第35話 共闘

 砦の中庭はほぼ制圧できた様子だったが、まだ壁を登っているパーティが残っているらしく、無限に湧いてくる赤子のような魔物と目玉を相手に、アキラ達のパーティが奮戦していた。魔法戦主体のパーティが別に居て、アキラ達と連携を取っているようだ。


「問題無さそうだな」


「良構成」


「硬派」


 双子も好印象らしい。


(そういうことなら・・)


 連携を乱すような真似は止めにして、様子を見る事にした。他のパーティの戦い方や連携を見る機会はなかなか無い。


 シュンはVSSを手に大扉の前で全体へ視線を配り、異邦人の動きを眺めていた。非常に理にかなった無駄の無い動きをしている者、見ていて危うい感じの者、乱戦に興奮して遮二無二剣を振り回しているだけの者・・。


(アキラ・・あいつは落ち着いているな)


 乱暴に戦っているようで、周りをよく見ている。個別の魔物との戦い方はともかく、その場全体をよく見て位置取りを変え、自パーティの魔法使い2人に邪魔が入らないよう立ち回っていた。時折、軽鎧の少年が声を掛け、アキラが頷いている。


 城壁を登るまでに銃を撃ち尽くしたらしく、今は銃を手にしている者は少なかった。魔物の直下から業火の柱を噴き上げ、目玉の魔物を一瞬で灰に変える魔法使いが居る。


「火魔法は強いな」


 シュンの呟きに、


「練習あるのみ」


「鍛錬あるのみ」


 双子が拳を握って見せた。

 赤子のような魔物が使う爆発する火球を、虹のような色をした防壁を出現させて防いでいる者も居る。


(勉強になるな・・)


 自分では思い付かない魔法・・自分には使え無い魔法・・剣技にしても、青く光る刃を飛ばしたり、放った矢が無数に別れて突き刺さったり、異邦人達の技は実に多彩だった。


(これだけの連中が揃っていて、この砦を突破できなかったのか?)


 不思議になるが、塔から狙撃を受けるとなると、こうは易々と城壁を乗り越えられないのだろう。


(ん?・・あっ!)


 シュンは大急ぎで中庭へ駆け出た。


「アキラ!」


 鋭く危難きなんを報せる声を掛ける。

 直後、銃声が鳴り響いて、アキラが撃ち抜かれて跳ね転がった。


「ユア、ユナ!」


 二人に声をかけつつ、振り仰ぐようにしてVSSを構える。


 狙いは塔の胸壁だ。


(・・させるか!)


 VSSの引き金を絞った。

 狭間胸壁から狙いを付けていた狙撃手に命中する。

 そのまま、シュンは片膝をついて射撃の姿勢を取って身体を固定した。周囲の事をすべて捨て、ただ塔上の胸壁のみを狙い続ける。


「狙撃者、塔上っ!」


「物陰に移動!」


 ユアとユナが声を掛けながら、アキラに駆け寄って回復魔法をかける。


 再び、シュンが引き金を絞った。

 胸壁に突き出されかけた銃身がね跳ぶ。直後に、わずかに覗いた人の手を狙い撃った。


「ボスに魔物を近づけない!」


「断固阻止っ!」


 2人の声が響く。

 すぐに呼応する声があがって、魔法が放たれ、銃声が鳴り、湧いて出る目玉の魔物が灰になる。


「ボス、救出完了!」


「ボス、治療完了!」


 双子の声を耳に、


「他のパーティは?」


 シュンは胸壁を狙いながら訊いた。


「館に入った!」


「もう大丈夫!」


「・・よし」


 シュンは身を翻して城館へ向けて走った。わずかに遅れて銃声が上で響き、肩口を銃弾がかすめて過ぎる。

 だが、狙撃機会はその1度きりだ。

 城館の大扉へ飛び込むと同時に、待機していた少年達が扉を閉ざした。


「すまん、助かった」


 アキラが苦笑いをして待っていた。兜が吹き飛ばされて、無惨な大穴を開けている。


「危うくスプラッタ」


「夢に出る」


 双子が腕組みをして何やら言っている。


「それより、ここに居た石像ゴレム蛙の魔物トードを斃したら、あの扉が出た」


 シュンは踊り場の階段上に浮かぶ扉を指さした。


「ボス部屋か・・ああ、お前じゃ無い方のボスな」


 アキラが笑う。他のパーティメンバーも笑った。


「暫定でレギオンのチーフを任せられているし、ついでに全員で突入してしまおうと思う。異論は?」


 シュンは異邦人の少年少女を見回した。


「異議無し」


「やろうぜ!」


「賛成」


 口々に賛同する声があがる。


「とりあえず、最初の突っ込みは、うちが・・"ネームド"が引き受ける。アキラのパーティが、"ネームド"と魔物の戦いを見ながら作戦を立ててくれ。その後の指揮はアキラに引き継ぐ」


「おいおい・・」


 アキラが戸惑い顔で言いかけるが、


「うちは、いつだって3人でやってきた。多人数での連携は分からない。魔物の見極めが付く時間くらいは、きっちりと"ネームド"が受け持つ。そこは信頼して欲しい」


 シュンは笑いながらアキラの肩を叩いた。


「・・分かったよ。確かに・・俺達、"アイアン・フィスト"はここの連中とは長い。うちが仕切った方がやりやすいだろう」


 アキラが苦笑気味に頷いた。


「護耳、護目、楯の確認」


 シュンは役割分担等の指示をアキラ達に任せ、双子に声をかけた。


「よし!」


「よし!」


 双子が互いの目と耳を指さして確認し合う。


「HP、MP、SP」


「マンタンです」


「フルタンクです」


 双子が数値を確認して報告する。


「入ると同時に防御かけ直し。暗闇なら鬼火を出すぞ。EXは自由に使え」


「アイアイサー」


「ハイサー」


「よし」


 シュンは自分の点検も済ませ、VSSを片手にアキラ達を振り返った。

 シュン達の様子を見て、他のパーティも装備の見直しや武器の選定など行っていた。


「殿、出入りにゴザル」


「殿、討ち入りにゴザル」


「今度はどんな魔物かな?」


 シュンは宙に浮かぶ扉を見やった。


「目玉に一票」


「目玉に二票」


 双子が言っていると、どうやら準備が整ったらしいアキラ達がパーティ毎に固まって集まって来た。


「準備はいいのか?」


「大丈夫だ」


「なら行こう」


 シュンは先頭に立って階段を上り、扉の前に立った。ちらと双子を振り返り、扉を押し開けようと手を触れた。


 瞬間、体が白い光に包まれた。


「ユナ、ユア」


 咄嗟とっさに3人で手を繋ぐ。

 視界の中で、他のパーティも白い光に包まれているのが見えた。


 瞬後、シュン達3人だけでなく、他のパーティも広々とした円形闘技場の中に立っていた。ぐるりと観客席に囲まれているが観客の姿は無い。


「・・あれか」


 シュンは彫像のように佇んでいる騎影に目を向けた。


「目玉じゃ無い」


「外れた」


「人馬?・・いや、馬じゃなく虫・・百足ムカデみたいだな」


 シュンはVSSの照準器を覗いて呟いた。

 直線で800メートル向こうに、重装の騎士が居る。その腰から下が巨大な百足ムカデのような形状をしていた。武器は長い突撃槍ランスと円楯。突進を得意にしていそうな外見だが・・。


「他にいて出るかもな」


 シュンは広々とした闘技場内を見回した。


「それが、目玉」


「きっとそう」


 双子が目玉の魔物にこだわっている。


「・・行こうか」


 シュンは双子に声をかけて走り出した。


 それに合わせ、魔物も動き出した。


「いつも通りだ。XM、MKを試して距離を取れ。少しでも危ないと感じたらEXを使って待避」


「ラジャー」


「アイアイサー」


 双子が元気に返事をしながら、シュンのさらに前へと駆けて行く。


 シュンは途中で止まってVSSを構えた。

 距離300を切った。


 瞬間、引き金を絞った。まずは兜の面頬に開いた格子状の隙間、そして、胸甲と兜の隙間、突撃槍ランスを握る腕の腋下、百足のような下半身に変じる腹部・・。


 精密に狙撃していく。


 面頬を縫った銃弾が500ポイント、喉元が120ポイント、腋の下が80ポイント、腹部は25ポイントだった。


 シュンはVSSを一旦収納し、テンタクル・ウィップを取り出した。


 ユアがXM84を放り上げ、少し間を置いてユナがMK3A2を転がす。すぐさま回れ右をして駆け戻ってくる。迎えるようにシュンが前に出た。


 XMが炸裂して轟音と閃光で百足ムカデ騎士を包む。直後に、MKが爆発して床石ごと百足ムカデの足の何本かが千切れて飛んだ。


「80を維持、百足ムカデなら毒がある」


 左右を駆け抜ける双子に声を掛けながら、シュンは大きく前に踏み出すなりテンタクル・ウィップを振り下ろした。


 異様な風鳴り音を残して、十数本の触手が百足ムカデ騎士を真っ向から打ち付ける。構わず、百足ムカデ騎士が突進してきた。

 脇へ周りながら、呪怨の黒羽根を投げ打つ。

 真っ直ぐに走り抜けようとしていた百足ムカデ騎士が、20メートル近い巨体を器用に踏み留まらせて向き直り、シュンを追って再度突進を開始した。

 百足ムカデ騎士が、長い上体を伸ばして突撃槍ランスを繰り出してくる。すれすれに槍穂をかわしざまに、テンタクル・ウィップで殴りつけ、大きく跳んで巨体の突進を回避する。そして、また呪怨の黒羽根を投げつけた。


「次、左へ回避して同じ事をやる。俺めがけて、XMとMKを投げろ」


 "護耳の神珠"に触れて2人に念話を飛ばす。


『アイアイサー』


『ラジャー』


 すぐさま返事が返った。


 百足ムカデ騎士が大きく突撃槍ランスを引いて突進してきた。

 シュンが前に出る。

 百足ムカデ騎士が、シュンが逃れようとする左側をぎ払うようにして突撃槍ランスを振ってきた。

 シュンは構わずに前に出てテンタクル・ウィップを振り下ろした。十数本の触手が百足ムカデ騎士の槍を握る腕を打ち据え、突撃槍ランスを弾き跳ばす。百足ムカデ騎士の腕が肩から折れて真後ろへ伸びた。


「回避っ!」


 シュンは後ろへ来ているだろう双子に声を掛けながら、"ディガンドの爪"を翳して後ろへ跳んだ。

 危うくぶつかりそうになりながら、双子がMKとXMを放る。


 直後、百足ムカデ騎士の口元から大量の液体が噴出してシュン達を襲った。


「聖なる楯っ!」


「聖なる剣っ!」


 ユアとユナが反応良くEX技を使用する。

 純白の光楯が降りかかる液体を防ぎ止め、無数の光剣が百足ムカデ騎士に降り注いで激しい斬撃音を響かせた。閃光手榴弾XMが炸裂し、衝撃手榴弾MK百足ムカデの腹部下で爆発する。

 今度飛び散ったのは、甲殻混じりの百足ムカデの体液だった。


「距離をとって解毒」


 シュンは双子に声かけつつ、テンタクル・ウィップで百足ムカデ騎士を殴打した。さらに、呪怨の黒羽根を投げ打って、右側へと回り込む。


『ボス、待避』


『ボス、魔法攻撃』


 双子の声が神珠から聞こえた。瞬間、シュンはテンタクル・ウィップで百足ムカデ騎士を打ちえながら大きく後ろへ跳んでいた。後方へ宙返りをして着地する。


 視界を、紅蓮の炎槍フレイムランスが連続して飛来し、無数の銃弾が百足ムカデ騎士の全身に浴びせられた。激しい業火が爆ぜ、百足ムカデ騎士が松明のように燃えあがる。


「前、代わるぜ!」


 一声かけて、アキラ達、重甲冑フルプレートの少年達が5人、シュンの横を駆け抜けて燃えあがった百足ムカデ騎士に斬りかかって行った。


 シュンはその場でVSSを構えて照準器を覗いた。

 後ろに、双子が近付いて来た。


「凄い火魔法」


「でも、180」


「火に強いのか? 虫なのにな」


 シュンは先ほどダメージの多かった百足ムカデ騎士の面頬を狙って引き金を絞った。


「一気にやる」


「みんなEXだ」


 双子が興奮した声をあげた。


 アキラ達がそれぞれ、無数の光弾を乱れ撃ったり、巨大な剣を出現させたり、尖った岩の乱杭を生やしたり・・EX技を発動させていた。


 さらに、後方から魔法や銃で狙っている者達も、EX技を使ったらしく、アキラ達、前衛組が待避するのと入れ替わりに、幻影のような透けた群狼が百足ムカデ騎士めがけて襲いかかり、巨大な水の龍が出現して百足ムカデ騎士を呑み込む。どこからともなく、拳大の燃える石が降り注いで百足ムカデ騎士をなぎ倒した。


「完璧っ!」


「決まった!」


 双子が歓声をあげて互いの手を打った。


「まだだっ! 動くぞっ!」


 声をあげたのは、アキラのパーティにいる軽鎧の少年だった。


「援護射撃っ!」


 銃を構えた少年少女へ指示をする。

 すぐさま、倒れ伏した百足ムカデ騎士めがけて銃弾が撃ち込まれた。


 アキラ達が楯を構えて包囲する中、真っ黒に色を変じた百足ムカデ騎士が起き上がっていた。折れた腕は元通りになり、腹側が赤々と光を帯びていた。


「EXの回復は?」


「短い者でも、15分以上後です」


 軽鎧の少年が答えた。


「短期決戦が無理なら長期戦に切り替えよう。あいつを連れて走るから、遠距離攻撃ができる者で狙い撃ってくれ」


 シュンはVSSを構えながら軽鎧の少年に言った。


「伝えます」


 軽鎧の少年が頷いた。


「ハンドレッド・フィアー」


 シュンは、必殺の決意を声に込めて、引き金に指を触れさせた。


 百足ムカデ騎士が、艶のある黒い巨体を伸び上がらせて高い場所から睥睨へいげいするようにアキラ達を見下ろす。

 その巨体が紅い光に包まれた。

 どこからともなく、巨大なが舞い降りてくる。

 20メートルを超える巨大な百足の背甲に、体長が10メートル近い蚊がとまる。悪夢のような光景だった。口器で刺されても百足ムカデ騎士は何が起きているのか気付かない。


、育った」


「大きくなった」


「お前達は100メートル後ろを追って来い。あいつの正面には入るなよ」


 後ろの双子に声をかけ、シュンは身体にEXの力が満ちるのを感じつつ、VSSの引き金を連続して引いていった。


 999ダメージポイントが無数に乱れ跳び、黒くなった百足ムカデ騎士がすべなくり、傷だらけになって鎧を失い、兜を失う。99発総てを撃ち込んで、シュンはテンタクル・ウィップを手に走った。




=======

7月3日、ミス修正。

アイアンハート(誤)ーアイアン・フィスト(正)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る