配無し』
「ありがとうございます」
これは、すごく実のある進化だ。
『さて・・ここまでは良いんだ。ここまでは・・』
少年神が難しい顔でシュンを眺めた。
『君、ダーク・グリフォンの脳味噌とか目玉を食べちゃったよね?』
「塩胡椒で食しましたが・・」
さして美味しくも無かったが、栄養価はありそうだった。
『普通、あんなの食べる?』
「鮮度が良かったので、試しに・・」
『・・まあ、ある意味正解さ。隠しルートというか・・ダーク・グリフォンの知識を手に入れたんだから』
「グリフォンの?」
『人の世で言う鍛冶や彫金、木工、革細工、薬の調合・・そういう創造を行う為の創作魔法という物があってね。アホみたいに脳に負担がかかるから人間には初歩的なものしか習得できないんだけど、ダーク・グリフォンの脳を取り込んじゃった子がいるんだよねぇ・・ボクの目の前に』
少年神がシュンを指さした。
「私ですか?」
『うん、そう』
「それは・・食べただけで取り込みを?」
ここへ来るまで、結構な数の魔物を食べてきたのだが、今までは一度もそういった事は無かったはずだ。
『解毒不能な猛毒でコロリ、人生退場・・・なんだけど、どういう奇跡か、脳髄に毒を持たない個体を引き当てちゃってさ。ちゃっかり、脳の容量と演算能力を強化しちゃってるわけ。実に腹立たしいよね?』
「え・・と、誠に申し訳ありませんでした」
『眼玉もねぇ・・ダーク・グリフォンが黒瞳で良かったよね? 見た目はほとんど変わらないし・・でも、動く物とか、止まって見えるレベルだから気を付けて?』
「・・はい」
どうやら、凄い事になっているらしい。この神の間を出たら、注意して慣らさないと危ないだろう。
『元々、凄く動体視力が良かったのは知ってる。でも、あんなものじゃ無いから。その気になれば、超望遠やれるし、闇とか関係無いし、双子ちゃんの目眩しが効かなかったでしょ? ダーク・グリフォンって、85階層に居るのがおかしいレベルだから』
「はあ・・」
そもそも、85階の魔物を14階に登場させるというのは、どうなのだろうか?
『しっかしまあ、よくまあ2ヶ月も・・・どういう継戦能力なんだい、まったく。本気でおかしいよね。ああ、あと、胃袋に入って残ってた果物も食べたよね?』
さらに、別の食材についても問題があるらしい。
「・・形がしっかり残っていましたし、迷宮では果物は珍しいので、つい・・」
『あれ、双子ちゃんにも食べさせてたよね?』
「すごく欲しがったので・・」
2人が食べさせてくれと土下座をしてせがんできたのだ。結局、三等分にして食べたのだが・・。
『グリフォンみたいな魔法生物にはただの果物だけど、人間が食べると・・あれって、不老長寿の実だよ?』
「・・・は?」
『時の皇帝が血眼になって探させたりする、アレ』
「その・・いや、ただの甘い果物だったんですが?」
『双子ちゃん、泣き崩れてたよ?』
「そ、それは・・」
まさか、そんな物だとは思わない。綺麗な白っぽい色をした果実だったのだ。匂いは柑橘類を想わせたが、味は甘味の強い西瓜のようだった。
『カッコイイ大人の女を目指してたんだってさ。それが、もう小さいままで成長しなくなっちゃって、あ~あ、可哀想にねぇ」
少年神が力無く首を振った。
「まあ、自業自得だし? 今後はダーク・グリフォンの知識があるから大丈夫だと思うけど気をつけてね。ええと、それから・・エルダーグリフォンの魂石はリビング・ナイトの強化に使える。もちろん、換金もできるけど?』
「リビング・ナイトの強化に使用して下さい」
『全部?』
少年神が軽く目を見開いた。
「はい」
シュンに迷いは無い。
『・・はい、全ての魂石を注ぎ込みました』
「ありがとうございます」
『エルダーグリフォンの羽根は、非常に高額で取り引きされるから大切に保管しておくと良い。ヒポグリフォンの素材だけでも城が建つよ』
「そうなんですね」
今現在でも相当なお金持ちなので、ピンと来ないが、生きて外に出られた時のために稼ぎはあった方が良いだろう。
『それに、素材は創作魔法で使えるからね。色々と創ってみると良い。さて・・色々とデタラメな君達パーティも、遂にレベル15だ。リーダーがレベル15以上のパーティ名と到達階層は、5層毎に設置された石碑や街にある掲示板に表示されるようになる。月内にパーティとして稼いだ経験値の合計値で順位が付けられて、上位50パーティが表示される仕組みさ。もちろん、順位によって報奨があって、好成績パーティには短時間だけ迷宮都市を訪問できる権利や希少薬品なんかがプレゼントされるよ』
物を創作する魔法というのは何だか楽しみだ。
元々、鍛冶仕事は大好きだし、彫金や薬の調合なども得意な方だ。魔法でどんな物が生み出せるのか・・そのための素材が迷宮で手に入るというのなら、日々の魔物狩りにも熱が入るというものだ。
「・・レベル15以上のパーティは、どのくらいの数なんですか?」
『2千くらいかな。減ったり増えたりしてるけど・・まあ、そんなもん』
「仮に6人パーティだとして、1万2千人ですか。思っていたより多いです」
『15以下は、もっとたくさん居るけどね』
少年神が肩を竦めた。
「なるほど・・」
命を落とした人間も相当数居ただろう。いったい、どれだけの異邦人を召喚してきたのだろうか。
『レベル15になった連中は、色々と用心深いし、大抵は蘇生魔法の使い手をパーティに抱えているから簡単には死なないね。パーティ同士の潰し合いはほとんど無いし、まあ、多少の小競り合いはあるけど・・』
「私のような原住民の生き残りはいますか?」
『居るよ。少ないけどね』
「そうですか」
シュンはホッと息を吐いた。
『次の石碑に登録後は、パーティ間での郵便制度が解禁になる。同時に、依頼の発注や受託の掲示板も導入される。これには迷宮内の住人の依頼だけで無く、迷宮都市に居る商人なんかの依頼も混じる』
「・・なんだか、凄いですね」
正直、変化が多すぎて消化しきれない。知識の補完は、双子を交えた方が早そうだ。
『最後に、ダーク・グリフォンの討伐報酬として、レベルアップと棒金50本ね』
シュンの目の前に、聖印棒金の山が浮かび上がった。
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