第7話 萌芽
「俺も昔そんな女に目をつけられたことあったなぁ」
愉快そうな顔をした敦(あつし)は充(みつき)の話を聞いた後にそう呟いた。
「最後の方はもう気が狂いそうだったけど、その三上(みかみ)くんとやらはよくおかしくならないな」
第三者としては面白いが、大変そうではあると私は言った。
「実は嫌いってわけじゃないんじゃないか?」
そう言いながらも敦は今日行く予定の店のドレスコードを気にしてクローゼットのスーツを物色している。
「右の方がなんか好き」
自分の意見を言いながら、今晩はひとりぼっちだなと少し寂しくなる。
「俺もそう思った♪」
「今って結構忙しいの?」
彼はそうだなと言うと、せっせと働いて詠美(えいみ)の元に飛んで帰ってくるよと目配せした。
充は出会う人全てに好かれる必要がないことをわかっている。
「あの子は自分の力で生きていけるからなぁ」
私も人からの評価をあまり気にしない方だが、彼女のように自分が信じた道を行けるだろうかと疑問に思う。
恋愛に全力を出すなんて自分のプライドが許さないというか、ついつい自分をコントロールしてしまって守りに入ってしまう。
そもそも私は充と気が合うわけでもないのに、どうしてずっと一緒にいるのだろう。
私自身も充という人間に取り憑かれているのかもしれない・・・。
「充ちゃん、完全に主導権を握ってたよな」
三上(みかみ)に話しかけると、彼はまるで今夢から覚めたような顔をしてはっとした。
「お、おう」
「昨日は悪かったよ。頃合いを見計らって俺と杉本さんは帰ろうと思ったんだけど・・・」
三上は彼女全部お見通しだったなとため息をついた。
「まあ、あんな会社から離れた店で偶然顔見知りにあうわけないもんな」
「
肩を落とす三上の背中に俺は片腕を回すと、彼女のことで頭がいっぱいということは、実はお前も好きなんじゃないの?とからかった。
「おまえさあ、力になるとか言ってやっぱり面白がってるだけだろ」
そんなわけないだろうと言いながらも内心、こいつのようなうだつの上がらないヤツのどこに椎名充は固執しているのだろうと疑問に思った。
きっと彼女の神経を逆撫でするようなことをやったのだろう。
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