第25話 ショッピング
剣帯と短刀、傷薬に毒消し、HP薬、MP薬という薬も購入した。他は松明と獣脂、干し肉や乾燥豆などの保存食、小鍋を3つ、鉄串や鉄板、鉄網、水の入った木樽など買った端から、ポイポイ・ステッキで収納していく。
「あえて言おう!」
「最強であると!」
双子が何やら威張っている。
収納した食べ物が腐敗するかどうか確かめるために、果物や野菜、生肉、塩の他、香辛料も揃えてみた。
「服は直して貰ったのか?」
双子が襟や袖口に装飾が付いた小綺麗な白いシャツと紺色のスカートを身につけて、黒い革のサンダルを履いていた。
「魔法の糸」
「着る人にぴったり」
魔法生地の衣服や鎧があるのは知識として知っているが、非常に高価で庶民には手が出せない物だ。外で稼いだお金に物を言わせたらしい。
「魔法生地の衣服が売っているだけで驚きだけどな」
「破れた服も直してくれた」
「綺麗に洗ってくれた」
外で着ていた服は、古着の丈を直した簡素な物と、異邦の学校で着ていた衣服だった。それらを魔法で修復して洗浄して貰ったそうだ。
「綺麗だけど、その格好だと戦え無いぞ?」
「野戦服を買った」
「長袖、長ズボン」
「なら良い。これから防具を揃えるから、一度、その野戦服というのに着替えてきてくれ」
「了解した」
「承知した」
双子が軽やかに駆けて宿へ入って行く。
シュン自身は、すでに厚地の長袖長ズボンを身につけている。他は元から持っていた物だけだ。
(買うなら、鎖を縫い込んだ上着に、革鎧かな・・重いと動きが悪くなる)
防具について考えていると、着替え終わった双子が駆け戻って来た。見ると、シュンが着ている衣服と似通った上下で、編み上げの長靴を履いている。特に助言をしなかったが、暗い茶色い色を選んでいた。
「大丈夫そうだ」
奥行きのある店内に、革や甲皮、金属片、鎖編みなど、様々な種類の鎧を着せた木人形が並んでいた。
「あら、お客さん?」
奥で木人形に着付けをやっていた女がシュン達に気がついて近づいて来た。
すらりと背丈があり、胸元は豊かに実り、腰はぎゅっとくびれ、スカートの丈はとても長い。背で髪を無造作に束ね、化粧気は無いが、目鼻立ちのハッキリとした柔和な雰囲気がする美貌だった。
唯一の違和感は、前髪の生え際、額の左右に黒い角が生えている点くらいだ。
「完・全・敗・北」
「勝ちを知りたい」
双子が何やら
「動いても音が響かず、軽い物で、一番良い鎧を見せて欲しい」
シュンは店内の品を見回しながら言った。
「表に金属が出ていない物が良いですね。下に鎖帷子を着ますか?」
「動きが妨げられない物があれば・・」
「魔鋼の品と、聖銀の品がありますよ。上にグリフィン革か、小龍鱗の鎧を合わせれば強度は十分でしょう」
「大きさは合うのかな?」
「全て魔力で創作した品です。寸法は着用する方に合う仕組みです。多少の傷みなら魔力を糧に修復されますし・・ああ、兜もあった方が良いですね。石喰い鳥の
女があれこれ品名を口にしつつ、店の奥へと足早に去って行く。
「これは、懐クライシス」
「きっと災害級の値段」
「まあ、聞くだけ聞いてみよう。足りなければ、それを目標に稼げば良いだろう」
シュンは小さく笑った。命を守る物だから、手に入る一番良い物を選ぶべきだ。
・
・小龍鱗の胴鎧
・小龍鱗の足甲
・小龍鱗の肩甲
・小龍鱗の腕当て
・小龍鱗の手甲
・グリフィンの革手袋
・グリフィンの革脚絆
・石喰い鳥の嘴兜
・火喰い蜥蜴の革外套
・森乙女の肌衣
・闇衆の半面甲
・闇衆の
ズラリと並べられた品々をまえに、シュンは軽く眼を細めて逸品の造形を眺めていた。どちらかと言えば、職人達は武器造りに偏重し、雑な造りの防具類が多い中で、目の前に並んだ品々は精緻に作り込まれた逸品ばかりだった。
「眼福・・これに尽きるな」
シュンは素直な感想を漏らした。
「ふふふ・・これ以上の品は、特異な魔物がドロップするか、希少な宝箱から運良く出るか・・お金で購える最高の品々だと断言しますよ」
女が胸を張った。
「一式総てで、幾らになる?」
シュンが訊くと、女が腕を組んで僅かに眉をひそめた。
「10万デギン・・ね」
「分かった。では、3人分で30万デギン支払う」
シュンは聖印棒金を3本取り出した。
「あ・・貴方、それ・・えっ!?」
女の目が大きく見開かれ、顔から血の気が退いていく。
「この町に来る前に狩りで得た。不正をして手に入れた訳じゃ無い」
「い、いえ・・それは、そんな事は・・と、とにかく、一度お金を仕舞って下さい!」
「分かった」
「まず謝罪します。10万デギン頂戴するなら、これらの品よりも良い品がいくつかあります。肌衣から騎士服、甲冑まで最高の物をお持ちしますので少しお時間を下さい」
「分かった。ここで待たせて貰って良いか?」
「もちろんです」
女が長袖の腕を捲り上げながら小走りに奥へ去って行った。
「ボス、ユアの軍資金が枯渇」
「ボス、ユナは財政破綻」
魔法糸で作られたシャツやスカートなどを何着か買ったらしく、かなりのお金を使ったのだろう。
「良い装備は必ず必要になる。多目に分配されたし、ここは俺が払う」
シュンは気にしなくて良いと笑った。元々、着の身着のまま、山の中で狩猟して暮らしていたのだ。大金を持っていても、これと言って使い道を思い付かない。
「ちゃんとお金分働く」
「身を粉にする」
「頑張るのは良いが、とにかく死なないようにしてくれ」
そう言いながら、シュンは奥の扉前に出て来た女に目を向けた。どうやら、奥へ来いと言っているらしく手招きをしていた。
誘われるまま奥にある部屋へ通されると、
「これは・・凄い」
思わず感嘆の声が漏れた。
「初めに申しますと、これら総ての品に、
「総て魔法が付与された品なのか」
「基本的には、先程お見せした品の最上位に当たる品です。どんなに破損しても、汚れても、時間が経てば新品同様に直ります。耐久性も高いですから破損させるのも難しい物ばかりですが・・・」
・神銀鎖の鎖帷子
・魔龍鱗の胸甲
・双魔角の額当て
・古代竜皮の騎士服
・古代竜皮の長靴
・泉聖女の肌衣
・契印装備の腕輪
「これに、先程お見せした内の"小龍鱗の足甲" "小龍鱗の肩甲" "小龍鱗の腕当て" "小龍鱗の手甲" "グリフィンの革手袋" "火喰い蜥蜴の革外套"を合わせて頂きます。そして、こちらの"ディガンドの爪"という腕輪を・・これは魔法の楯を生み出す魔導の腕輪です。手の平を向けた場所に浮かんで出現します。浮いていますので、重量は感じませんし、衝撃を覚える事もありません」
女が丁寧に説明してくれた。
「3人で30万デギン。これ以上は払えないが?」
シュンが念を押すと、
「十分ですよ」
女が笑った。
「そうか。なら、遠慮無く・・」
シュンは、聖印棒金を3本取り出して女に渡した。
「確かに受け取りました」
女が低頭する。
「血契印の魔導になります。裏に魔導紋がございますから、ごく少量で良いので、それぞれの品に皆様の血を付着させて下さい」
女の説明を受けながら、小刀で親指に傷を入れて帷子や胸甲の裏にある魔導紋に血を付けていく。
「ああ・・騎士服と肌衣は血契印装備ではありません。そちらに着替えの間がありますから、まずは肌衣、そして騎士服を着て、こちらへお越し下さい」
「ユア、ユナから着替えて来い」
「ガッテン」
「ショウチ」
2人が泉聖女の肌衣と紺色の古代竜皮の騎士服を両手に抱えて、垂れ布の向こうへ入る。すぐにピタリと身体に合った騎士服で身を固めて出て来た。
「細身のズボンがぁ~」
「足長コーデぇ~」
双子が意味不明な事を言いながら、両手を拡げてくるくる回ってみせる。
続いて、シュンも着替えて戻って来た。
「では、こちらの腕輪・・契印装備の腕輪を
女に言われるまま、黒い細鎖のような物を右手首に着けた。するすると縮んで、手首に触れるか触れないかの大きさになった。
「その腕輪は、これから装備して頂く、血契印の装備を記憶する魔導具です。その腕輪により装備品の脱着が自在に出来ますので、非常に便利になります」
「何その神性能」
「嬉し過ぎて気絶しそう」
「まずは足下から・・」
女に手伝って貰いながら、一品ずつ身につけていく。鎖帷子の上から胸甲を着けると、後は"双魔角の鬼鉢金"だけになった。斜め後ろへ反った2本の角が生えた額当てで、白磁器のような質感の物が、耳の前を抜け、もみあげの辺りから下顎を挟むような形をしていた。色は真っ黒である。
「これだと、側頭部、後頭部は丸出しになるな」
襟首など騎士服の襟だけでは不安になるが・・。
「ご心配には及びません。見た目はそうですが、ちゃんと護られております。金属の重兜より高い防御力ですから」
「そうなのか」
シュンは、双子を見た。黒い角を生やした小鬼2匹が何やら言いたげな顔でこちらを見ている。
「・・一番性能が良いんだよな?」
「はい。当店の頭防具としては最高の防御能力です」
「そういう事らしい」
シュンは双子に言いながら、グリフィンの革手袋の上から腕輪を触った。
特に何も起こらなかったが、
「脱ぐことを念じてみて下さい」
女に言われるまま、意識を集中すると、ふわっ・・と身体を包んでいた装備が消え、騎士服姿になっていた。
念のため、着ることを意識して腕輪に触れる。
今度は一瞬にして、鎧一式を装備した状態に戻っていた。
(これは使える!)
脱ぎ着に時間がかからないというのは、とても有り難い。
双子には不評みたいだが、鬼鉢金も気に入った。視界は遮られず、音も良く聞こえる。それでいて、頭部から襟元まで護られているというのだから言う事は無い。
「旅の無事をお祈りしております」
女に見送られて、シュン達はそのまま転移門を見に行った。
噴水池を挟んで一つずつ、石柱があり、甲冑姿の骸骨が護っていた。
「地下へ行きたい」
「なら、この門だ。1パーティ、50デンだぞ」
甲冑姿の骸骨が手を差し出す。骨の指の上に50デンを乗せると石柱の前に水色に光る姿鏡のような物が浮かび上がった。
「行ってみよう」
シュンは踏み込んでみた。
(・・なるほど)
高さ3メートル、幅5メートルほどの通路に出た。壁も天井も岩肌がゴツゴツとした洞穴のようだ。小柄な者なら身を隠せそうな窪みが、壁にも床にもあるようだ。
「護目、護耳」
シュンの指示に、
「アイアイ」
「ハイサー」
双子が緊張した声で返事をした。
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8月18日、ちょっとお試し修正。
ディガンドの爪という指輪 → 腕輪に。
(また戻すかもしれません)
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