第26話 連携訓練

「魔物は見つけ次第、攻撃する。俺に撃たれても死なない敵、撃ち損なった敵が居たら、ユアの閃光で足止め。後退しつつ銃撃。ユナは様子が分かるまで松明係りだ」


「ユア、了解」


「ユナ、了解」


 双子の返事を聴きつつ、シュンはVSSを手に、購入してあった松明に火打ち石の火花を散らせた。獣脂と草汁を混ぜたものが獣の皮に染み込ませてあるらしい。火の着きは良いが、少し黒い煙が出ている。臭いも強めだ。


(これは魔物が寄るな)


 攻撃性の高い魔物なら、離れた場所からでも臭いを嗅いで向かってくるだろう。


「これ・・便利!」


「マジックミラー」


 ユナとユアが"ディガンドの爪"を使って楯を出現させていた。


 方形の大ぶりな騎士楯ナイトシールドだった。名前の由来は、ディガンドという巨人の爪・・なのだそうだ。言われてみれば、人の爪のような形にも見えるが・・。

 長辺は120センチほど。幅は広い部分が80センチくらいか。狭い部分で50センチ程度だろう。

 表面は黒っぽく見えるが、裏側からは向こうが透けて見えるらしい。


 ユナが楯を正面に浮かべて、松明を手に先頭を歩く。真ん中に、同じく楯を浮かべXMを握ったユア。最後尾のシュンは、楯は出さずにVSSだけを手にしている。


(これは、射線が通らない。接近戦になるな)


 洞窟が右へ左へ曲がり、遠距離から向こう側を見透せるような場所がほとんど無かった。こうなると、狙撃を想定しての動きは封じられる。


(弾数が増えたのは良かった)


 50発という弾数は気持ちに余裕が持てる。


「止まれ」


 短く声を掛ける。双子が反応良く足を止めた。

 直後、斜め上方、天井を這っていた蜥蜴らしき魔物をVSSで撃った。頭部に2発。それで蜥蜴が黒っぽい粉状に崩れて消えていった。代わりに、足下へ赤黒い皮が落ちてくる。最寄りのユアが、ポイポイ・ステッキで吸い込んだ。


(1発で良かったな)


 初弾のダメージポイントが988だった。今の蜥蜴はHPが988以下だ。


「進もう」


 シュンの指示で、先頭のユナが歩き始めた。


「止まれ」


 声を掛けつつ、シュンは上方めがけて3連射した。

 蜥蜴が3匹、頭を撃ち抜かれて消えて行く。今度は長いピンク色の舌と皮が2枚落ちて来た。すかさず、ユアがポイポイ・ステッキで吸い込む。


「ぁ・・」


 珍しく、ユナが小さく声をあげた。この双子、普段はともかく、こういう時には無駄口は一切たたかない。


「どうした?」


 シュンは小声で声を掛けた。


「表示に変化」


 正面に楯を構えたまま、ユナが手の甲を示す。


「・・なるほど、これが経験値?」


 シュンの左手・・小龍鱗の手甲の上に、表示されている文字に、新たな表記が追加されていた。



<1> Shun (60/500exp)

 Lv:1

 HP:917

 MP:652

 SP:9,999

 EX:1/1(30min)


<2> Yua

 Lv:1

 HP:256


<3> Yuna

 Lv:1

 HP:256



(名前の横の、これか? 蜥蜴4匹で、60・・1匹15ということか)


 なるほど、迷宮というのは何でもかんでも数字で表示される場所らしい。


「進もう」


 シュンの声に促され、ユナが歩き始めた。


「分岐」


「別れ道」


 双子が伝言ゲームのように声を送ってくる。


「敵影は無い。ユア」


「アイアイ」


 ユアが地図係りだ。


「転移場所の正面を12時とする。23メートル歩いた。蛇行したが、ほぼ12時を直線だ」


「了解」


 シュンの声を聴きつつ、ユアが手帳に描き込んでいく。


「描いた」


「よし、左へ進もう」


「了解」


 ユナが歩き始めた。


 シュンは後方、上方へと銃口を巡らせつつ、分岐の右側の通路に聞き耳をたてた。その間に、双子が左側の通路の中へ松明を翳している。


「進もう」


 シュンがうながし、ユナを先頭に左側の道へ踏み入る。

 これまでより狭くなり、道はなだらかに下り始めた。


「止まれ」


 シュンは斜め右の岩壁に向けてVSSの引き金を絞った。

 岩肌に跳弾するかに見えたが、岩の一部が剥ぎ落ちて黒い粉になって消えて行った。

 川などにいる巻き貝のようだった。

 ドロップしたのは、白っぽい肉片だ。ユアがポイポイ・ステッキでそっと吸い込んだ。


「進もう」


「先が開けた」


「広場」


 双子が囁く。


「・・・何か集まって来ている」


 どうやら通路から広場に入る辺りに魔物が来ている。光に気付いたのか、有るか無しかのVSSの射撃音を聞き取ったのか。


「ユナは松明を、ユアはXMを放り込め。同時で良い。その後は2人で後方警戒」


「ラジャー」


「ハイサー」


 シュンの指示を聞くなり、ユナとユアが連れ立って通路を走るなり、松明と閃光手榴弾を広場めがけて放り込んだ。そのまま後も見ずに駆け戻ってくる。入れ違いに、シュンが前に出た。


 XM84が炸裂し、鼓膜を破る炸裂音と失明するほどの閃光を放つ。


犬鬼コボルトか・・7匹)


 通路から身を乗り出し、床に片膝を着いた姿勢で、VSSで撃ち殺していった。物音というより臭いで気付いたのかもしれない。


 閃光が鎮まり、松明が床で燃える広場を見回し、


「大丈夫だ」


 シュンは広場へ進んだ。後ろをポイポイ・ステッキを手にユナとユアが駆けてきて、毛皮や牙、爪を収拾していく。


「分岐から、9時に15メートル。広場奥まで30メートル。広場の幅は・・12時方向に20、6時に12。他に通路無し」


「アイアイ」


 ユアが手帳に描き込む。



<1> Shun (285/500exp)

 Lv:1

 HP:917

 MP:652

 SP:9,999

 EX:1/1(30min)


<2> Yua

 Lv:1

 HP:256


<3> Yuna

 Lv:1

 HP:256



犬鬼コボルトは1匹30、さっきの貝が15だな」


 シュンは少し考えて、


「この広場で犬鬼コボルトが生み出される瞬間を見てみよう」


 神の言う通りなら、時間の経過で魔物が湧く・・ポップするはずなのだ。


 途中で見かけた天井を這う蜥蜴や貝などは、広場には見当たらなかった。


 通路を背にするのは怖いので、広場のやや奥まった場所へ陣取って、その時を待つことにした。すでに松明も消えて暗闇に包まれている。

 ユアとユナはそれぞれ手榴弾を手にいつでも安全ピンが抜けるように身構えていた。


(正確な時間を知りたいな)


 シュンは銃弾が補充されていくVSSを手に立ったまま、ぼんやりとした視線を広場へ向けていた。


 感覚で、5分ほど経った頃、青白い光が床から揺らぎ立ち、犬鬼コボルト7匹、広場の中央に姿を現した。


「ユア」


 すでにピンを抜いていたユアが閃光手榴弾を放った。


「ユナ」


 やや時間をおいて声をかける。

 閃光と轟音が炸裂する中、ユナが耳目を押さえて悲鳴をあげる犬鬼コボルトめがけて衝撃手榴弾を放った。軽く下がって楯を正面に身を低くする。


 シュンはやや離れた場所に居た犬鬼コボルトの頭を吹き飛ばした。衝撃手榴弾が爆ぜ、4匹が即死して消える。残った犬鬼コボルトを射殺し、すぐさま収納から懐中時計を取り出した。

 町で購入した高級時計だ。これほど小型な時計は貴族だって滅多に持っていない。


「松明を使って良い?」


「ドロップ拾う」


 いて来た双子に許可を出しつつ、シュンは懐中時計の文字盤を目で追った。すでに闇に目が慣れ、シュン自身は松明が要らなくなっている。


 ユナが火打ち石を打って松明に火を灯した。

 すかさず、ユアと共にポイポイ・ステッキを握って走り回る。戻って来るなり、火が着いたままの松明までポイポイ・ステッキで吸い込んだ。


「実験」


「節約できるかも」


 双子が説明した。


「なるほど・・その発想は無かったな」


 シュンは素直に感心した。


「そろそろ5分」


 シュンは広場と懐中時計の文字盤を等分に見ながら呟いた。


 果たして、再び広場の中に青白い光が立ちのぼった。


「えっ!?」


「多っ!?」


 ユアとユナが思わず声をあげた。


「ユア、3つ連続してXMを」


「ハイサー」


「ユナ、出来るだけ遠くへ」


「アイアイサー」


 2人の緊張した返事を聴きながら、シュンはリビング・ナイトを召喚する魔法を使った。


 犬鬼コボルトのポップを表す青白い光は広場を埋め尽くすほどの数だった。すぐ真横にもポップして来る。


 ユアが右へ左へと閃光手榴弾を放り投げ、ユナも衝撃手榴弾を投擲する。


 床に描き出された魔法陣が輝きながら回転し、2メートル近い大きな甲冑が現れた。胴鎧から下は無く、宙に浮かんでいる。鉄のような鈍色をしている。右手には大ぶりの長剣、左手には方形盾を持っていた。


犬鬼コボルトを殲滅しろ!」


 命令をしながら、短刀を抜きざま、双子を横合いから狙う犬鬼コボルトを斬り伏せる。


 閃光手榴弾が弾け、耳をつんざく炸裂音に犬鬼コボルトが苦鳴をあげる。閃光が視界を潰す。衝撃手榴弾が死を撒き散らす。そこへ、リビング・ナイトが斬りかかる。


 たちまち、近場にポップした犬鬼コボルトを片付け、


「ユア、ユナ、楯を構えて待機」


 シュンはVSSを構えて片っ端から犬鬼コボルトを撃ち殺していった。


「怪我は?」


 VSSを構えたまま双子に訊ねる。


「ナシ」


「ナシ」


 双子が楯に身を隠したまま、きょろきょろと視線を左右させている。視線の先を、リビング・ナイトの巨躯が飛び回って、犬鬼コボルトを殺戮していた。


(召喚している間もMPが減るんだな)


 シュンは、じりじりと減っていくMPを見ながら、残る犬鬼コボルトの数を数えていた。80匹近い数の犬鬼コボルトをほぼ殲滅し、残るは7匹だけだ。


「リビング・ナイトを送還っ!」


 リビング・ナイトに命令しつつ、残る7匹を撃ち斃す。視界の隅で、リビング・ナイトが光る粒になって消えて行った。


 残るMPは89。


 召喚の魔法はずいぶんとMPの消費が早いようだ。

 シュンはMP薬を飲んだ。


「松明?」


「ドロップ?」


 双子が訊いてくる。


 その時、何の前触れも無く、広場の中央に湧き出るようにして巨体が現れた。


 巨大な犬鬼コボルトだった。


「ユア、ユナ」


 シュンの声に反応して、ユアがXM84を巨大な犬鬼コボルトめがけて放り上げた。身の丈が3メートル近い巨躯の頭上すれすれへ、XM84が落ちて行く。

 ユナが足下を狙ってMK3A2を投擲していた。

 互いに意図するところが合った見事な連携だった。


 出現して間も無い巨大な犬鬼コボルトが、こちらに気が付いて顔をねじ向ける。その鼻面で、ユアの閃光手榴弾が炸裂した。



ギャオォォォーーーン・・・



 巨犬鬼コボルトの悲鳴が広場に響き渡る。直後に、足下で衝撃手榴弾が爆ぜた。



ギャガワッ!



 短く苦鳴をあげて巨大な犬鬼コボルトが床に倒れ込んだ。


「ハンドレッド・フィアー!」


 シュンは自身正体不明のEX技をここで使用した。


 何が起こるのか・・。


 VSSを構えたまま息を殺していると、倒れて足掻あがいている犬鬼コボルトの巨体を包むようにして薄い紅色の光が上から照らされ、ぞっとするほど巨大なが舞い降りて来た。


「カッ!」


「かぁ!」


 双子が悲鳴を呑み込む。


 下手をすると倒れている犬鬼コボルトより巨大かもしれないがふわりと犬鬼コボルトの上に舞い降りると、おもむろに口器で犬鬼コボルトの背を突き刺した。

 みるみる、巨大の腹部が膨れていく。


 それと同時に、シュンの身体を赤黒い光が包み、強く弱く点滅を始めた。


(なんだ?)


 いぶかしく思いながらも、とにかく犬鬼コボルトを攻撃するしかない。EX技の効果はさっぱり分からないが・・。


 シュンは、VSSで犬鬼の太い喉、首筋、腹部・・骨に当たらないだろう場所を狙って撃った。


(えっ!?)


 999のダメージポイントが跳ねた。撃った数だけ、当たった銃弾すべてが999ポイントだった。これは普通じゃ起こりえない。


 理屈は分からないが、EX技による効果なのは間違いない。

 シュンは残弾すべてを撃ち込んで行った。


 ややあって、巨大なが空気に溶けるようにして消えて行き、犬鬼コボルトを照らしていた紅色の光が消えた。


(動けない・・麻痺か?)


 巨大な犬鬼コボルトが身を震わせて低く唸っているが震えるばかりで手足が動いていなかった。


「ユア、ユナ!」


 双子に声を掛ける。

 もう、ここで圧しきるしか無い!


(こっちは弾切れだ)


 シュンはVSSを収納して、分銅鎖を取り出した。

 ユアが閃光手榴弾を鼻面めがけて放り、ユナも頭を狙って衝撃手榴弾を放る。


 シュンは2つの手榴弾の爆発に合わせて走った。麻痺の呪縛が解けたのか、跳ね起きた犬鬼コボルトだったが眼と耳をやられて苦悶するばかりだ。


 シュンは、楯を正面に浮かべながら、分銅鎖で犬鬼コボルトを打ち据えた。空中で分銅の鎖が5本に分裂して犬鬼コボルトの手足に巻き付いていった。力を込めた訳では無いが、眼を押さえ暴れようとする犬鬼コボルトの巨体がびくとも動けずに拘束されている。


「ユナ!」


「ハイサー」


 ユナが衝撃手榴弾を放る。このMK3A2の爆発が止めとなった。

 巨大な犬鬼コボルトが膝から崩れ落ち、重々しい地響きを立てて床に転がった。


 その時、青白い光が7つ床から立ちのぼった。


 次のポップが始まったらしかった。


「ユア、XMだ」


「アイアイサー」


 ユアの返事を聴きながら、シュンは腰の短刀を引き抜いた。

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