第36話 勝利と報酬
「腹ぺこでゴザル」
「ローバッテリーでゴザル」
双子が
ぶつぶつ言いながらも、防御魔法と回復魔法、解毒魔法を重ね掛けしているのは、さすがだ。
覚えたての火魔法はともかく、ユアとユナの防御や回復の魔法は5年以上やっている他のパーティの魔法使いに負けていない。練度以外にも、適性のようなものがあるのかもしれなかった。
勝利に盛り上がり、抱き合って喜ぶ他パーティの面々には涙を流している者も居た。
そんな騒ぎを尻目に、
「ボス、ナイト出さなかった」
「ボス、地雷使わなかった」
双子が小声で指摘する。
「手の内、隠した?」
「いつか敵?」
「必要無かっただろ?」
シュンは苦笑した。この2人はさすがに違和感を覚えたようだ。
リビング・ナイトを召喚せず、対戦車地雷も使わなかった。EXも最初の一度きりで、後は"呪怨の黒羽根"を使って
「ボス、戦利品を検分」
「勝手に取られてしまう」
双子が
「通常の階層主は、それなりの品しか落とさないだろ? 特別な物は、特別な出現の仕方をさせた魔物しか落とさない」
シュンは短刀に砥石を当てながら笑った。
「・・確かに」
「・・正しい」
双子が腕組みをしながら頷いた。
そこへ、アキラを初めとした各パーティのリーダーが集まってきた。
「上手くいったぜ」
「あんた、すげぇな」
リーダー達が賛辞を口にする。
「ただ逃げ回っただけだ。ドロップ品の分配が終わったのなら、そろそろ
シュンは円形闘技場の中央へ眼をやった。
「いや、そのドロップ品なんだが、あんた達、"ネームド"が受け取ってないだろ。そもそもの分配方法についてだって、レギオンリーダーのおまえが・・シュンが決めないと進められないぜ?」
アキラが言った。
「う~ん・・じゃあ、パーティ割りで、なるべく均等になるように」
「甲殻や爪はそれで良いんだが、オーブやスクロールはどうするんだ?数が足りないぜ?」
「おーぶ? すくろーる?」
シュンは双子に助けを求めた。
「宝珠」
「魔法の巻物」
すかさず、双子が意訳する。
「なるほど・・数は?」
「オーブが2、スクロールが4だ」
「レギオンに参加したパーティは、6だったな?」
「"ネームド"を加えて7だ」
「ああ・・う~ん、そうだな。甲殻や爪の他には何も?」
「気味の悪い内臓と人骨が落ちていた」
「じゃあ、その内臓を貰おう。俺は調合をやるから、素材になるかもしれない。で、オーブとスクロールは各パーティにどちらか1つずつ配る。それでどうだ?」
「・・悪かねぇけど、それじゃあ、シュン・・"ネームド"の取り分が少な過ぎる。砦での戦いにしたって、狙撃塔を"ネームド"が制圧してくれたから突破できたようなものだ。そうでなきゃ、死人が出てたぜ」
「そうだ。なんだったら、オーブもスクロールも"ネームド"が総取りしたって文句は言わねぇ」
他のリーダーも言う。
「そうか。う~ん・・」
シュンは双子を見た。いつの間にか、ユアとユナが立ち上がって腕組みをしている。
「リーダーによるジャンケン」
「オーブ、スクロール、内臓から選ぶ」
「・・それで良いのか?」
アキラが思わず笑った。他のパーティリーダーも苦笑する。
「10階で出る物だし」
「そんなに良い物じゃない」
双子が言った。
「まあ、そうだな」
アキラ達が頷く。
「というか、ネームドは内臓が希望」
「残り物を別けて欲しい」
双子が仕切り始めた。
「お、おう・・いや、それじゃ釣り合わないんじゃないかって話なんだが」
「人によって欲しい物が違う」
「人によって価値が違う」
「まあ、そうなんだが・・・内臓?」
「薬になる」
「ほぼ趣味」
双子が断言した。
結局、オーブ2、スクロール4は他の6パーティで1つずつ。内臓は"ネームド"ということで落ち着いた。
「
革袋に生暖かい臓器を詰め込みながらシュンは呟いた。
遠巻きに見守っていた面々の表情を見て、
「俺は猟師をやっていて、こういう解体に慣れてる。内臓からは薬になる物が採れることもあるからな・・まあ、大半は捨てることになるが」
シュンは説明を加えておいた。
「ボス、食べたら駄目」
「ボス、お腹壊す」
双子が茶化す。
「誰が食べるか、こんなもの。宿で美味い食事を食べられるのに」
シュンが苦笑する。
「11階に転移したところで、レギオンは解散する。今回は協力感謝する」
シュンは各パーティの面々を見回し軽く頭を下げた。
「さあ行こうか?」
石碑を振り返って、双子に手を差し出した。
「ラジャー」
「アイアイサー」
ユアとユナがそれぞれ右手と左手を握る。そのまま、3人同時に石碑に手を触れた。
いつも通りに、水玉模様の半ズボン姿の神様が登場した。
すっかりおなじみになった何も無い空間だ。
『・・たまには、のんびり攻略したら?』
いきなりの第一声で、少年の姿をした神様がぼやいた。
「いえ・・なんか、今回は想定外の成行で・・」
魔物化した人間が集まっていた枯れ木の森から石碑で転移した先が10階の主が棲む魔物の砦で、攻略に集まった異邦人のパーティとなし崩し的にレギオンを組んで・・。
『良いんだけどさ。結果的に、あそこで行き詰まっていた子達が救われた訳だし?11階以降に新しい異邦人を送り込めたから感謝しているよ? でもねぇ・・君達3人組はちょっと早過ぎるでしょ?』
「そうなんですよ。実は、まだ7階にあるという宿屋にも行けていませんし・・11階の転移を終えたら少し戻ってみようと思っています」
シュンは言った。
『うんうん、それが良いね。これが他のパーティなら急げ急げって言うんだけどさ? 君達はもうちょっと迷宮を楽しんで?』
「そうします」
『・・ったく、君って素直なんだけど、行動が・・いや、結果的にとっても反抗的なんだよなぁ』
「そんな・・俺は反抗するつもりは」
『分かってるって。君達に悪気が無いのは知ってます。神様だからね。全部見てるし? なんだけど、こう・・迷宮の設計者の気持ちを分かって?』
「・・すみません」
『さて・・褒めてあげる場面で愚痴ばっかり言ってたらいけないね。10階クリア、おめでとう!』
「ありがとうございます」
『君が回収してくれた10階のボスの臓器は、こっちで預かるよ。テンタクル・ウィップを使わなければ採取できない代物だし・・あの臓器でまた10階にボスを再生した方が簡単だからね』
「・・わかりました」
シュンは重たい革袋を差し出した。少年神が手招きをすると、革袋がふわりと浮かんで移動し、出現した魔法陣の中へと吸い込まれていった。
『まず、通常報酬として、10階をクリアした人のEXは上位互換のEX技になります』
「おお・・」
『パーティ内でのフレンドリーファイア・・同士討ちによるダメージポイントは50に固定されます。今回のようなレギオンの時でも同様になるよ』
「それはありがたい」
乱戦時でも味方の攻撃で受けるダメージが分かっていれば戦いやすくなる。
『銃器の使用練度がマックスになって、君の場合は射撃特性として"精密射撃"という技能が身についた。命中率の上昇に伴って、
少年神が例によって何やら見ながら読み上げている。
『1度の失敗も無く10階までクリアしたので、身体能力に加点、幸運値は大幅アップだね・・ああ、これも
「なるほど・・」
『レベルが1上がります。君はレベル11になるね。おめでとう』
「・・レベルが上がるほどの敵でしたか?」
そこまでの経験値が得られるような強敵では無かった気がするが・・。
『クリアボーナスだよ。稼いでいた経験値はそのままオン・・レベル11になった上に、端数として加算されるから心配しないで良い。報奨金は、1万デギン。聖印金貨10枚だ』
「なんだか・・ありがとうございます」
『テンタクル・ウィップって、結構ヤバイ武器だから、あれを使い
少年神がありがたい助言をくれた。打撃力が強力になった分銅鎖くらいの感覚で使っていたが、どうやら使い
「水魔法と・・分かりました。色々と試してみます」
『君にあげた"文明の恵み"が練度マックスで、次の段階になったから楽しむと良い』
「文明の・・?」
『魔法陣の・・刺青だよ。便所とお風呂』
「ああっ・・あれは本当に助かっています!」
シュンは勢いよく頭を下げた。
『ふふふ、なんだか、一番の感謝を感じるよ』
「本当に、心の底から感謝しています」
『ありがとう! そこまで喜んで貰えると、神としても嬉しいよ! 施設が広くなって、立派になったからね。飲料の自動販売機も設置したから楽しむと良い』
「自動販売??」
知らない言葉だ。
『利用してみれば分かるさ。お金を払えば、異世界の飲み物が手に入る魔導の仕掛けだね。購入した飲料は外には持ち出せ無いし、1日3回しか利用できないって制限があるけど』
「・・異世界の?」
『たぶん、双子ちゃんは泣いて喜ぶよ?』
少年神が意味ありげに笑った。
「ありがとうございます。苦労させているので嬉しいです」
シュンは素直に礼を言った。
『あははは・・双子ちゃん達は苦労だなんて思ってないでしょ。なんだかんだで楽しんでいるんじゃない?』
「結構、危ない瞬間もありました」
『そりゃそうさ。どうやったって安全なまま戦うなんて出来ないよ。特に、11階から先は色々と危険が増える』
「・・あの2人は、迷宮に居る間は不老なのですよね?」
安全に迷宮を攻略していくためには、ゆっくりと時間をかけて地力をつけていく方が良いのだが、アキラ達が10階までに数年単位の時間をかけているのを知って、双子の将来が気になっていたのだ。
『っていうか、迷宮に入ったら、異邦人も原住民もみんな不老だよ?』
「えっ!? 俺も? 歳を取らないんですか?」
『当たり前じゃん。迷宮の中では肉体の老化は起こらないよ? 言わなかったっけ?』
「・・初耳です」
『あはぁ・・ごめ~ん、忘れてた? 伝えたものとばかり思ってたよ』
少年の姿をした神様が頭を掻いた。
「私が斃した男に、どう見ても16歳では無い者が居ましたが?」
1階で狙撃をしてきたパーティの中に、20代前半くらいの男が混じっていたはずだ。あれを16歳というのは無理だろう。
『ああ、地下階に時間をかけ過ぎたんだね。正確に言うと、迷宮の始まりは1階からなんだ。地下の階は迷宮に含まれないんだよ』
「そうなんですか」
『ええと・・それから、迷宮人ね。気がついていると思うけど、あれは君達を邪魔するために生み出されたんだ。生きていた時の武器、防具を身につけていて、技能や魔法なんかも使える。ついでに言うと、異邦人を狩ることで経験値を稼いで強くなる』
「なるほど、そんな感じでした」
シュンは、美形の狙撃手を思い出しながら頷いた。あいつは危険だった。
「異邦人を殺す以外では経験値を稼げないんですね?」
『そうだね。他に手段は無い』
そういう事なら、急激に強くなることは無さそうだ。
「・・彼らは魔物なんですよね?」
『魔物さ。聖属性の術でしか救えない呪いがかかった魔物だね』
「ドロップ品がありませんでした」
『そりゃそうさ。最初に死んだ時に失っているんだから。証拠に討伐メダルというのを落とすけどね』
少年神が苦笑する。
「そういう理屈ですか。納得しました」
『さて、君は宵闇の使徒だったね?』
「ボダーナ教会に通って気配断ちの技能を学びました」
シュンの事をどこまで見ているのか、幼い頃に狩りに役立てようと、ボダーナ教会に隠形の技を習いに通った事まで知っていた。
『ボダーナって神は居ないんだけどね。宵闇だから・・・何だろう、破壊神なんかを想い描いてるのかな?』
「厄災の神だと・・ボダーナ教会では司祭が喧伝していますね」
あの教会の経典は誰の作品なのだろうか。
『あははは、神に厄災とか・・役割分担なんか無いのにねぇ。ああいうのは、その時の気分やノリだから』
「それが知れたら、国中のボダーナ教会が潰れてしまいます」
シュンも釣られて笑みをこぼした。
『それも面白そうだけど・・まあ良いや。
少年の姿をした神様が、シュンに向けて手を振ると、聖印棒金が1本浮かび上がった。
「ありがとうございます」
シュンは礼を言って棒金を受け取った。
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