第8話 面食らう
時間の問題だな。
正直詠美(えいみ)との関係には先が見えない。
彼女は俺との結婚を信じて疑わないような面倒な女ではないので、末永く一緒にいられるかもしれないと思っていたが、最近友達に子供ができたなどの家庭的な話を振られると一目散に逃げてしまう自分がいる。
ドライで付き合いやすい女だと感じていたが、周りに独り身が少なくなり始めて怖気づいたのだろうか・・。
先日詠美の顔色が優れないときがあった。
普段あまり感情を表に出さない彼女がため息をついてはつらそうな表情をした。
「具合でも悪いのか?」
「うーん、ちょっと胸やけがするだけ」
そう言うと彼女は黙り込んでしまった。
まさかと思った俺は思わず直立不動になってしまった。
「なにか悪くなったものでも食べたんじゃないか?」
思い違いであってほしい。
「うーん、風邪気味なだけかも・・」
「そ、そうか。横になった方がいいんじゃないか?それとも家まで送ろうか?」
仮に詠美が妊娠などしていたら大問題だ。
もし彼女が自分の子供を産んだとしても、父性本能が芽生えない自信が俺にはある。
「・・・。家まで帰る体力ない」
詠美は強がっている人間特有のピリピリとした雰囲気を出しながら、やっとのことで腰を上げた。
「三上(みかみ)は田舎くささがなくなったよね」
常連が多くいそうな飲み屋で、よりにもよって杉本詠美に会ってしまった。
「大きなお世話だよ」
今日は一人でしっとり飲もうと思っていたのに、先ほどから彼女のペースだ。
「高校のときはなんか余裕がなさそうだったけど、今は一応それなりの社会人に見えるわよ」
褒められているのか、よくわからない。
「充希(みつき)に追いかけられてるあんたを目にすると、時々気の毒に思うわ」
「他人事だと思って・・。杉本から椎名に俺のもとをそろそろ離れるように言ってくれよ」
俺はうなだれると、無関係みたいに言うなとぼやいた。
「私は一応充希の友だちだから、二人を見守っていくしかないのよ」
「ずっとそうやって椎名を静観してきたのか?」
杉本はどうかな~と言うとよくも自分を巻き込んでくれたなと言った。
そして酒でハイになっているのか、不思議なことを言い出した。
「充希の本当の目的はあんたを手に入れることじゃないかもよ」
「えっ?」
顔をしかめる俺に杉本は好きなフリをしているだけかもとにやりと笑った。
「なんだよ、それ」
「真綿で首をしめるように、ゆ~っくりと三上を痛めつけようとしてるのかも」
「・・・・・・」
今日はノーネクタイなのに、息苦しくなってきた俺は唾をごくりと飲んでシャツのボタンを一つ開けた。
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